第146号 知事対談 (平成30年10月4日対談)

<知事対談>古き良き建物を活用して地域を元気に!

今回は「古き良き建物を活用して地域を元気に!」というテーマでお話を伺います。ひめじ588(ガハハ)ゲストハウスのオーナー松岡さんと、NPO法人オルタナティブビレッジ代表の山口さんに、知事と語り合っていただきました。

はじめに

知事 山口さん、ビシッと決まったスタイルですが、どんな想いがあるのでしょうか。   

山口 ヤンマーが世界的なデザイナーを雇って製作した、自慢の一張羅です(笑)。農作業って「ダサい」イメージがあって、作業着もあまり格好良いものがありません。勿体なくて普段は着られませんが、農業のイメージを良くしていきたいと思い、今日は着てきました。
知事 帽子から靴までセットされていて、よくお似合いです。さて、山口さんは、どのような経緯で農業に携わるようになったのですか?

山口 神戸出身で大学は建築学科に進み、2~3年はゼネコンや設計事務所に勤めました。そのうち、サラリーマン人生に疑問を持つようになり退職。マイクロバス1台に20人程が乗り込んで、過疎地域を1ヶ月で回る企画に参加して、お住まいの皆さん方と交流したり、まちづくりのプレゼンや、初めての農業体験をしました。
5時間ひたすら一人で牛糞を畑にまく作業では、最初は愚痴ばかりでした。ところが、続けているうちに、だんだん気持ちが自然と一体化して、とても癒されたんです。
それで、農業や地域の可能性といったものに強く惹かれて、神戸大学の農学生が立ち上げたNPO法人「食と農の研究所」に入りました。神戸の水道筋商店街でマルシェやアンテナショップをしましたが、イベントだと一過性で終わるので、もっと生活に農を取り入れてほしいという想いが強くなり、オルタナティブビレッジを立ち上げました。

知事 それでは、松岡さんも、自己紹介をお願いします。

松岡 姫路生まれの姫路育ちです。大学からは大阪に行き、航空会社、テレビの番組制作、まちづくりの財団の仕事を経て、2011年からゲストハウスをしています。早いもので、もう7周年を迎えます。
人に出会うことと海外旅行が好きで、学生の頃から70ヶ国は行っています。

知事 一番珍しい国はどこですか?

松岡 中東のイエメンや、アフリカのマリ共和国ですね。

知事 それは、珍しいですね。

松岡 旅行では、安いのでゲストハウスに泊まりました。そこで、いろんな国の、いろんなバックグラウンドの方と知り合って、「ゲストハウスは面白いな」と気が付いて、自分もゲストハウスを開きたいなと思いました。

ゲストハウス名の由来

知事 ゲストハウスの名前に「588(ガハハ)」がついているのは、どうしてですか?

松岡 「外国の方が読みやすいように、数字で表現ができて、何か私に関連するような名前はないかな?」と友達に相談すると、私の笑い方が「ガハハ」なので588はどうかと提案してくれました。とても気に入っています。
でも、地元の方は「ガハハ」で覚えていただいて、外国の方は「588」ゲストハウスを探すので、道を聞いても分からず迷う方が多発しました(笑)。みんながガハハと笑ってくれるような場所を作りたいな、という思いも込めています。
 当時は、ゲストハウスに対する認知度が低く、全然貸していただけず、2年半ぐらい経った時に、ようやく駅と姫路城の間にある本町商店街のこの物件(丸勝食堂)を見つけました。部屋は3つで、11ベッドあります。

知事 「ガハハ」は、松岡さんの笑い声なのですね。ところで、建物はどうやって見つけたのですか?

松岡 大阪か姫路かで悩みましたが、やっぱり故郷に帰ってきたくて、姫路で探しました。不動産屋さんに聞いても、姫路城周辺で手頃な物件が無かったので、自分の足で探して直接交渉もしました。

知事 交流スペースはありますか?

松岡 ゲストハウスによって違いますが、交流を大切にしているところが多く、うちも1階に交流スペースを作っています。お酒も飲めますし、皆さん自由に楽しんでいただいています。本当は、ベッドを増やした方が儲かるのですが、譲れませんでしたね。宿泊者同士の交流こそ、ゲストハウスの醍醐味です。



三木・淡河・神出で活動

知事 山口さんは農業に目覚めて、どんな活動をされたのですか?

山口 まず、お米の勉強会に参加しました。農業体験と教育をマッチさせようとしたんです。
なぜ教育かというと、実は、僕は不登校生や引きこもりの子の、カウンセラーもしていました。さっき話した地域めぐりのバスに、何故か引きこもりの子が一人乗っていて、1ヶ月後にはとても元気になっていたんです。そのことから、地域や自然に連れて行って活動することが、有効なカウンセリングになると考え、「オルタナティブスクールを創る会」を立ち上げました。「オルタナティブ(=Alternative)」の意味は、「とって替わる、新しい選択肢」などです。
オルタナティブスクールは少人数で行います。海外や欧米では、いろんな私立の学校があって教育の多様性があるので、引きこもりが起こりにくい。そういう多様性を日本でも受け入れて、個性豊かな子をもっと伸ばせるような教育の場が必要だと思ったんです。
勉強会で出会った、三木市でお米の自然栽培をしている方と意気投合して、すぐに弟子入り。
1年間研修を受けて、空き家も紹介していただき、三木で大人がお米作りを学ぶスクールを始めました。

知事 大人で農業を学ぶ人たちは、どのような人ですか?

山口 野菜だと市民農園がありますが、お米の兼業スタイルは支援が少なく、都会の人がいきなり田んぼをやりたいと言っても、どうしていいのかわからない。師匠の田んぼを実習田にして、毎月2回、師匠が自然栽培とお米の授業を、残りは僕が教育やコミュニティの話をしました。初めは参加者10名ぐらいで、全員女性だったのが予想外でしたね。

知事 松岡さん、今の話に関心はありますか?

松岡 あります!

知事 やっぱり(笑)。次は淡河に拠点を作られたのですよね?

山口 農業と一緒に教育をやるには、里山みたいなところが良いなとイメージしていました。その点、三木は日当たりがあって水も豊富だけど、平野が広がっているので難しかったんです。
一方で、北区淡河は里山があって、茅葺の古民家が残っているような場所です。知り合いの団体が借りていた古民家が空くという話を聞いて、その伝で入りました。築100年の古民家で、目の前に畑があって、周りの田んぼをちょっとお借りして・・・。

知事 なんだか、ふさわしい感じですね。現在の規模はどれくらいですか?

山口 少数精鋭で、子どもを入れて年間100名程度です。今年で3年目となりますが、年々参加者が増えてきました。
単発のイベントは行っておらず、基本は「種まきから食卓まで」という年間のプログラムのみですが、具体的には、親子向けや、自給自足したい方向けのレベルアップしたスクールも用意しています

知事 神出にも活動を広げているのですか?

山口 実は、今年の2月に淡河の古民家が火事で全焼してしまいました。結構落ち込みました。その時に、西区神出のグランメールという宿泊体験施設が、老朽化して何年も使われてない、と聞いていたことを思い出しました。
オーナーとも知り合いでしたので、話が進み、10月から活動を始めます。
田畑のスクール系は、引き続き淡河でやっていきます。


ゲストも地域も盛り上げたい!

知事 ゲストハウスの利用者は、どんな方が多いですか?

松岡 姫路は主に、ヨーロッパの方が多いですね。買い物より歴史や文化に興味をお持ちで、姫路城や書写山圓教寺などを目的にいらっしゃいます。

知事 山口さんのように、拠点を増やすご予定はありますか?

松岡 ヨーロッパのお客様は和式のゲストハウスを好まれるので、まだ古民家が残っている野里という地域に増やしたいなと思っています。

知事 それは楽しみですね。民家や古民家を改装する時には、県の助成制度もあるので、使っていただけると良いですよ。事業所用だと、事業費450万の1/4から1/2を補助する。住宅用だったら空き家を改装して、水回りを中心に300万までを補助する制度を持っています。

松岡 ありがとうございます。

知事 姫路は泊まり客が少ないんです。お城を見に来てくれるのですが、泊まりは別、という方が多い。是非、そういう方を泊めていただきたいです。

松岡 私たちとしても、泊まっていただけない、連泊をしていただけないことがネックです。これをどうにかしたいと思い、夜のプログラムを考えています。例えば、夜のお城の近くで、お琴を聴きながら、姫路城の夜景を借景にして楽しんでいただく「ナイトピクニック」。こういう夜のプログラムを作って、姫路に泊まっていただく方を増やしたいです。

知事 姫路城以外にも、面白いVIEW ポイントがありますよね。松岡さんは、交流の場づくりもしておられるのですか?

松岡 姫路の知り合いを増やしたくて、「姫路手作りてんこもり市」という、誰でも参加できる手づくり市を、いろんな場所で11年開催しました。今は一旦終了しましたが、市民が交流できる場所作りになりましたね。
他にも、ゲストハウスのラウンジでは、スタッフが英語を教える企画や、誰か一人にお料理を作って頂いて、それを皆でいただく「みんなで晩御飯」をしています。「みんなが先生」というプログラムでは、何か一つ得意なこと、例えば、ポップを作ることや、上手なディスプレイの仕方などを、みんなに共有してもらいます。

知事 広がりを次々持てる、面白そうなプログラムですね。


地域の方との繋がり

知事 山口さんは、オルタナティブスクールを始めてから、困ったご経験はありますか?

山口 僕はよそ者で、淡河に入るときは、運良く地元のキーマンを紹介していただきました。地元の中に繋ぎ役のような方がいてくださることは、すごく大切ですね。

知事 コミュニティのキーマンと知り合わないと、飛び込んでも弾かれてしまうかもしれない。地域の人に好かれるかどうかは重要ですね。

山口 信頼関係はすごく大事ですね。古民家が火事になった時は、正直、少し気まずかったです。なんとか、田んぼは引き続きさせていただいているので、とてもありがたいです信頼関係はすごく大事ですね。古民家が火事になった時は、正直、少し気まずかったです。なんとか、田んぼは引き続きさせていただいているので、とてもありがたいです

知事 松岡さんは、困ったご経験はありますか?

松岡 最初は、文化風習が違うので、「外国の方は怖い」と過度に警戒されていらっしゃいましたね。今はもう慣れていただいたみたいです。例えば、チェックインの16時より前の、ゲストハウスが開いてない時間に来られるお客様も多いのですが、お隣さんがお荷物を預かっていてくださったり、眼鏡が壊れていたら直してくださったり。 地域の方のご協力のおかげで、「次もまたここにリピートしたい」というお客様もいらっしゃって、本当にありがたいです。

知事 商店街全体が盛り立ててくださる。それは心強いですね。

今後の抱負

知事 最後に、これからの抱負をお聞きします。山口さんからお願いします。

山口 農業に関しては、就農はハードルが高いですので、草の根の活動ですが、皆で楽しみながら耕作放棄地を活用していきたいです。
教育に関しては、「里の幼稚園」という活動をしてみたいと思っています。
モチーフはドイツの「森の幼稚園」。全く園舎を持たずに、一年間森の中で保育活動をする。雨の日も風の日も自然のものに触れることで、身体能力や集中力、想像力がつく、そんな幼稚園です。これをアレンジして、僕らは日本の原風景ともいえる里山で展開したいです。
コミュニティづくりに関しては、10月から始めるグランメールで、自分たちの農作物を作りながら、加工もして、それを仕事づくりにする。オルタナティブビレッジを立ち上げた時の「コミュニティづくりを土台とした、教育と農業活動」という目標に近づけていきたいです。
グランメールを運営していた団体「ヘルシーママ」さんが培われてきた経験と若者がうまく融合しながら、ひとつのコミュニティを作りたいです。

知事 山口さんのようなグループが地域とコラボしてくれると、心強いですね。頑張ってください。松岡さんも、抱負をお願いします。

松岡 私は、ガイドブックに載っていない情報を、工夫して発信していきたいです。例えば、姫路では姫路のお祭りの情報しか観光案内には出ていません。もうすぐ始まる播州の秋祭は出ていますが、高砂の曽根と灘のお祭りははしごができる日程があります。
そこで、一見さんでも、こう行けばこんなふうにお祭りが楽しめるよというマップを、外国の方用と、日本の方用に作ってみたところです。
これからも、いろいろな方法で情報発信をしていきたいです。ゲストハウスと姫路市を盛り上げるというより、姫路を通じて、兵庫県の魅力を知っていただけるような活動をしていきたいです。

知事 是非、受け取った方の興味が沸いてくるような、物語性がある観光情報を作って、発信していただければと思います。宿泊客が増えますよう、期待しております。
お二人とも、これまでの経験をさらに活かして、未来をぜひ切り開いていただければと願っております。今日はありがとうございました。

山口 ありがとうございました。

松岡 ありがとうございました。