第2期兵庫県県民生活審議会答申(要旨)

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第2期兵庫県県民生活審議会答申「真の成熟社会をめざして」―生活創造の新たなルールづくり―

(要旨)
はじめに
 兵庫県県民生活審議会では、平成5年8月、「生活重視社会」を構築するために、「生活者」としての視点を重視した「生活創造活動」をはじめ、生活を取り巻くさまざまな経済社会全般にわたるシステムの変革が必要であるとの提言を行った。
 また、県行政組織も、「生活創造課」への変更をはじめ、生活創造センター構想の推進など県民の生活創造に対する支援体制が整えられつつある。
 阪神・淡路大震災での安全や生活の保障といった生活の基本への問いかけとともに、多くのボランティアの目ざましい活躍という背景のもと、生活重視の社会づくりに向けた県民のあるべき姿についての諮問があり、「自由」と「責任」とを基本理念とした今後の成熟社会への展望を答申としてとりまとめた。

第1部 成熟社会における市民意識・社会参加のあり方
第1章 経済的成熟の時代
1経済的な豊かさは実現したが
 戦後、経済的にめざましく成長したわが国は、インフラ整備もかなりの程度整備され、豊かな生活のための条件がある程度進んだ。しかし、今後は、今までのような経済的な成長が望めない時代となることも予想され、経済的なパイの拡大を前提とした社会像を描くことは難しくなっている。
 多くの人々も現在の生活に満足しながら、健康、老後、収入といった将来の生活に関しての悩みや不安を抱いており、それは大きな成長が望めない社会となると言われていることへの不安や社会の先行きが見えないためではないだろうか。

2「真の豊かさ」が実感できる社会の実現
(1)「豊かさ」の現状と課題
 現在の社会は、前回の答申でも提言している豊かな生活の前提となる基盤はまだ確立できていない。この現状と課題を「4つの豊かさ」ごとに整理すると次のとおりである。
@「空間の豊かさ」
 過密化が進展する中での、都市空間や住生活におけるゆとりを確保する。
A「人間関係の豊かさ」
 大震災を機に大きく芽生えた人と人との絆の大切さ、わかちあいの心やボランタリー活動などの新しい芽を大切に育てていく。
B「時間の豊かさ」
 時間の使い方の選択幅を広げられるよう、自由時間の多様な利用法を提示する。
C「モノ・サービスの真の豊かさ」
 自らの手で適正なモノ・サービスを見極める力を育て、本当に必要なモノ・サービスを選択する。
(2)「真の豊かさ」を実現するための「市民」の役割
 今後は、物質的なものだけではなく、「こころの豊かさ」をも含めた「真の豊かさ」を求めることが必要であり、「真の成熟社会」を実現するために「市民」の役割が問われることになる。
 ここでいう「市民」とは、一人ひとりがお互いの生活の中で、個人個人を大切にし、自ら自立的であるとともに、自分の行動について責任を負うという姿勢をもつ者であり、地域社会を構成する一員としての自覚と社会的な責任をもって行動することができる者である。「真の成熟社会」を実現するためには、「市民」としての意識(=市民意識)を備え、自分の行動に責任を持ち、社会の一員として積極的にその役割を果たし、周りの人々と助け合い、支え合っていくことが求められている。

第2章 成熟社会に向けての課題
 今後の社会が大きく変わって行くには、「市民」が生活創造活動を行えるかどうかにあり、地域において「市民」が活動するために、次のような課題を解決しなければならない。
1 新しい市民意識を実現するための課題
(1)「主体的・能動的な行動の前提としての情報」
 「市民」が主体的に責任ある選択を行えるよう、企業、行政等が積極的に自らの情報を「市民」にわかりやすく開示するとともに、必要とする個人に容易に届くシステムをつくるなど、プライバシーの保護にも十分配慮して、「誰に対しても開かれた社会」を実現していかなければならない。
(2)「選択の自由」
 個人が入手した情報に基づき、自らの進むべき方向を選択しようとしても、現在の社会における制度的、社会的、慣習的な枠組みの下では、制度やサービス等の選択肢が生活者の視点に十分配慮していないため、狭い範囲での選択しかできない。このため、個人の選択の機会を広げ、豊かな生活を実現するためには、「市民」側から積極的な働きかけを行い、制度の見直しや社会的な意識の醸成等を図っていく必要がある。
(3)「社会的な規制・保護の見直し」
 主体的な行動から生ずる結果は、選択した個人に帰するという「自己責任原則」と、その行動が周囲の人々、社会、環境などに及ぼす影響を十分配慮する「社会的責任」を果たす必要がある。個人は規制・保護といった制度等によって、ある程度保護されてきたが、時代の変化とともに、逆に個人の選択の幅を狭め、責任の帰結をあいまいにしている面もある。そのため、選択における責任の所在を明確化にし、規制や保護制度のそれぞれの必要性を見直していく必要がある。

2 実現すべき社会的基盤
(1)「環境の保全と創造」
 都市・生活型公害や地球環境問題等に対応するために、「市民」、企業、行政が日々の生活や事業活動を自ら環境に配慮したものに改め、社会のあり方を環境に適合した持続的発展が可能なものに変革していくことが求められている。
(2)「あらゆる人々の尊重」
 女性、子ども、高齢者、障害者等のいわゆる社会的弱者は、行動の自由が制限され、不利な扱いを受けることが多かった。今後は、画一的な扱いをするのではなく、個人の持つ個性によって正当に評価し、あらゆる人々が尊重される環境づくりを目指して積極的に取り組んでいく必要がある。
(3)「安全・安心の確保」
 自然災害、犯罪、事故等に対する「安全の確保」は基本的課題である。さらに、所得、健康、住まい、老後といった面での悩みや不安がない「安心できる社会」を創っていく必要がある。そのためにも、「市民」、企業、行政がそれぞれの役割を十分に果たすとともに、有機的な連携を図っていかなければ ならない。

第3章 これからの成熟社会の姿
1 適正規模の時代
(1)地域を基盤とする新しいビジネス
 これからの社会は、単に経済だけでなく、労働・消費・文化などについても考慮し、適正な規模・適正なバランスを考えていく必要がある。
 企業活動についても、グローバル化とローカル化の二極分化が予想される。今後は、コミュニティを基盤とし、地域の多様なニーズに対応するコミュニティ・ビジネスとして必ずしも企業の形態をとらない個性的、創造的なビジネス(事業)が生まれてくることが期待され、それが地域経済の中で一定の役割を果たすことがが求められる。
(3)「まち」の個性化・活性化
 住民参加による「まちづくり」や地域特性に応じた良質なストックの形成が必要であり、良い「まち」にしていこうという考え方に基づいて、生活者の視点から「まちづくり」に参加していかなければならない。
 また、地域性を生かし、地域間でその個性を競い合うことにより、全体として「まちづくり」の質を向上させ、その「まち」にふさわしい生活空間をつくっていくことが必要である。

2 ネットワーク型の社会構造
(1)行政・企業等の組織の再編
 これからの成熟社会においては、企業・行政などの従来のピラミッド型の大きな組織も、事業の内容によっては小さなグループからなるネットワーク型組織を活用することが必要となる。また、「市民」を中心とした組織についても、日々の生活の中で高い関心を持っている問題を中心としたクラブ的な集まりのように、その多くは出入りが自由な緩やかなつながりに基づく組織形態になることが予想される。
(2)情報のネットワーク化
 情報の分野においても、より豊かな生活のために、情報をどう活用するか検討していかなければならない。また、社会全体の情報化の進展に伴い、情報機器の活用によるネットワーク化を図り、「市民」が必要な情報の受発信を活発に行って情報量を増やすことで、社会における選択肢を拡大させなければならない。
(3)地域のネットワーク化
 『地域」においても、地域を構成する人々の間で、または地域と地域との間でネットワークをつくっていく必要がある。
(4)家族の役割の変容
 これからの家族関係においては、女性も男性も、子どもも大人も一人ひとりが人間関係をつくる力と基本的な生活能力を養っていくことが必要である。また、今後は、家族の関係についても多様化が進むであろう。

3 機会の自由が確保される社会
 これからの成熟社会では、人生の各段階において、学習、就職・転職、職業能力開発、創業、転居、文化、情報の受発信、活動、健康増進といった「機会の自由」が確保される必要がある。この場合、選択にあたっての十分な情報公開があり、その情報を使って多様な手段が選択でき、何度でも選択できる社会が必要である。

4 責任の所在が明確な社会
 成熟社会における「市民」、企業、行政は、責任主体としての意識が明確でなければならない。選択した行動に対する責任を負うことはもちろん、自らの行動が社会に対して及ぼす影響について責任を負うという「責任の意識」を備えて行動することが求められる。

第4章 「市民」、企業、行政の三者による「新しい関係」の構築
1 自律的・自主的な活動を実践する「市民」
  県下各地で人々が、自ら関心を持つ分野でさまざまな活動を行っている様子が見られ、県民は日々の生活の中で自己実現を図り、地域に積極的に関わっていく「生活創造活動」を実践している。それは、生活者のニーズに根ざしたもので、より良き地域社会を形成するための大きな原動力となっている。
 今後は、このような活動がますます活性化し、「市民」の存在が大きくなっていくことが予想される。県も県民運動を提唱し、これを積極的に支援している。このような時代においては、個人個人と企業、行政との関係そのものが問われることになる。個人は一個の独立した「市民」として行動し、企業や行政は「市民」のニーズに根ざした市民社会の実現をめざすためにそれぞれ変革が求められている。

2 「市民」、企業、行政の三者による「新しい関係」の構築
  今後は、「市民」、企業、行政の関係についても、これまでとは違った関係に変わっていく必要があろう。この時に重要になるのが、行政的領域と私的領域の中間にある「市民領域」であり、テーマに応じて協働、独立、対立を繰り返すなど、主体の間でさまざまなあつれきや衝突を繰り返すといった、活力ある社会となっていくことが期待される。
  そのような社会においては、「市民」、企業、行政のそれぞれが、相互の信頼や協力に基づいて共存する「新しい関係」へと変化していかなければならない。

3 「新しい関係」構築のための「ゴールデンルール」
 「新しい関係」を構築するためには、「市民」、企業、行政などの行動主体は、「ゴールデンルール」(行動基準)である、「WAVES」に基づいて生活創造活動をしていくことが必要である。
 この「WAVES」に基づく生活創造活動には、文化、環境、福祉、女性問題、青少年活動、国際交流、まちづくり等のさまざまな分野があるが、「市民」だけではなく、企業、行政の三者をはじめ、新たな主体としての生活創造活動団体や大学・試験研究機関等の役割も期待される。
<行動基準>=WAVES
@一人ひとりの豊かさの実現(Well-being of Individuals)
A主体的・能動的市民参加(Active Citizenship)
B文化的価値の洗練(Valuing Culture)
C地球意識の醸成(Earth Consciousness)
D安全・安心への配慮(Safety and Security)
(1)一人ひとりの豊かさの実現(Well-being of Individuals)
 人々の求めるものは内面的豊かさや、より高次な内面的欲求へと移っている。その実現のためには、ゆとりやうるおい、美意識など個々人の個性や感性が重視され、働き方や住まい方、自由時間の過ごし方などに関して、個性的で多様なライフスタイルが認められなければならない。
(2)主体的・能動的市民参加(Active Citizenship)
  地域社会においては、地域で生活する私たちが地域社会を構成する主人公だという意識を持ち、主体的・能動的に地域づくりを考え、他者との関係の中で地域や社会のルールを形成し、住民自治によるまちづくりをすることが求められている。
 また、ボランティア活動は、「主体的・能動的市民参加」を理念として行う生活創造活動の一つである。それは、福祉、環境、消費問題、人権、国際交流、まちづくり等幅広く、自己実現の場であり、より豊かな社会を築いていく役割もあり、各種の支援策が求められる。
(3)文化的価値の洗練(Valuing Culture)
 文化は多様なライフスタイルと、主体的・能動的市民参加で形づくられる地域社会とが醸しだすものである。そのような文化を洗練させていくためには、個人の生活や地域の生活環境を豊かでうるおいに満ちたものとするとともに、質の高い文化に接することが必要である。さらに、それによって感性を磨き、他者との関わり合いや、異質な文化との交流を通じて、互いに影響し合い、切磋琢磨し、洗練させていく関係を創っていかねばらない。
 このような文化を、より多くの人々と共有し、次世代の人々に伝えていく大切な財産として蓄積、承継、発展させていくことが必要であり、このことにより、それぞれの地域を個性的で魅力的なものとすることができる。
(4)地球意識の醸成(Earth Consciousness)
 かけがえのない地球環境を次世代に残していくために、地球環境の保全を最優先とした持続的発展が可能な社会の形成を図らなければならない。そのためには、環境に対しては自覚的に全地球的な視点から行動し、自分の行動が環境に及ぼす影響に十分配慮し、地球環境に与える負荷がより少ない行動を選んでいかなければならない。
(5)安全・安心への配慮(Safety and Security)
 安全の問題では、日常から災害に対する備えを怠らないことはもちろんのこと、災害時に備え一定の訓練などを忘れてはならない。また、全ての人々にとって所得、健康、住まい、老後といった面での悩みや不安を解消する「安心への配慮」が必要であり、あらゆる場であらゆる人々を尊重しつつ、自助・共助・公助の有機的連携を図っていかねばならない。そのために、「市民」、企業、行政等が協力して望ましいシステムをつくり上げていく努力がいる。

第2部 新しい「市民」の登場とこれからの企業、行政
第5章 「市民」の姿
1 「市民」の登場
 豊かさの社会的基盤は整ってきたが、個人の生活では必ずしも豊かさを感じることができず、将来への不安を抱いている。最近は、環境、教育などの分野で社会問題が発生して、これまでの生き方や社会的な仕組みを見直し「真の豊かさ」について考えていく機運が生まれつつある。
 また、これまで行政に頼ることが多かったまちづくりについて、地域のことを自らのこととして真剣に考え、自分たちで責任を持ってまちづくりに参画していこうという動きや、他の人とのふれあいを大切にしながら共に生活する動きも出てきており、人々の関心が「ウチ」から「ソト」へと移り、「市民」が新たな行動主体として登場しはじめている。
 これまでの経済第一主義は、地域社会が本来持っていた社会的機能を失わせ、多くは行政が代わりにその機能を担ってきていたが、新しく登場した「市民」は、この社会的機能を改めて地域で担うべきものに変え、その営みを通じて人と人との新しい縁が結ばれていくことが予想される。

2 新しいライフスタイル
 私たちの生き方の面でも、これまでは経済的利益を追求し続ける「経済効率優先型ライフスタイル」であったが、今後は、自立し、他者あるいは環境との関係を配慮した責任ある行動が求められており、“共生の時代”に対応した「新しいライフスタイル」を創っていく必要がある。これまでの均質的なライフスタイルを、さまざまな価値観を実現する多様なライフスタイルへと転換していかなければならず、そのために、優先する価値観をめぐって、さまざまな場で対立が巻き起こってくる可能性があるが、「異質なものとの共存」を図るなど、合意形成を図るために十分な時間をかけて試行錯誤を繰り返していくことが大切である。

3 個としての「市民」
 このような時代では、ますます「市民」の社会的な存在意義が問われており、もっと日々の暮らしを“楽しむ”個人へと転換し、自立した上で、他者との関係を配慮して行動していくことが求められている。
 その際の行動基準が「WAVES」であり、安全や安心といった条件を満たした上で、自分自身の真の豊かさの実現と主体的・能動的な社会参加活動、それらの活動が時間的に結実した「文化」の継承、そして、何よりも、自分たちだけでなく将来の世代も生きていく地球を大切にする意識を持って行動をしていく必要がある。

4 新しいコミュニティ
 自らの社会的責任と役割を認識した行動を行っていくならば、これまでのようにどちらかといえば保護と規制の対象としての個人ではなく、社会的な行動主体である「市民」像に変化するだろう。「市民」が行動する社会では、多様な価値観に基づく行動を通じて、より広範囲でより多種多様な人間関係のネットワークを形成していくことになり、コミュニティやグループ・サークルなどの共通の基盤によって再びつながり、共存・共生する。
 このような新たなネットワークこそが、「新しいコミュニティ」と呼ぶべきものであり、共同体でもない、会社の人間関係でもない第三の関係である。個人がいくつものチャンネルを持ち、社会的に幾層ものネットワークが縦横無尽に張りめぐらされ、多元的で重層的なつながりの中で多様な活動をしていくことが望ましい。そのためには積極的な交流と信頼関係が大きな要素となり、個々の自立と他者の存在・価値観の尊重、他者との積極的な関わり合いが必要であり、何らかの共通の基盤、共通の利害をなかだちとした信頼の醸成が必要である。この「新しいコミュニティ」の実現によって、従来、企業、行政が意思決定をしてきた方法の見直しが迫られる。自覚と責任をもった「市民」とどう協力、連携していくかの模索が必要である。

第6章 社会の新しい担い手としての生活創造活動団体等
1 「生活創造活動団体等」の意義
 「市民領域」における多様な主体の一つとして、生活創造活動をグループまたは団体として行う「生活創造活動団体」の役割が期待されている。その新しい価値観に基づいたライフスタイルを創造していく活動に取り組むグループ又は団体を「生活創造活動団体」と呼ぶこととする。
 「生活創造活動団体」には、自己実現を図るために数人で趣味や学習のグループを創って行う活動だけではなく、まちづくりに取り組んだり福祉・文化の活動を行うグループ、社会福祉協議会、消費生活協同組合など社会参加活動を行っている団体も含まれる。また、生活創造活動団体の活動を支援し、協働して活動する主体として、大学・試験研究機関等にも大きな役割が期待されている。
 このような生活創造活動団体等も、「ゴールデンルール」である「WAVES」の行動基準に基づき活動し、「一人ひとりの豊かさの実現」や「主体的・能動的市民参加」を実現する主体として大きな役割を担っており、自己実現を図る機会を提供したり、社会的ニーズに対して柔軟かつ機動的に対応するなど、先駆的、開拓的な活動を行い、助け合い、支え合う地域社会をつくり、暖かみのある「真に豊かな社会」を実現するための役割が期待されている。

2 新しい主体としての役割が期待される生活創造活動団体等
 生活創造活動団体等に期待される役割は、生活創造活動の実践だけではなく、「市民」や団体に対して人材・専門的知識・財政的援助といった形での支援を充実させていくことである。特に、新たな社会的ニーズに対応した柔軟な活動を行い、多元的な社会を形作る原動力となる側面と、そのような新しい活動に対応できない企業、行政等に代わって支援を行ったり、中立的な立場から政策提言、意見や新しい活動の提案等を行っていくことが求められている。
(1)多様な社会的ニーズに柔軟かつ機動的に対応する主体としての役割
 社会における多様なニーズのうち、社会全体としての位置づけがまだ明確でないものに対しても、積極的に対応を行い、助け合いや支え合いの精神でそれに対応する、柔軟さと機動性を有しており、この役割は今後ますます重要になっていく。このため、その組織形態も当初は非営利目的で始めたとしても、その活動の進展により法人化(社会福祉法人・企業)する方がより効果的な事業展開ができるのであれば柔軟に対応していくことが大事であり、それを可能にする法制度の整備が望まれる。
 また、生活創造活動団体の活動については、福祉、文化、学習といったさまざまな分野にわたり、各種の団体が多様な活動を行っていくことが予想されるが、その活動内容に関する情報について幅広く開示していかなければならない。また、情報を分析し系統的に情報を整理、加工して提供することを専門に活動を行う主体も必要である。
(2)「市民」やボランタリー活動団体等が行う活動に対して支援を行う役割
 大学・試験研究機関等をはじめ一部の生活創造団体の中には、「市民」や団体の活動に対して、人材の派遣・専門的知識の提供・財政的援助といった形で支援を行うことを主な活動とするものがある。これらの団体は、「市民」や生活創造活動団体が効果的で安定して活動できるように、日ごろから研修、相談、ニーズの調整、情報の提供、財政的援助などを行うとともに、必要があれば専門的知識を有する人材の派遣、信用情報の提供による他の主体からの財政的援助への協力、事業の共同化による支援を行うことが必要である。
(3)高度な専門的知識を活かした第三者的機関としての役割
 大学・試験研究機関や公益法人等においては、その高度な専門的知識を生かすとともに、「市民」、企業、行政といったものからある程度独立した機関−中立的な第三者機関としての役割を果たすことが求められている。また、他の主体からの独立性という特徴を生かして、各主体の活動について調査・研究を行い、政策提言、意見や新しい活動の提案等を実施していくことも期待されている。
 このように、生活創造活動団体等は、その活動の目的、対象、地域、機能が一様でなく、それぞれの団体の特性に応じて多様なものであり、まさにこれからの多様な社会を象徴的に体現しているものである。このため、生活創造活動団体等のこの特性を生かすには、その自主性や独立性を損ねないように配慮する必要がある。さらに、団体の活動に対する社会的な認知制度や社会的主体間を媒介する機能を持った団体の育成等を図らなければならない。
 また、新しい雇用形態の場として生活創造活動団体等の非営利組織での就業の可能性が予想されるが、キャリアを重ねるための転職を積極的に評価するなど「やり直しのきく社会」を作っていくことの大切さを認識することが必要である。

第7章 成熟経済下の企業
1 企業の経営環境の変化
 戦災復興からスタートした日本経済は、全体としては右肩上がりの成長を続けてきたが、二度にわたる石油ショック、国際化、情報化、高度技術化などへの対応が求められるなど、企業経営はますます厳しい時代となっている。特に、バブル景気の崩壊後は、企業経営の見通しが極めて不透明となっている。社会・経済環境の面でも、少子・高齢化、情報化、ソフト化、個別化等が進展し、社会全体としても成熟社会への入口に立っていると言え、今後は限られた範囲での安定した社会を築いていく必要に迫られている。
 このような時代の入口にあって、今、企業に望まれていることは、より柔軟な発想による自由で活力ある経済社会を実現する主体としての役割であり、社会全体の利益をも考慮した共生型の経営や生活者の真のニーズに対してモノ・サービスを供給していくことである。
 さらに、今後は「市民」の「起業」に対して、資金的な援助、投資、企業の持つ流通ネットワークの活用などの支援を行い、起業の促進と共存共栄していくことも検討していく必要がある。また企業においても、製品・サービスの供給をはじめ、経営面での「自己責任原則」や社会の中でその一員として事業活動を行っている主体としての社会的責任の確立が必要である。

2 経済活動主体としての企業
(1)モノ・サービスの供給者としての企業
 これまで企業は、日本経済の成長と生活水準の向上に大いに貢献してきた。しかし、公害問題・ゴミ問題をはじめとする環境問題、さらには地球環境問題が顕在化するとともに、人々の価値観の多様化、個性化の傾向が進み、より多様なモノ・サービスの供給が求められるようになっている。
 このような状況の変化に応じ、モノ・サービスの供給者としての企業は、従来の発想を大きく転換し、経済活動による利潤の適正化、雇用の創出、従業員の経済的利益や福祉の増進、地域の安定的な発展と活性化への寄与などが求められるようになっている。
@質の高いモノ・サービスの供給
 今後は、真に豊かなモノ・サービスの供給主体としての役割が問われている。また、「市民」の選択の自由を実質的に保障するようなモノ・サービスの供給が求められている。
 このため、「市民」の正確なニーズを把握し、「市民」からの改善意見を迅速に処理できるシステムを構築するとともに、生産・流通における環境への配慮等の工夫をしていかなければならない。
A自由で公正な競争の確立
 さまざまな企業活動に関する情報開示を行い、生活者の判断力を高めるとともに、自由で公正な競争を確立し、活力ある健全な経済社会を実現していく必要がある。
 そして、企業の社会的責任を担保するため、企業活動の透明性を確保し「市民」からの意見を反映させるシステムを構築することで、「市民」と企業が意見の対立を踏まえ、お互いに協力して問題を解決していくことができる信頼関係を確立することが可能となる。
(2)雇用主体としての企業
 「雇用主体としての企業」の役割は、労働を通じた「市民」の自己実現の機会と、経済的基盤の確保という両面から、地域経済において必要不可欠な役割であり、「安心の確保」のためにもなくてはならない機能である。
 従来の雇用制度の特徴である終身雇用制と年功序列賃金体系の見直しや変革が進みつつあり、また、従業員の側も転職の希望が増えているため、これまでの雇用形態が変わりはじめており、労働市場が将来にわたってかなり流動化していくことが予想される。
 一方、従業員も「市民」として生活創造活動を行う主体として、従来の会社人間的な関係を必要としなくなりつつある。このため企業は、従業員の個人としての権利を尊重し、仕事の上での従業員の能力及び貢献を正しく評価していくことが求められている。
 今後は、労働移動の流動化による転職や女性、高齢者の社会進出、さらに、社会参加活動を経験してきた者などが新たな採用者として現れてくることから、これを企業体質の活性化の機会ととらえ、それに対する積極的評価システムなどの整備や長期休暇の取得が可能となるワークシェアリングなどの工夫が必要である。

3 地域社会の一員としての企業
(1)「企業市民」としての企業
 企業の中でも、従来から「企業市民」として、フィランソロピー活動やメセナ活動に積極的に取り組んでいるところがあるが、今後は、単に資金の拠出や寄付だけではなく、積極的に社会参加活動を行っていく必要があり、多種多様な活動への参画の工夫が必要となる。
 また、「企業市民」として、「一企業一文化」を実現するように企業の文化や風土を高めていくとともに、その地域固有の文化との調和を図り、相互に発展、継承し合い、さらには地域の文化創造の一翼を担っていくことも、これからの企業の大きな役割の一つである。そのためには、地域住民との普段からの交流と地域に対する有形・無形の貢献が必要であり、地域社会において「市民」から「企業市民」としての存在を認知されるような信頼関係を結んでいかなければならない。
(2)企業の環境への取り組み
 企業の製品やサービスの環境への配慮はもちろんのこと、生産や流通システムについても環境への負荷を極小化させる努力が必要である。さらに、製品等をはじめ、さまざまな安全に対する十分な配慮と事故が生じた場合の迅速な処理は「企業市民」としての最低限の義務である。
 また、循環・蓄積型社会の実現という観点からも、企業が持つ資本、人材、技術を活用し、エコビジネスへ参入するなど、環境に対する積極的な取り組みが求められている。
(3)従業員・「市民」等への活動の支援
 地域社会の一員としての企業は、他の主体の活動に対して支援主体として、従業員や地域の人々のさまざまな生活創造活動に対する環境整備を行っていく必要がある。今後の成熟社会においては、「市民」や生活創造活動団体等の活動が大きな役割を占めることが予想され、支援主体としての企業の役割は大きい。企業が、従業員・「市民」等への活動に対するさまざまな支援を行っていくことで「企業市民」としての社会的な位置づけをより一層明確にし、成熟社会にふさわしい企業の実現を図ることができる。

第8章 求められる行政の変革
 「市民」の登場により、これまで主として行政が担ってきたまちづくり等について、「市民」等の活動を前提とした役割分担を行い、行政領域の見直しが不可欠である。そのためには、「市民」等が主体的に行動するための情報の開示や既存制度の見直しなど、「絶えざる自己革新としての行政改革」を積極的に実行しなければならない。
 また、生活創造活動の環境を整備する場合でも、「市民」の活動を阻害したり、活動の方向性を変えることのないように配慮することが必要であり、行政の政策決定過程についても、生活創造活動を実践し、見識、経験を持つ「市民」の参加を求めていくことが必要である。
1 絶えざる自己革新としての行政改革
(1)情報の開示
 「市民」が生活創造活動を行うにあたって多様な選択を行うには、プライバシーの保護に十分配慮しながら、その前提となる情報を必要とする人が容易に情報を入手できること、選択する上での材料として入手した情報を加工できること、情報を個人のものとしてでなく社会共通の財産として共有できることが重要である。
@行政情報の開示と市民意見の反映
・情報の取得と活用を容易にするための情報化の促進
・制度・施策等についての広報・情報発信の充実と「市民」による評価を受信する仕組みの構築
A情報共有化のための基盤整備
・情報の取得と活用を容易にするための情報化の促進
・公開情報のデータベース化と情報の収集・加工・提供面での生活創造活動団体との連携強化
B行政職員の意識及び制度の改善
・行政職員の意識変革と公開を前提とした事務処理の執行
・生活創造活動に必要な情報公開の促進と、透明性の高い行政運営の確保
(2)制度の再構築
 「市民」、企業、行政等の三者の「新しい関係」に基づいて、生活創造活動団体等の役割も踏まえながら行政と民間の役割分担を考えていくことが重要である。また、行政の既存の諸制度についても、生活者の視点から見直しを行い、生活者のニーズに合わせて再構築することで、「市民」の生活創造活動の一層の促進と地域経済の活性化を期待することができる。
 今後の行政にとって必要なことは、「市民」等との協働関係を基軸にして、社会的ニーズのうち行政が専門的に取り組むべき分野に限定していくといった発想に切り換えていくことである。
@権限の移譲
・各自治体の主体性を尊重した行財政制度の構築
・地方分権の推進と、より住民に身近なレベルへの権限の移譲
A規制手法の見直し
・規制的手段から経済的手法の積極的な採用
・事前的な規制保護措置から、事後的な救済制度の整備への規制に対する考え方の転換
・社会的弱者に対する尊重と自立できる環境づくりの促進
・既存の諸制度についての生活者の視点による見直し
B補完性の原則に基づく役割分担
・行政職員の行政と民間との役割分担意識を持った行動
・「補完性の原則」を基本とした行政と民間の役割分担の見直し
C県民参加の手法の工夫
・「市民」の意見反映のための審議会委員の構成の工夫
・行政施策・行政サービス内容の決定・実施・評価の各過程における「市民」の参画

2 「市民」による生活創造活動の環境整備
 「市民」が自発的・能動的に生活創造活動に取り組むには、「市民」が自らの意志と責任でもって活動することができるように「市民」を取り巻く環境を整備していくこと、その際、行政が「市民」の生活創造活動を阻害しない配慮を行っていく必要がある。その場合の支援の方法についても、固定的・定型的な従来の発想を根本から変え、状況に応じた対応をしていく必要がある。
・「市民」が自ら「まち」の自治を促進するための地域への権限の移譲と積極的な住民参加の促進
・「市民」が生活創造活動を行うためのボランティア休暇制度の創設等の促進
・学校などの公共施設の開放等による生活創造活動の場の提供
・生活創造活動を行う拠点としての生活創造センター等の支援センターの充実
・生活創造活動を行う上で必要な情報の提供と研修制度等の充実
・生活創造活動を行う上で必要な専門的知識やノウハウを備えたリーダーの育成
・生活創造活動団体を社会的に認知しその生活創造活動を支援する制度の創設
・生活創造活動を促進するような柔軟な支援システムの構築

むすび
 阪神・淡路大震災からの復興に直面している現在、兵庫県は、まちづくりをはじめ、成熟社会への変革を早急に成し遂げていく必要に迫られている。それにはこの復興の機会をとらえ、時代の先行きを正確に見通し、今こそ次世代をリードする変革をしていかなければならない。
 現在は、これまでの社会的な仕組みがさまざまな変化を強いられ、その方向を模索している状況にある。このような時代にあって、今後、どのような社会を描き、それに向かってどのように進んでいくかということは、一人ひとりの生活のみならず社会全体の問題として私たちに課された課題であり、本答申では「市民」、企業、行政などが「新しい関係」を創り上げていく必要性を提言した。
 それがどのような関係になるか、どのような過程を経ないといけないかについては、まだ現在のところ明らかにできる状況ではないが、真に豊かな社会を実現するためには県民一人ひとりが「市民」として、ゴールデンルールである「WAVES」に基づいて主体的・能動的に行動し、社会の中で共に生きていく主体として自己責任、社会的責任を果たしつつ、自己実現を図っていく必要がある。そうすることにより、多様で個性豊かな社会を実現し、選択肢の多いやり直しの効く社会が実現できることになる。
 今後、「市民」の登場に伴い、さまざまな分野の意思決定を巡る試行錯誤を通じて、「市民」、企業、行政等の各主体の間で生じるさまざまなあつれきや衝突により、一時的には社会システムが混乱するなどの紆余曲折の繰り返しが予想されるが、その中から「新しい関係」の確立へ向かって三者が共に歩んでいくことを期待したい。


seikatsusouzouka@go.phoenix.pref.hyogo.jp



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