演 題:
「NPO法が日本の民間非営利セクターにもたらすもの」
講 師:
山岡 義典氏(日本NPOセンター常務理事・事務局長)
(目次)
はじめに−NPO法の成立状況から
1. 法人格を取得する団体にとって−ミッションの再確認と組織の再構成
2. 法人格を取得しない市民団体にとって−目標のイメージが見えるということ
3.既存の公益法人および公益法人制度にとって−問い直される主務官庁の意味
4.直接的影響と社会意識の変化を通じての影響−法律・条例の立法過程における論議の重要さ
5.新しい非営利起業家の登場−介護分野とまちづくり分野で何が起こるか
6.非営利セクター全体を視野に入れて市民社会の形成を考える−地縁組織まで影響は及ぶか
7.3年後の改正とその先の民法改正に向けて何を行うべきか−法人制度と税制を併せて考える
おわりに−行政のNPO支援に求められるもの
皆さん、こんにちは。震災から4年たって、恐らく先週ぐらい、さまざまな活動といいますか、集会、いろんなイベントがあって、あるいは皆さんお疲れなのではないかなという感じもいたします。私も東京のほうからいろいろとこちらの情報を伺っておりました。そういう中、大勢の方にご参加いただいて、果たして私が何かここでしゃべるだけの意味があるのかどうかという疑問もなくはないんですけれども、外の目といいますか、直接この地域にいない人の目で感じていることを、お話させていただくということにしたいと思います。
後半の議論は今、この委員会で検討中の「ボランティア活動支援センター(仮称)」の内容をどうするかということだとお伺いしておりますけれども、それについては、私はまだこれからお聞きするというところですので、触れないといいますか、わかりませんので、また必要がありましたら、後半のときにコメントさせていただきたいと思います。
今日のテーマは「本格的なボランタリーセクターの形成に向けて」ということで、まさにこの意味で重要な法律が、先ほど副知事のほうからお話がありました、「特定非営利活動促進法」ですけれども、これが昨年12月1日から施行になりました。これがどういう意味を持つのかということを私なりにお話させていただきたい。そのことを通じて、これから3〜4年の間、あるいは、場合によっては5年ぐらいの間に、この世界で何が起こるのかということをお話させていただきたい。そういうバックグラウンドの中で、行政の支援センターのあり方、民間の支援センターのあり方、そういうものも見えてくるのではないかという感じがしております。
お手元の資料(18頁参照)は、先ほど持って来てすぐ印刷してもらったばかりのものですけれども、レジュメと絵があります。この絵は、本当はまだ出したくなかったというか、配りたくなかったのでOHPぐらいでやろうかなと思ったのです。やはりあった方がいいと思って配りました。私が、正月休みに、今までいろいろと言ったり書いたりしたことを少し整理しながら、このNPO法というものの持つ意味を概念的に整理したものです。(19頁)
はじめに−NPO法の成立状況から
私どもが、こういう法律をつくる、つくらないといけないという議論をしだしてから10年ぐらいたつと思いますけれども、そのときにいろいろ考えたことの、ある意味で一部が法律として実現した。そして、それはいいんですけれども、法律として実現しますと、その法律の中身の話だけの技術論が随分盛んになってしまいました。悪い意味ではないんですけれども、法律を理解する上でいいと思うんですけれども、やはり、私どもが、こういう法律が必要だというのは、もっともっと大きい、いろんな社会の関わりの中で考えたわけでして、その部分が若干忘れかけられかねないという気がしていますので、この法律の意味というのは、ただ、社会で今いっている法人格云々という問題、それも重要ですけれども、その技術論に陥ったのでは何の意味もないということです。社会全体を変えていく仕組みの一つとして存在しているということをもう一度確認したいと思って、この資料を書いています。そして、私自身は、NPOセンターの活動において、さまざまな相談とか、いろんな方がいらっしゃいますけれども、そういう接触の場面で、私が今イメージしているこの図柄の影響が既に出ているなという実感を持っています。
1. 法人格を取得する団体にとって−ミッションの再確認と組織の再構成
2. 法人格を取得しない市民団体にとって−目標のイメージが見えるということ
絵だけ見ていると何ですから、図を描きながらお話させていただきたいと思います。出来上がる図はお配りしたものと大体同じはずですけれども。要するに、NPO法というものができて、施行されました。これは、直接的には何をするかというと、法律的には特定非営利活動を行う団体、市民活動等というように「等」を入れたらいいのかなと思っていますけれども、市民活動等を行う団体に法人格を与えると、これだけのことなんです。ただ、法人格の与え方が従来と違って、主務官庁制度によらないで与えられる。比較的簡便である。簡便といっても大変です。私どもも12月24日に東京都に申請したのですけれども、結構大変でした。ですけれども、従来の財団法人、社団法人、社会福祉法人に比べると、随分楽にできるわけです。単純に言うと、これだけのことです。ですから、多くの新聞紙上でも、どれだけ申請したのか、幾つの団体が法人格を取るのかという議論がなされています。法人格を取ったら、どういうメリットがあるのか、デメリットがあるのか、この議論が中心になっています。このことは別に間違いではなく、いいんですけれども、このことだけで考えると、どうということはありません。恐らく今年じゅうに1,000以上は申請が出るでしょう。1,500ぐらい出るのではないかとも思います。そして、そのほとんどが認証されるでしょう。そういう意味で、1,000幾つかの団体が法人格を持つということの意味は確かに大きいです。大きいですけれども、それだけで考えたら、どうということはない。
実をいいますと、これができても、法人格を伴わない団体がずっとあります。法人格を取らない、市民団体というか、「市民」を入れなくてもいいんですけれども、団体がたくさんある。全国的に幾つぐらいあるかというのはわかりませんが、2年半前に経済企画庁が行った調査では、86,000ぐらいの任意団体があって、そのうちの1万ぐらいが法人格を必要としているというアンケート結果が出ています。私も大体そうだろうと思います。これは経済企画庁が行った調査で、自治体を通じてリストアップした団体ですから、自治体と関係のない団体は入っていなくて、市民活動団体といえるような任意団体は、全国で10万ぐらいはあると思います。そのうちの1万団体ぐらいが法人格を取るかもしれない。9万の団体は関係ないんです、法人格なんか必要ないんです。必要ないですけれども、このNPO法ができたことによって、こういう団体、今までは社会の中でどういう位置づけかはっきり分からないけれども、やりたいやつが好き勝手にやっていると言われていたこの任意団体、1万と9万とすれば、この9万が影響を受けるということです。NPO法によってこの9万の団体に光が当たったということです。
兵庫県でも条例をつくられました。兵庫県の場合は、認証手続を行う部分と支援をする部分が一緒になって条例ができていますけれども、これは非常に珍しい例だと思います。私はこういうことはあり得るだろうということは前から言っていましたけれども、時間の関係もあるし、いろいろな制約もあって、多くの都道府県の条例は手続条例だけになっています。けれども、兵庫県は両方を含んでいます。
そういうことで、このNPO法は法人格を持つ団体の強化に役立つ法律ですけれども、それと同時に、NPO法をつくったことによって、法人格など関係ないと思っている団体にとっても、非常に大きな影響があるということです。それは、単に、行政も着目したとか、社会的に認めたということもありますけれども、それ以上に、やはり法人格を取った場合の情報公開とか、マネジメントとか、いろいろやらなければならなくなってくるので、法人格を取った団体が存在することによって、法人格を取っていない団体が、非常にしっかりするといいますか、団体として、組織としてちゃんとやっていかないといけないんだという認識を持つということです。それから、この団体が法人格というテーマを与えられたことによって、「我々も法人格を取ったほうがいいんだろうか」とか、「いや、取る必要はないんじゃないか」とか、いろいろ議論をします。結果的には法人格を取らない団体が多いと私は思うんですけれども、ただ、一度は考えてみるという、このことが重要です。考えて、内部で議論して、「3年後ぐらいには取る準備をしようか」とか、「いや、うちは絶対にあんな法人格なんか取ってやるものか」とか、いろいろ内部で議論する、そのプロセスで力が出てきます。社会的な存在として自分たちは何なのかということを考えざるを得なくなったということです、この9万の団体。
もちろん、1万の部分は非常に強くなります。ただ法人格があるから契約できる、それだけではありません。法人格を取る過程で、私たちの周りも、私たち自身もそうですけれども、今までの自分たちの団体は何だったのか、我々のミッションは何なのか、目的は何なのか、今の組織のあり方はこれでいいのか、これらの全部をこの法人格の申請をする段階で見直しをします。見直しをしないで法人格を取るところもあるとは思います。ただ何気なく法人格があったらいいねというので取るところもあって、それでも取れなくはないですけれども、大抵の場合は見直しをして、法人格を取ります。10年、20年と任意団体でやってきた団体が新しく法人格を取るとき、我々は何なのか、自分たちは何なのか、どういう団体としてやろうとしているのか見直しする、そのことを通じて法人格を取った団体は強くなります。あるいは、その検討をして法人格を取らなかった団体も、取らない団体として強くなる。そういう意味で、NPO法は法人格を取る団体にも、取らない団体に対しても非常に影響力を与えます。
ただ、変な影響を与える可能性もあります。本当はもっと自由に伸び伸びやったらいいのに、市民活動団体といえどもマネージメントが必要なんだといって、何か難しいマネジメント論で非常に抑圧的になってしまって、私などは、「マネジメントなんかいいから、もっと自由にやりなさいよ」と言いたくなる場面がしょっちゅうあるんです。マネジメント恐怖症に陥ったりするという面もありますけれども、それはよくないということで、私たちは、来月から「現場から見た組織経営」という講座をやることにしています。そういう強迫観念に陥ってはいけないんですけれども、とにかく社会的な存在として自分たちは何なのかということを考えるということで、その団体は強くなります。法人格を取ったところも、もちろん法人として契約できるということもありますけれども、自分たちのミッションの再確認ということで強くなります。これは大きい影響です。
3.既存の公益法人および公益法人制度にとって−問い直される主務官庁の意味
このNPO法の影響は、それだけではないんです。実を言いますと、今後の非営利セクターにはもう一つの要素があります。それは既存の公益法人です。財団法人、社団法人、社会福祉私法人、学校法人、あるいは非営利法人でいえば消費生活協同組合なども入っていいと思います。さまざまな既存の公益法人制度があります。実はこれに対する影響が大きいんです。
幾つかの公益法人から直接話を聞いたのですが、それは主務官庁から次のように言われたというので私はびっくりしたんですけれども、「いろいろ公益法人として長年やっているけれども、ただ何気なくやっているのではなくて、これから新しい元気のいい団体、NPO法人がどんどんできてくるのに、うちが主務官庁の公益法人がだらしないというのでは困るから、しっかりやってくださいよ」と言われたというんです。私のところに相談に行きたいというので、ぜひ一度来てくださいよと言ってありますけれども。
そのように、従来の主務官庁の監督のもとにある団体が、「これでいいんだろうか」と思い始めています。非常に生き生きした団体が「NPO法人としての市民活動団体」に出てくると、既存の公益法人の陳腐さが目立ってくるのです。そのことに対して敏感に反応している主務官庁の担当者もいるということです。それから、団体自身が、主務官庁からそんなことを言われはしないんだけれども、自分たちは、今まである主務官庁のもとで、ある省のもとで長年やってきた、非常に窮屈な思いでやってきた。つぶすわけにもいかないから、もう一つNPO法人をつくって、おもしろい活動はそちらでやる。つまらない活動は、主務官庁の監督があるから、寄附行為に書いてある30年来やってきたことをやるけれども、新しいのはこちらでやりたいというわけです。だから、既存の公益法人がもう一つ新しい非営利法人をつくって、おもしろいことは新しくつくったほうでやって、つまらないことは既存の公益法人でやるという形をとる。従来の法人制度が、その姿が見えてくると、変わります。そういう意味で、このNPO法というのは大きいです。そこまで気がついているところはまだ少ないのですけれども、ただ、私たちのところに相談に来る、いろいろ私が接触して議論しているところでは、そういうのがあって、これは今後増えてくるなということです。
「既存の公益法人〜非営利法人」のグループは主務官庁制度をとっているわけです。国際交流であれば外務省とか何とかの交流課、地域福祉又は社会福祉であれば○○県の福祉部とか、それぞれの役所の縦割りの中できちんと監督しているその団体と、主務官庁と関係がない所轄庁制度による団体があって、それが対比されたとき、既存の公益法人〜非営利法人のほうの陳腐さが目立ってきます。「自分たちも民間団体として、NPOとしてこれでいいのか!」という意識が芽生え始めてくる。芽生え始めてこないところもあるでしょうけれども。
それと同時に、制度の方ですけれども、民法の制度自身が変わります。社会福祉法人については、この間、12月末に社会福祉基礎構造改革の中間報告がありまして、その中で社会福祉法人制度を変える方針が出ておりましたけれども、大きく変わると思います。戦後できた今ある公益法人制度は戦後50年たっていますし、それから民法による社団法人、財団法人は100年というそれぞれの歴史を持って制度疲労が起こっている。それがみんな変わります。
その制度が変わるときに、モデルとなるのが「NPO法」だと思います。例えば、情報公開ですけれども、NPO法には情報公開制度があります。社会福祉法人も情報公開が必要です。やり方はこれと同じになるでしょう。それから、都道府県への委任の仕方ですけれども、今は機関委任事務でして、厚生省の省令でやるというのが社会福祉法人、NPO法人は団体委任事務ですから、それぞれ条例でやって、それぞれの都道府県で思うようにやったらいいというようになっている。いずれ社会福祉法人も今後は、それぞれの都道府県で条例をつくってやりなさいという話になるでしょう。いろんな意味で、従来の法人制度の枠組みを破ったこのNPO法がモデルになって、こちらに近づいてくる。民法の方も、12月になって、恐らくNPO法の施行を前にして法務省も何かやらなくてはならないというのでやったのだと思いますけれども、どうも分かりにくい文脈で中間法人制度をつくるのだと言っています。あれは20年以上も前から同じことを言っているんです。民法を変えるのは重要ですけれども、中間法人制度をつくらなくてはいけないということは、前から言われているのです。今言うのだったら、もうちょっとNPO法を意識してつくらないといけないんですけれども、とにかく、従来の財団法人、社団法人の仕組みがこれでいいとは誰も思っていないわけです。
そういう意味で、NPO法というのは、新しい法人制度の枠組みをばっと動かすための影響力を持っています。そして、動かすときの一つのモデル、かなり重要なモデルになると思います。法人制度は全部縦割りで、縦割りごとに官庁・霞が関でつくります。ですから、縦割りごとに全部違うんです。学校法人と社会福祉法人とは少しずつ違うとか、いろいろ違うんですけれども、非常にベーシックなスタンダードか、議員立法という形でこのNPO法としてできています。ですから、新しい日本の法人制度のリストラクチャリングに対して、非常に大きい影響を持つ。それと同時に、個別の団体に影響力を持ちます。
4.直接的影響と社会意識の変化を通じての影響−法律・条例の立法過程における論議の重要さ
実は、NPO法で重要なのは、こういう形で団体とか制度に直接影響を持つということよりも、「社会認識」というもやもやした、よくわからないものがありますが、その社会の意識というか、風潮というか、そういうものに影響を与えつつあるということです。これは私どもはかなり重要視したわけです。だから、立法過程が重要なんです。立法過程の議論がなかったら、社会の認識は変わりません。
私たちが訴えるとき、もちろん国会に行ったり、国会議員と話しますけれども、むしろ国会議員にいろんな市民団体の集会に来てもらって議論をする。市民団体が集会を持つことが大切なわけです。それを3年ぐらいにわたって日本各地でやりました。震災の前から始めていたんです。私たちは、NIRAの「市民公益活動の基盤整備に関する報告書」が1994年4月にできて、それについて東京と大阪でフォーラムをやったりとか、各地で1994年ぐらいから、こういう問題の重要性を市民の間で議論する場をつくってきました。そして、震災後法案が取り上げられてからも、東京、大阪はもちろん、神戸でもやったと思いますけれども、広島とか、金沢とか、仙台とか、名古屋とか、いろんなところで地域の団体と一緒にやってきました。そういうものが積み重なって、今それぞれの市民団体を中心とした市民のNPOセンターがつくられつつあるわけですけれども、この立法過程で市民団体を中心に日本各地で議論したということが、結果的に、今このNPOに対する認識、あるいは市民活動に対する認識が、人口からいえば0.何%かもしれませんけれども、あるいは1%ぐらいいっているかもしれませんけれども、とにかく広がっていったということです。
この認識はもっともっと深めていかなければいけないと思います。5年前までは、市民活動と言われるものは本当によく分からないものでした。NPOも分からないものでした。「どうもやつらは何をやっているのかわからない」といった感じでした。大抵「おたくはどこに属しているんですか」と聞かれるのです。日本NPOセンターなどもそう言われていました。「どこどこに属していますよ」というと、日本人は安心するんです。「経団連に属しています」とか、「経企庁に属しています」とかいうと安心するんですけれども、「どこにも属していません」というと不安がったんですよ、5年前ぐらいまでは。でも、今は、「どこにも属していません」というと、「すばらしいですね」と言ってくれるんです。これはこの5年の時代の変化です。
私どもが編集した『NPO基礎講座』が今、1万部ぐらい売れていますけれども、当時では考えられませんでした。ああいう本は昔は50人以上が読む本じゃないんです。5年前だったら、50人以上は読むだろうけれども、100人ぐらいまでだと思います。それが1万部売れているというのは、100部から1万部で 100倍になっているというわけです。1万といっても1億人の1万人ですから、どうということはないんですけれども、そういうふうに意識が認識が変わってきています。何か重要なものがありそうだということで、新聞などの報道もそういう視点から物を見るような報道、雑誌の特集もそういう視点から社会を見るような特集が組まれてきています。私は、今は若干フィーバーぎみだと思いますので、このフィーバーをフィーバーに終わらせるのではなくて、きちんと日本社会の中に軟着陸させなければいけないと思っています。そういうことがあるのですけれども、これは、私どもはかなり意図的にやってきた。そして、皆さんも恐らくこれをおやりになってきたと思います。この中で阪神・淡路大震災というものが起こって、ものすごいインパクトがあって、本当なら5〜6年か10年ぐらいかかってできる法律を4年ぐらいで作ってしまったという感じがあると思います。
5.新しい非営利起業家の登場−介護分野とまちづくり分野で何が起こるか
私は、もう一つ新しい市民活動とかNPOを考える場合に、ここに点線で「非営利起業家」と書いてあるんですけれども、こういうものが出現しつつあると思います。私たちのほうにしょっちゅう相談があります。要するに、制度ができたわけです。今までこのNPO法を考える上で何を考えたかというと、法人格を取りたいんだけれども取れない市民団体、既存の任意団体が、どのようにしたら法人格を取れるようになるかということで議論してまいりました。だから、基本的には、今ある任意団体の意見を入れてつくってまいりましたけれども、「こういう制度ができたのなら、ひとつ法人をつくってみるか」と、全然活動をしていない人たちが思うわけです。「活動を今までやったことはないけれども、そういうやり方もあるのだね」「そういうのも社会的な存在としてあるのなら、10人の仲間をつくれば、できるのだね」「こういうことをやりたいんだよ」「儲けなくていいんだよ」と、そういうのは、従来は資本金 300万円か100万円を集めて有限会社か株式会社をつくっていました。だから、劇団などは、日本の場合はほとんど有限会社か株式会社ですね、プロの場合は。だけど、「こういう制度があるのなら、じゃ、つくってみようか」という動きがでてきています。実際にもっともっと出てくると思うんです。任意団体としての市民活動団体という形から法人格を取るよりも、非営利起業家から法人格を取るのがこれから増えるかもしれない。これから増えていく。「そういう制度があるのなら、自分たちもその枠組みで何かやってみよう!」と、これが大きいと思います。
特に、これについて私は「介護分野」と「まちづくり分野」という二つの分野が大きいと思って次にお話ししますけれども、もっと別の分野もあるかもしれない。芸術などもあるかもしれません。
(1)介護の分野
一つは、介護の分野です。これは大きいです。介護の分野は、既に会員制度の有償ボランティアという枠組みの制度でさまざまな団体がありますけれども、これは大都市に限られます。そういうものがありますけれども、介護保険制度が2000年4月から施行されます。そのときに、法人格がなくても市町村が認めればいいんですけれども、基本的には、法人格のあるところしかお客もつかないと思います。企業でもいい、NPOでもいい、社会福祉法人でもいい、何でもいいんですけれども、法人格を持つ必要がある。
そのときに、多くのところでNPO法人がつくられると思います。特に地方都市、中山間地域とか、過疎地域とか、大都市以外の小都市において、既存のそういうもの、大企業もそこまではいかないというか、普通の企業では儲かるはずはないところですね。しかし、地域の資源を生かしてやれば、介護保険制度の仕組みだったら、1時間当たり 3,000円か 4,000円ぐらいの報酬が得られるというようになれば、「やってみようか。儲からなくていいけれども、ほどほどに仕事ができるといいね」というような団体が、介護保険絡みで新しい種類のNPOとして地方に生まれると思います。これが社会を動かすでしょう。そういう人が結構いるんです。人口1万人くらいの小都市に行って、「自分たちはNPOに関心があるんだ」と言われたので、私は「NPOなんて関係ないでしょう」などと言ってたんですけれども、議論してみるとそうじゃあない。いろいろNPOの種があって、「自分たちでやりたい」ということです。特に、60歳で定年になって、大企業をやめて大都市から地域に戻ってきたというような人とか、あるいは、若者で嫁さんを連れて戻ってきて「何かやりたいんだよね」などという人がいるわけです。そういう人に、「こんなのをやったらおもしろいよ。介護でやったらどうかな」と言ったら、「つくろう!」などといって動き出す。すぐできるかどうかわからないけれども、融資の制度とか、いろいろ必要なものはあるけれども、そういうのが地域のちょっとした既存団体と一緒にやると、できると思います。
そのとき、NPOは介護だけやるとは限りません。「介護だけじゃつまらない。もう少しお年寄りの芸術活動をやろうよ」などというのが出てくる。今朝の日本経済新聞の文化欄を見ていて、すばらしいなと思いました。老人力じゃないですけれども、「新しい演技者としての高齢者」などという記事が出てきています。そうすると、「芸術がないとつまらないね」という話になって、介護団体が劇団をつくるとか。そうなると、劇団をつくって大都市に行って稼いできたなどというのもあるかもしれません。
とにかく、従来の発想とは非常に違う、新しいNPO起業家というのが、こういう制度があるということを知ったがために、やる。知らなかったら、そんなことは考えてもみなかったけれども、こんな制度がある、しかも公的介護保険制度が生まれるということを知った人たちが地域に戻ってこれをやる。大都市でもいろいろ生まれると思います。
(2)まちづくり分野
もう一つは、まちづくりの分野です。私は建築学科出身ですから、建築家とつき合いが多い。特に阪神・淡路大震災の復興のとき、いろんな多くの建築家、都市計画家がボランタリーに地元の住民たちと一緒にやってきました。これは、ほとんど任意団体である。ところが、設計事務所やコンサルタント事務所は株式会社、有限会社が多いです。しかし、「儲けるためにやってるんじゃない、配当するためにやってるんじゃない」という団体は、「設計事務所をNPOでつくろうか」ということになる。こういうのは出てくると私は思うんです。「まちづくり何とか」という形で出てくる。そうすると、ボランティアも、株式会社へボランティアに行くというと格好がつかないけれども、NPOへボランティアに行くんだというと、割合格好いいとか、また、地域の人たちも、委託ばかりやっている株式会社よりも、自主的な自発的な活動をメインにしているNPO的なものが出来れば、住民で少しずつお金を出して、あそこのNPOに頼んで一緒にやろうよという新しいやり方が生まれてきます。まちづくり関係は、私の周りでも「やりたい!」とてぐすねひいているのがいっぱいいます。このNPO法ができなかったら、会社をつくろうかなといってた団体が結構ありまして、NPO法ができたので、有限会社、株式会社をやめて、これでいこうと、こうなるわけです。
6.非営利セクター全体を視野に入れて市民社会の形成を考える−地縁組織まで影響は及ぶか
そういう意味でいうと、このNPO法人は株式会社、有限会社の代案として、非常におもしろい。もともとそんなに儲ける必要もないし、株主といっても、私も株式会社の株主に結構なっているんだけれども、小さい事務所ですから、別に配当をもらおうと思って株主になっているわけではない。寄附のつもりで、ご祝儀のつもりで、10万円ぐらいなら出しましょうというので株を買っているだけであって、その配当などはもらわない。そういう会社はたくさんあります。株式会社の形をとっているNPOがたくさんあって、「それなら、やっぱり我々はNPOだよね」というので、NPO法人になる。これからつくるところは、そうなります。
そういう意味で、実を言うと、従来も株式会社や有限会社でNPO的なことをやっているところが結構あります。そういうのはNPOに移っていく。株式会社を廃業してやるのではなくて、恐らく株式会社を残しながら、一方でNPOをつくってやっていく。劇団などは、みんなそうなると思います。皆さんはご存じないかもしれませんが、劇団「民芸」は株式会社です。大きい劇団は大体株式会社です。本来儲かっている、劇団「四季」は株式会社でして、これはいいと思いますし、松竹も株式会社、吉本も株式会社で、これはいいと思うんですけれども、本来儲かっているはずもないし、儲けてもいないし、実際に俳優たちはかすみを食って生きているようなところでも、日本の劇団は株式会社なんです。オーケストラは財団法人になれますけれども……。芸術関係の団体がNPO法人になるには、時間がかかると思います。今の芸術団体で、情報公開に耐えられるところは余りないから、時間がかかると思いますけれども、NPO法人のほうにいずれ来ますね。それから、鑑賞関係の団体は、既に大分申請もしておりますので、これから変わります。
ともかく、いろんな分野で、NPO起業家というものが世の中にあらわれてきます。そういう人生の生き方というのが今まではイメージされませんでした。高校を出ても、大学を出てもイメージされなかったような人生のあり方ということで、結構20歳代の人がやるのじゃないかと思います。学生でも、10人の会員を集めて、理事3人と幹事1人を決めれば、NPO法人ができる。
しかし、これはそんなに長持ちするとは思いません。8割ぐらいはすぐにつぶれてしまうし、つぶれていいと思うんです。あの5年間はおもしろかったね、3年間おもしろいことをやったねと。後は、休眠して、事業報告書を出さないから、取り消しを食うと。これでいいんですけれども、そのうちの2割か3割ぐらいはおもしろいのが残る。この人たちから見ると、「我々は20年間も任意団体で頑張ってきて、やっと法人格を取ったのに、やつらは何もやらない前から法人格を取って、格好つけやがって!」と思って、けんかが起こるかもしれません。「あいつら(NPO起業家)は、私たちと違うんだから」などと思ってしまうかもしれない。そんな考えはよしなさい、全部世の中に重要なんですよと、私は言いたいわけです。
これ全部をひっくるめてNPOなんです。全部含めてボランタリーセクターなんです。イギリスに行ってみればわかると思いますけれども、ボランタリーオーガニゼーションというのは、大きな学校でも何でも、私立学校でもボランタリーオーガニゼーションになります。ボランタリーセクターというのは、この全部なんです。ボランタリーセクターの形成というのは、この全部を新しい時代をつくるものとして変えていくということです。ここだけが重要でも何でもない。これは一つのきっかけです。このNPO法というのは、5年か10年かかるかもしれませんが、日本社会におけるこの全部を変えていくだけのものを持っているし、そういう戦略で我々はやっていかなければいけない。ボランタリーセクターをつくるというのは、この全部なんだと、既存の公益法人制度も変えてしまうんだという、そのことが新しい社会をつくっていくんだということだと思います。
7.3年後の改正とその先の民法改正に向けて何を行うべきか−法人制度と税制を併せて考える
法律そのものについては、私の中では10分の1くらいの関心しかありません。法律はお皿であって、お皿など幾らできても、料理が盛られていなければ何の意味もありません。その料理をどうつくるかというのが問題なんです。その料理づくりにどうやってNPO法を生かしていくかということを考えておかなければいけません。
それから、この法律には、先ほど言ったように、情報公開とか、団体委任事務とか、従来の行政から見たら、かなり非常識なというか、思い切ったさまざまな仕組みがビルトインされています。もう一つビルトインされているのが、附則に書いてあります。「3年以内に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられる」ということです。そのためには2年前までに案をつくらなければいけないから、2000年12月までに新しい改正案をつくって、国会に提出する。そして1年間議論して、次の2001年12月までには改正案を成立させるということです。こういう仕組みになっています。今回頑張った議員さんたちは、そのときちゃんと国会議員であってほしいと思うんですけれども、それはわからないわけですが、この改正案づくりを動かしていくのは誰かというと、私たちなんです。
私は、今のNPO法自身は中途半端な法律だと思います。65点から70点ぐらいの法律です。つまらない法律です。「なぜ日本人は、今ごろ、こんなNPO法案で騒いでいるのか」とアメリカの人は思います。イギリスの人も、ドイツの人も思うでしょう。その程度の法律です。この65か70点のものを85点ぐらいまでする。そして、その次のステップとして、民法改正です。法務省は中間法人制度をつくると言っていますけれども、5年や6年ではできないと思います。ですから、とりあえず、このNPO法を次の民法改正に向けての第一歩として改正する、その改正の枠組みを私たちはそろそろ考えないといけない。それを考えることが、また市民活動団体、市民セクターというものを強くしていくと私は考えています。
NPO法の施行で、一段落ついたような感じに私たちはなっているのです。ホッとして、ちょっと一休みしようと思っているんだけれども、これからの2年間、この法律をどうつくりかえていくかを考えないといけない。もうつくりかえたいところがたくさんあります。今日はそれを言う時間はありませんけれども、たくさんあります。それをみんなで議論していく、日本全国各地で議論していく、そして、それぞれの地域で、団体を法人化するとき、どんな制約があって認証されなかったとか、いろんな情報を出してもらって、地域で議論し合う。その過程でこの法律をつくり直していく。
法人制度と同時に、重要なのは税制優遇です。税制優遇がないから、申請が少なかったということがあちこちで言われているけれども、私は、そんなことはないし、逆になくてよかったと思っています。税制優遇があって、税制優遇だけを目的で、ばっと駆け込みでやっていたら、とんでもないことになっていました。税制優遇がなくても我々はちゃんとしようよという団体が今、法人格を取っているのであって、それはよかったと思っています。しかし、いつまでも優遇税制がないのがいいというのではない。新しい税制によって、みんなが、特に個人がこういう団体の会員になる。会員になるのに税制優遇などは必要ないですね。年間1万円出すのに税制優遇の必要はありません。年間10万円以上寄附する人にとって、税制優遇の意味があるんです。この話をやると議論が長くなりますけれども、いずれは税制優遇制度をつくって、寄附が集まりやすい状況をつくる。そのためには、とりあえず、「法人格を取った団体はすばらしいね。ああいう団体に税制優遇がないのはおかしいよね」と世の中の人たちが言ってくれるような状況をつくらないといけない。1年半ぐらいの間にそういう状況をつくっておかないといけない。そういう状況に今あります。
ですから、これからの非営利セクター、ボランタリーセクターの形成に向かって、これをてこにしたほうがいいだろうと、これをてこにして、ただ制度だけではなくて、社会全体にこういうボランタリーセクターの重要性、その魅力、そして、周りにたくさんのNPOがあることがどんなに自分たち一人一人の幸せに結びついているか。自分の子供のため、お母さんのため、女房のため、そういう人々のために本当に豊かな生活を保障しているねという実感を持てるようにすること、これがこれからの課題じゃないかと思っています。
おわりに−行政のNPO支援に求められるもの
法人制度は、税制を絡めれば絡めるほど難しいです。民法改正をやらなければいけない。今の非課税制度を免税制度にしないといけないかもしれません。こういうことも含めると非常に難しい問題はありますけれども、この難しい問題を、それぞれの地域から議論を起こしていって、そして国会に持っていく。NPO法案の場合は、やむを得ず中央からぽんと各地域に持っていったという、地域からの盛り上がりというよりも、中央でとにかくやって、それから地域に議論を広げたという感じがありますけれども、今度の改正に当たっては、地域における議論をきちんと積み上げていって、そして、それを集約して国会に持っていくというプロセスをこの2年の間につくっていく。これが一番このセクターを強くすると思います。
それに役立つような支援センターならいいけれども、それに役立たないような支援センターなら、行政もつくらないでいい。つくるからには、それに役立つ支援センターをつくらなければいけない。支援センターだけではないけれども、さまざまな支援の仕組みを民間団体、企業、行政、自治体がやっていますけれども、本当に足腰の強いセクターをつくる上で役立つような支援の仕組みにしておかないと、つくってしまったけれども、何か足腰の弱い団体ばかり育ててしまったという結果にならないとも限らない。
国際協力もそうなんですけれども、国際協力の目標は、国際協力など要らなくなるということです、援助など要らなくなる社会をつくるのが目的なんだけれども、何か援助が自己目的化してしまっている。支援もそうです。「行政の支援など、もう要らないよ」という状況をつくるのが一番の理想なんです。ただ、そのためには、今は若干なにがしか行政が関わったほうがいいかなと思っているからやっているのであって、行政の支援がないと存続できないような団体ばかりつくってしまったら、何の意味もありません。最終的な目標は、行政の支援などは要らない状況をつくることであるということを念頭に置いておいてもらったらいいのではないかというふうに思います。
時間がまだちょっとあるのかもしれませんが、むしろ後半の議論が今日の本題だと私は理解しておりますので、私の話はこれぐらいで終わらせていただきたいと思います。