第3期兵庫県県民生活審議会答申

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第3期兵庫県県民生活審議会答申「活力ある成熟社会の実現」

(要旨)
はじめに
 右肩上がりに経済が成長していく時代が終わり、21世紀を目前として大きく時代が転換しようとする今、これからの社会がどのようになっていくかは、私たち自身の生き方に大きく左右される。
 兵庫県では、これまで「生活の科学化」「生活の文化化」を提唱し、現在は県民の「生活創造」をさまざまな形で支援し、「自由で調和ある自律社会」の実現をめざした取り組みを行っている。県民生活審議会でも、これまで県民生活の将来像とそれに向けた県民の取り組みに関して2回の答申を行ってきた。さらに、第3期は21世紀の「活力ある成熟社会」へ橋渡しをしていくため、生活創造活動の意義や行政の関与のあり方について調査審議を行った。

第1章 見えてきた21世紀に向けて
(21世紀を目前とした現在の状況)
 県民意識調査においては、生活に満足を感じている人が国の世論調査と同様、低下しており、健康や生活面など将来に対して強い不安を感じている。
 この背景には、これまでの社会や経済のシステムが綻びを見せているにもかかわらず、それを克服する有効な手だてが確立していないことが考えられ、現在は21世紀に向けて新しい価値観や考え方を模索している時期であると言える。
(21世紀に向けての課題)
  21世紀型の社会経済システムに向けての課題として、@利用者・生活者重視、蓄積循環型、市民主導の成熟社会型システムへの変革、A環境の保全と創造、B少子・高齢化への対応、C生活のレベルで必要な情報の開示や高度情報化の進展、D経済の一層のグローバル化、E簡素で効率的な行政を目指した改革の実現、F地域における自己決定を実現するための地方分権の推進などがあげられる。
 また、21世紀型のライフスタイルに向けての課題として、@自由な行動の前提としての個人の生活と社会との調和、A環境に配慮したライフスタイルへの転換、B家庭やコミュニティの見直し、C会社人間から自ら仕事を興す起業など新しい経済主体の活躍や新しい働き方などがある。

第2章 21世紀に向けての変革
(変革の意義と方向)
 行政システムの「管理型」から「支援型」への移行が課題となっている。また、行政の意思決定過程においても、住民の参画を実現する必要があり、また効果的な意思決定が行えるように、選択に必要な情報を提供していくことが求められている。さらに、県民の自由な活動を損なったり、必要以上の社会的コストの発生を防ぐため、安全・安心や環境等に関するものを除き、既存の規制を見直していく必要がある。
 また、多様で個別的なニーズに柔軟に応えることができる主体として「本格的なボランタリー・セクター」の形成が期待されている。これは県民一人ひとりの生活創造活動を通じて実現するものであり、NPO(民間非営利組織)やCBO(コミュニティ活動団体)をはじめ「NPOを支援するNPO(NPO支援組織)」などの生活創造活動団体等の活躍が期待されている。
 さらに、これまでの行政への保護・依存の関係を断ち切り、自己決定・自己責任原則の下で県民や生活創造活動団体、企業等が市民自律社会を実現していくことが求められている。そこでは、自由で公正な競争が行われるとともに、企業にあっても地域社会の一員である「企業市民」として行動するとともに、県民一人ひとりも多様なライフスタイルの実現を通じて、生活者の立場から他の主体に対して積極的に関与していくこととなる。また、環境への影響も常に配慮し、環境に与える負荷をより少なくすることを行動の基準としていくことが必要である。
(社会経済システムの変革のプロセス)
 成熟社会に向けて、社会経済システムを各主体が変革していくプロセスを段階的に示したものとして、次のようなものを考えることができる。
[短期的取り組み]
 家族やコミュニティなどこれまでの生活のあり方を全面的に見直すことが必要である。その中から多様性を尊重し、環境に配慮しながら地域において各主体が自律的に活動していくことが期待される。
[中長期的取り組み]
 それぞれの主体的・自律的な活動に基づいて、充実した生活を実現するとともに、地域を主体として環境を重視した「真に豊かな社会」を実現していくことが期待される。
(県民一人ひとりのライフスタイルが生かされて形成される社会)
 私たちは、買物や趣味などの生活行動をはじめ、仕事やボランティアなどさまざまな行動を行っており、これらは年齢、性別、地域、関心事により多様なライフスタイルを形成していく。そのうちいくつかをモデル化して例示すると次のようになる。
   自己実現型ライフスタイル、人生充実型ライフスタイル、健康増進型ライフスタイル
   交流促進型ライフスタイル、福祉参加型ライフスタイル、文化創造型ライフスタイル
   環境保全型ライフスタイル、省資源・省エネルギー型ライフスタイル
 これからの社会では、個人のライフスタイルであっても自分だけのものでは済まなくなってきており、お互いの多様性を認め合いながら、社会をつくり上げていく方策を模索していく必要がある。

第3章 真に豊かな21世紀の実現のために
(新しい「公共」概念への転換)
 成熟社会に向けた私たちの課題は、年齢、性別、国籍、障害の有無にかかわらず、すべての人が豊かな生活を楽しみ、それぞれが生き生きと充実した人生を送れることである。それは、環境や将来世代への影響も踏まえ、社会全体の豊かさが最大化するような「真の豊かさ」の実現である。
 これまで私たちは、経済の成長を優先させてきた結果、物質的な豊かさを実現するとともに、高度に機能分化した社会をつくり出してきた。さらに、本来地域の中で住民が共同して行うべき「公共」的な役割についても、ほとんどを行政に依存するようになっている。しかし、本来、私的領域と公的領域の間には公共的領域が存在している。そこは、人と人とのつながりによりお互いが支え合い、全体として真に豊かな社会を形成していく領域であり、“「共」の領域”と呼ぶことができる。そのため、これからは、その領域を一人ひとりが生活者としての役割を果たしつつ、共に紡ぎあげるべき場として考えていく必要がある。
 したがって、「公共」=行政という固定した考え方をやめ、県民・生活創造活動団体等・企業・行政などがそれぞれの役割を担い、普段の生活の中で協働する場として「共」の領域のあり方を考えていかなければならない。そこでは、本来、さまざまな主体がそれぞれに応じた役割を担っている。生活の基盤が概ね整った今、これからの「共」の領域においては、これまで行政が担ってきた役割が減少し、新たに県民・生活創造活動団体等・企業などの果たすべき役割が大きくなっていくものと考えられる。中でも、人と人とのつながりによるぬくもりや個々のニーズへの対応が一層求められ、ボランティアやNPOの存在がますます大きくなっていく。
 したがって、社会が必要としているサービスを誰がどのように提供するのかということについて、ボランティアやNPO、さらには企業の行動原理を踏まえて模索していかなければならない。県民や生活創造活動団体が、「共」の領域における担い手を具体的に選択していく仕組みとして、3つの基準が考えられる。それは、まず社会全体の「公正さ」を確保する必要があるものは、行政がサービス提供の中心となり、その役割を担っていくことが求められる。そして、より選択性の高いサービスについては、「効率性」の基準により、少ないコストで効果の高いサービスを提供する主体を選んでいく。しかし、ニーズが多様で個別的なため、行政や企業のサービスではなく、ボランティアなどがサービスを提供する方がふさわしい場合もある。これについては、その目的をいかに充足していくかという「有効性」の基準により、ふさわしい担い手を選んでいく。この「公正さ」「効率性」「有効性」の3つの基準による「総合的な適正さ」によって判断し選択していくことにより、最もふさわしい担い手や主体どうしの組み合わせ方を選んでいくことになる。
 さらに、この選択により生じた結果については、適切に評価し、次の選択に役立てられなければならない。そこで、「質」の面を重視した「社会的評価」により選択の際の情報の質を高め、より良い選択となるように導いていくことが必要である。
(「ボランタリー・ネットワーク」の構築)
 「共」の領域での選択が広がっていくためには、生活創造活動がより活発になり、行政や企業などと同様に、社会において大きな役割を果たしていくことが必要である。そのためには、社会において共に生活を送る者どうしが、生活上の課題をきっかけとして、互いの違いを認め合いながら、共通の目標に対して共に取り組んでいこうとする一体感により、自発的にさまざまな意見や情報を交換し、課題や関心を共有することによってゆるやかにつながることが不可欠である。このような人と人との共感によるつながりがさらにあるまとまりとして小さなサークルを形成し、より組織的なものとしてボランティア・グループへと発展していくことが期待される。そして、これらの小さなサークルやボランティア・グループなどが共通した目標に対して一体的に取り組んでいこうとすることにより、互いの違いを認め合いながら、相互に協力し合ったり、連携して活動を行っていく中で、「共」の領域において一つの活動空間が醸し出されてくる。このように、特定の関心などによって結びつくことで一つのネットワークが構築され、これを「ボランタリー・ネットワーク」と呼ぶことができる。
 それは、さまざまな活動が集まったものであり、絶えず変化し続けて、そこへの出入りも自由である。また、そこで活動する者どうしの相互の関係も、対立や意見の違いを克服して信頼関係や交換関係を成立させ、さまざまな形で連携していくことが必要である。「ボランタリー・ネットワーク」は、これまで主として行政が担ってきた「共」の領域において、県民の自発的で自律的な活動が大きな役割を担っていくための基礎となるものである。
 このような「ボランタリー・ネットワーク」が生まれてくるために、生活創造活動団体の果たすべき役割が期待されている。その中でも、特にボランティア・グループなどが組織化し、それぞれの自律的な活動を行っていくことへの期待が大きい。これらの活動が、より効果的・効率的なものになるためには、NPO支援組織あるいは行政による資金・情報の提供、人材育成、他の主体とをつないでいくなどの支援が重要である。

(コミュニティの再評価)
<コミュニティの意義>
 コミュニティは、小さなサークルなどのさまざまな人間関係が具体的に形成される最も身近な場である。しかし、これまでの都市化や産業化の進展により、個々の生活は個別化、多様化する一方、人はつながりを求め、さまざまな仲間づくりを行うようになっている。その結果、家族やコミュニティなど共同体の持つ、あたたかさや協力関係などの再評価が進んでいる。
 コミュニティは、生活を支える最も基本的な場であるとともに、さまざまな活動の基盤として考えることができる。家庭とともに生活の本拠であり、とりわけ子どもたちが生活感覚を養っていくうえで大きな要素となっている。また、周囲の人たちからのちょっとした支援を必要とする人に安心を提供する場として見直されている。その他、生活をとりまく環境を共同して守り育てたり、災害などの緊急時においても互いに助け合う場として、その重要性が認識され始めている。
 さらに、コミュニティは成熟社会において一つの社会的に意義のあるまとまりとなっていく可能性を持っており、誰もが自らのこととして考えていくことが求められている。
<多様なライフスタイルが形成するさまざまなコミュニティ>
 成熟社会におけるコミュニティは、個人が埋没するものではなく、そこに住む誰もが自由に参加していけることが大切である。そうした意味で、コミュニティ内でのふれあいや助け合いをはじめ、コミュニティの外からもいろいろな人が集まるなど、さまざまな人々により支えられながら、コミュニティが形成されていくこととなる。
 また、同じコミュニティでも、時代の変化や生活の移り変わりによって変化する。例えば、都市部においては、それぞれの関心や価値観によってさまざまなネットワークが構築されることが多い。郊外では、豊かな自然と住環境に支えられ、比較的似かよったライフスタイルの下で、共有するものが多いコミュニティとなりやすい。さらに農村部では、親密な人間関係を基盤としてコミュニティが形成されている例が多く見られる。しかし、現実には、そう単純な形を示しているのではなく、同じ市(町)内においても地区によって、千差万別で個性的なコミュニティを形成する。それは、そこに住んでいる人たちのライフスタイルによって生まれる違いであり、さまざまなライフスタイルを持つ人々によってコミュニティがつくり上げられているからである。
<コミュニティにおける生活創造活動の役割>
 コミュニティの中で行われる生活創造活動が多様であればあるほど、質が高く選択肢が多い豊かなコミュニティであると言える。しかし、生活創造活動は必ずしも一つのコミュニティの中だけに限られるのではなく、複数のコミュニティにまたがって活動していることもある。また、コミュニティを基盤とする団体も、自治会や婦人会など生活の全ての面を対象とするものから、福祉や環境など特定の分野で活動する団体までさまざまである。これからは、これらの団体が相互に協力し、行政や企業等とも連携しながら、コミュニティ全体として質の高いサービスを提供していくことが必要であろう。
 また、生活創造活動に期待される役割としては、その専門性を生かした活動がある。医師、看護婦、弁護士、会計士、税理士、建築家、カウンセラー、経営コンサルタント等の専門家や組織運営、PR、ネットワーク、資金調達等のノウハウをコミュニティの場で有効に活用していくことが大切である。そのためにも、これらの専門家と助けを必要とする人や団体と結び付けていく役割が期待されている。

(成熟社会における行政の役割)
<基本的考え方>
 「共」の領域における行政の役割は、まずは基本的なものに限定していくことになる。つまり、県民や民間の活動を尊重し、行政の中でも、補完性原則に基づいて市町、県、国という順に責任を分担していくことが必要である。
<行政の役割>
[生活のための基本的な条件・基盤づくり]
 これまで行政のサービス部門が担ってきたかなりの部分を他の主体が供給するようになっていくことになるだろう。しかし、社会基盤の整備、健康で文化的な生活や教育を受ける権利の保障といった基礎的なサービスに関しては、行政が責任を持って供給していかなければならない。
 このように、生活のための基本的な条件やその基盤づくりにおいては、行政が専門的にその責任を持たなけばならない。
[公正な社会の実現]
 今後の社会は、自由な活動が社会的なルールに基づいて行われ、ルールを守っていくことが一層必要となる。そのため、ルールを守らない者に対しては、その社会的責任を求めていくことが必要であり、行政には社会的公正さを確保する者としての役割が求められる。
[「ボランタリー・ネットワーク」構築のための情報提供]
 さまざまな主体が自発的に自由な活動を選択していくための情報として、現在の社会状態や社会の短期的・中長期的な見通しを調査・分析して公表することが行政の役割の一つである。
 これらの情報は、多くの問題を考えるきっかけとなるものであり、社会全体として重要な意味を持っている。特にコミュニティの状態や課題について調査・分析し、情報を提供していくことは、より身近に自らの問題を考えるきっかけづくりとなる。
[協働関係構築のための基盤整備]
○ 生活創造活動の基本的な条件づくり
 コミュニティ活動など生活創造活動の持つ意義を広く社会的に認識してもらうとともに、生活創造活動団体の自律性を保持する仕組みが必要
○ 生活創造活動への基盤的支援
情報収集、学習への支援:生活創造活動の動機づけのために必要な情報の収集・整理・発信と自主的な活動への支援
活動、交流のための場の確保:継続的に活動ができる場の確保、活動の幅を広げるための交流の場の確保
専門的人材の確保:専門的・技術的知識と経験を持った人材の発掘と育成の支援
資金確保のための支援:資金情報と資金確保ノウハウの提供
[生活創造活動の支援における県・市町の役割]
 地域社会は「肌で感じることのできる地域社会」としてのコミュニティを最小単位として、住民に最も身近な自治体である市町・広域的・総合的な自治体としての県という重層的な形になっている。このため、コミュニティ→市町→県という順で役割を分担しつつも、十分な連携を図っていくことが必要である。

おわりに
 これまでの絶え間ない経済成長の結果、経済的に豊かな社会を実現してきたが、その一方で、自然環境の破壊や人間関係の希薄化などの問題も生じてきている。これらの解決には、本審議会が提唱している生活重視社会を実現し、真の豊かさが実感できる成熟社会に向けて取り組んでいかなければならない。そのため、これまでの考え方を転換し、一人ひとりの生活の豊かさの追求だけではなく、社会全体の質的な充実を図っていくことが必要である。
 本答申においては、それを実現するためには社会経済システムだけではなく、一人ひとりのライフスタイルの変革が不可欠であるとの認識の下、「共」の領域を自分の生活と連続したものとして捉え直すことの重要性を提言している。さらに、意見や情報の交換を行ったり、協力し合っていく中で、人と人との間に生まれるつながりを源泉として、コミュニティでのさまざまな活動やボランタリーな活動が生まれてくる。このような基礎的な営みである生活創造活動の重要性を提言している。
 また行政についても、これからは生活創造活動やコミュニティの持つ意義を再認識し、コミュニティの中で県民が生き生きと活動できるような環境づくりとそれらの活動との連携を図っていくことを提言している。
 成熟社会とは、打ち寄せて来る多くの社会的な課題を解決していくために、それぞれの主体が何をなすべきかを考え、行動していく社会である。そこでは、さまざまな対立や葛藤が生じ、一時的に混乱することも予想されるが、それを乗り越えて、今後、本答申を契機に、県民の間でこれらの議論が巻き起こり、県内各地域においてさまざまな工夫や取り組みが行われ、真に豊かな活力ある成熟社会が築かれていくことを期待したい。


seikatsusouzouka@go.phoenix.pref.hyogo.jp



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