第145号 知事対談 (平成30年2月15日対談)

<知事対談>地域で育む 未来を担う子どもたち

今回のテーマは「地域で育む 未来を担う子どもたち」。 子どもミュージカル劇団FUNKYキッズの主宰でASハリマアルビオン(株)代表取締役の岸田さんと、(一財)野外活動協会(OAA)子ども若者育成担当主事の日野さんに、知事と語り合って頂きました。

自己紹介

岸田 子どもミュージカル劇団FUNKYキッズは、平成9年の8月に創立し、今年で21年目です。ASハリマアルビオンでは3年、代表をしています。FUNKYキッズ創立のきっかけは、あるお母様に「私の子、ちょっと変わっているんです」と相談されて、「何が変わっているのかな?」と見てみると、音楽を聴くと身体が動いてしまう、歌ってしまう、ピアノを落ち着いて弾けないっていうようなお子さんでした。

知事 ピアノを落ち着いて弾けないというところが、お母様には問題だったんですね。

岸田 でも、その子はいろいろな表現をしていたので、「お母さん、これはひとつの個性なんです」と。その個性を伸ばす何かをやりたいなと思ったことが、FUNKYキッズの始まりです。当時、私の音楽教室に通っていた子どもたちに声をかけて、最初は7名から始めました。そこから、私の子どもに対する思いや、後進の指導の中で自分がどう成長していき、どう刺激を与えて創造性豊かな子どもたちを育てていけるか、という課題意識を持ちながら、活動を続けています。

知事 日野さんは、子どもの頃から野外活動に参加していたのですか?

日野 小学生の頃からキャンプに参加しておりました。そして高校生になったある日、「久しぶりにキャンプの時に会った人と遊びませんか?リーダーと遊びませんか?」という手紙が一通届きまして、これは楽しみだと行きましたら、気づいたらリーダーになっていました(笑)。

知事 それ以降ずっとキャンプに参加され、今は指導者役も務めておられるんですね。

日野 そうです。今働いているOAA(野外活動協会)の学生リーダーや、神戸市の教育委員会のジュニアリーダーなど、いろいろな団体で活動をしてきました。実は、兵庫県の自然学校のリーダーも経験しています。

子どもの個性を伸ばす環境

知事 岸田さんは、ミュージカルを通じた指導で、子どもたちのそれぞれの個性を伸ばす為に、どんな事に気を付けていらっしゃいますか?

岸田 自由な発想で、自分が言いたい事を発言出来る力を幼少の頃から持っていると、コミュニケーション能力、いわゆる人間力が高くなると思っています。でも、叱るべきところは叱らなくてはいけないので、3時間のレッスンの中でいろいろな社会を見せます。叱り方としては「現行犯逮捕」。つまり、悪いことをすると、その時にすぐ叱ります。ただ、そのことだけを親御さんに報告したら、子どもが家に帰ったらまた叱るんですね。そして、お父さんが帰ってきたら、お父さんがまた叱る。そうすると、子どもはどんどん耳を塞いでしまいます。なので、親御さんには「こういう形で叱りました」と報告をするとともに、「私がちゃんと叱ったので、家ではもう絶対に叱らないでください」と伝えています。

知事 現行犯の時だけ叱って、あとは尾を引かないようにしている。

岸田 尾を引かないですし、次に何かあった時に「あの時こういう事をしたよね」という、積み重ねる叱り方はしません。

知事 これは、学校の先生に教えなければいけませんね。

岸田 その代わり、「そんなことしちゃダメよ~」ではなく、腕をバッと掴んで「コラッ!!」と叱ります。でも、もうそれでお仕舞い。子どもは、一回叱ればちゃんと覚えてくれます。もし涙を見せた場合には、ちゃんと劇団のお姉ちゃんたちがフォローします。

知事 今の話は、日野さんの子どもたちの指導にも、共通することがあるんじゃないですか?

日野 共通点がありますね。特に、キャンプで危ないことがあったり、死ぬかもしれないという時はもちろん止めます。もし二度目があれば、そこで本当に次に続かないように、声をかける時もあります。ただ、もう一方の「プレーパーク(冒険ひろば)」という事業の方では、あまり叱ることがないんです。

知事 「プレーパーク」を皆さんに紹介していただけますか。

日野 プレーパークとは、兵庫県が行う冒険ひろば事業で、子どもたちが「自分の責任で自由に遊ぶ場」です。そこでは、大人は指示をしたり注意の言葉をかけずに、自由に子どもたちが遊ぶのを見守ります。子どもが少々危ないことをするくらいなら、出来るだけ見守って、ちょっとした怪我をしても、「こうしたから怪我をしたんだ」ということを学んでもらう。そんな場所です。

知事 冒険ひろばは兵庫県の事業ですが、こういう素晴らしいリーダーがいてくれるから、うまく事業が繋がっています。



「怒る」と「叱る」

知事 いまの子どもたちは意外にも、ちょっと押せば動きはじめますが、押さないと動かない子が多いですよね。どう鍛えればいいんでしょうか?

岸田 指示待ち人間が増えています。なぜ行動を起こせないかというと、「何かをすると叱られるんじゃないか」と考える子どもが多いと思います。怒ると叱るとでは全然違っていて、怒ることは誰でも出来ますが、叱ることはなかなか出来ません。

知事 どう違うのでしょうか。

岸田 「怒る」は感情的に何回も思い出したように、事あるごとにグツグツと怒る、だと私は思っています。「叱る」は、叱る側もちゃんと指針を持って叱る。私は主に「サンドイッチ方式」で叱ります。例えば、まず肯定で「いつも大きな声でご挨拶が出来るよね」。次に否定で「でもこういうことやったでしょ、どういうことに繋がるかわかる?」と叱ります。最後にまた肯定して、「大丈夫、あなただったら出来るよね、もう二度としないよね。頑張ろうね」と叱ります。

知事 日野さんもキャンプや冒険ひろばで指導をしていて、相通ずるところがありますか?

日野 はい、怒ると叱るの区別を意識的にはしていませんが、一番モットーにしているのは、「怒られる体験」をさせてあげることです。子どもが「怒られてしまった」と思ってシャットアウトしないように、怒られる体験をしてもらった後のフォローアップとして、「こういう理由で怒った」という話をしたり、他のスタッフと一緒に連携して、岸田さんが仰った方法でフォローをしていく事は大切です。怒られてしまうだけでは、心が小さくなってしまいます。怒ったあと、どう対応するかが大事だと思っています。

野外活動での体験

知事 キャンプや冒険ひろばで、子どもたちを楽しませるために、他にも気を遣っていることはありますか。

日野 キャンプに関しては、なるべく楽しんでもらうことを意識しています。逆に、プレーパークの方は、こちらから楽しませにいってしまうと、子どもたちが「何をして遊んだらいいか分からない」ということが起こりかねません。なので、なるべく子どもたちが楽しいと思うことをやってもらえるような環境づくりに励んでいます。キャンプではプログラムを用意して、単なる遊びではなく、リーダーシップ、チームワーク、コミュニケーションなどを体験学習する機会を生み出すように、意識しています。

知事 それは、シナリオか何かを作っているのですか?

日野 はい。シナリオづくりを我々で行うこともありますし、学生の若者たちが毎週ミーティングで集まって、子どもたちに今何が必要かを考えながらプログラムを企画して、それを実際にキャンプで実施するということで、若者育成の場にもなっています。ついこの間は、雪の中でキャンプをやってきました。

知事 えー!それは大喜びだったでしょうね。

日野 そうですね。都会の子どもたちは、雪が積もっている白い世界を見るだけで「わー!雪だ!」と。それだけでも、すごい体験ですよね。


知事 他にはどんな活動がありますか?

日野 田舎生活の体験キャンプも、よくやっています。かまどでご飯を炊いたり、民家に訪問してそこで一緒に食べ物を採らせていただいて、採ったものを直接調理する。まさに地産地消の流れを体験してもらうプログラムを実施しています。

知事 お母さんのお供でスーパーに行って、きれいなキュウリやトマトを買う経験しかない子どもたちが、直に農家を訪ねて、自分がもぎったものを食べる。それは貴重な体験ですね。

活動のモットー

知事 ミュージカルでは、子どもたちが役割を演じるようになるまで、どうやって鍛え上げるんですか。

岸田 急に「カメラに向かって笑ってください」と言われても、笑えないですよね。自然な笑顔を作れるようになるために、イベントやボランティア活動に参加させて、様々な活動から出た笑顔を、自分の中にインプットさせます。そして鏡に向かって、楽しかったことを思い出して、「その笑顔でもう一回踊ってみよう!」と言うと、自分たちから自然な笑顔がでてくる。また、ショーを見た方から「今日あなたたちの笑顔を見て元気になったわ」と言われると、また次頑張ろうと思う。褒めてもらうために頑張ったり、認めてもらえたという肯定感情が、彼女たちをそこまで成長させています。

知事 肯定の循環なのですね。


岸田 はい。そしてもう一つが「ありがとう」です。感謝の「ありがとう」という5文字の中に、5つの心が入っています。あは「愛」、りは「凛とした心」、がは「頑張る気持ち」、とは「尊い命」、うは「嬉しいといえる素直な心」。ありがとうと言われたら、その5つの気持ちが全て伝わります。その人がありがとうという言葉をもらって嬉しいと思ったら、また次もありがとうと伝えるので、感謝の言葉がずっと循環していきます。

知事 日野さんも、岸田さんの「ありがとう」のように、モットーにしていることはありますか?

日野 「当たり前であることに気付かせる」ことです。野外活動のような特別な場所に移動すると、普段の生活がどれだけ恵まれていて、どれだけ良い生活を送っているのか、ということが実際にわかると思います。キャンプでは特に、不便な場所に行きますので、「自然って、こういう関わりが自分とあったんだ」という感謝の気持ちが出てきて、それを支えている現代の日常生活に戻った時も、「こういう仕組みで物事は成り立っているんだな」という気付きが生まれることを期待して、その場に関わっていくようにしています。

知事 お二人の活動に共通しているのは、子どもたちに自立心や、新しいことにチャレンジする挑戦心、そして自分が何をやっているかという「自覚」を持たせるといったことですね。

地元への定着

知事 岸田さんは、どういうきっかけでサッカーチーム「ASハリマ」の代表になられたのですか。

岸田 ASハリマアルビオンは、日ノ本短期大学の女子サッカー部から発展したチームです。部員は、全国から女子サッカー部に入る為に来るけど、短期大学なので2年で卒業して、地元に戻ってしまう。こんなに素晴らしい娘たちを、なんとかこの街に、この播磨に、この兵庫に定着させる方法として、クラブチームを作りました。

知事 卒業してからも、播磨でサッカーを続けられる仕組みを作ったんですね。

岸田 そうです。彼女たちが頑張ってくれて、3年でなでしこリーグの2部に入り、平成29年度はオリンピック強化指定選手も選ばれました。また、彼女たちはサッカーを卒業しても、そのままこの播磨、兵庫に残っています。彼女たちはサッカーだけでは食べてはいけないので、地元企業で朝から夕方まで8時間フル労働しています。そして夜に練習して、土日は遠征する。しっかり働いてスキルがつくので、サッカーを卒業してもそのまま企業で正社員として働いています。職場で恋愛をして、結婚をした選手もいます。他県から来た選手も、兵庫県民になりました。

知事 それは素晴らしい。もっと兵庫県の人口増に寄与していただけたら、ありがたいです。

岸田 女性ですので命を産みますし、彼女たちに播磨への定着を勧めています。ですから雇用先にも、「サッカーをやめた後も、彼女たちをできるだけ働かせてやってほしい」と協力をしていただいています。

知事 キャンプで日野さんが鍛えている子どもたちは、今のお話のように、兵庫に残っているのですか。それとも世界に雄飛しているんですか。

日野 まだ子どもの状態なので、どこへ羽ばたくかは分からないんです(笑)。自分自身は子どもの頃からキャンプをして、偶然にも現在キャンプを仕事にしています。同じように、子どもの頃キャンプに参加していた大学生リーダーや、リーダーになりたい子どもたちが増えてきて、そういう循環が今起こりつつあります。地域でキャンプをして、キャンプで得た力をまた地域に返すことは、本当に良いことだと思います。そういう活動をする子どもたちになってもらいたいな、とすごく期待しています。それが世界まで行けばもっと良いのですけどね。

知事 過程は違うかもしれませんけど、お二人が目指す方向はきっと同じなのでしょうね。


子どもたちの夢

日野 子どもは、キャンプを通じていろいろな世界を見ていきます。子どもだけではなく、若者のリーダーたちも、自分がやりたいと思っていたことからいろんな世界を見ることで、自分の夢を見つけることはあると思います。

岸田 劇団での活動で、様々なお仕事をされている方たちと出会うことで、憧れの職業や夢を見つけて、目標を持って飛び立っていっております。医師になった子や、マスコミ関係に進んだ子もいます。

知事 子どもたちに、自分は何になりたいかの夢を持ってもらうことが一番良いですが、自分探しをしなければいけない時期もたくさんありますよね。


今後の抱負

知事 最後に、これからの抱負をお聞きします。岸田さんからお願いします。

岸田 劇団を通じて、地域に住んでいる子どもたちに、夢を実現できる環境作りをしてあげたいと思っております。ASハリマアルビオンでは、スポーツを通じて、トップリーガーになれるという身近な目標を与えたいです。魅力あるチーム、魅力ある劇団が、人の吸引材になることを目指してやっていきたいです。

知事 宝塚の高校に演劇科があって、ほとんどの卒業生は他の分野に進んでいますが、その時の体験や勉強がとても役に立つと言っています。きっと、岸田さんが育てた子どもたちも羽ばたいてくれると期待しています。

岸田 もうすでに羽ばたいてくれていて、みんな兵庫県に戻ってきています。「県民だから出来ることをやろう」が私の口癖です。兵庫県には素敵な自然がたくさんあって、いろんな産業もあります。「地元播磨に戻ることが恩返しだ」と言ってくれています。

知事 力強い味方を得た気分ですね。

日野 兵庫県は本当に、野外活動をする上ではこの上ない、全国でも数少ないとても良いフィールドです。日本海と瀬戸内海に挟まれて、山あり海あり川ありのなんでもあり。北海道や長野のようなハードな自然はありませんが、一番体験しやすいコンパクトな自然が揃っています。その環境と自然学校があるので、なおさら良いリーダーが多いと思っています。そのリーダーたちの活動をもっと活発にしていって、野外活動や体験活動がもっと多くの人に伝わるような活動を続けていき、身近に体験がある、子どもが育つ環境をつくっていきたいです。例えば今後は、田舎での企画だけでなく、都市部でふるさと体験ができる企画にもチャレンジしたいです。

知事 人間ひとりで生きていく訳ではないから、そういう仲間や自然との交流の大切さを「体験で学ぶ」ということの真価を発揮し続けていただくと、ありがたいです。頑張ってください。

日野 ありがとうございます。

知事 本日はありがとうございました。お二人の、益々のご活躍をお祈りしています。