第142号 知事対談 (平成28年10月4日対談)

<知事対談>芸術文化でふるさとを元気にしよう

今回のテーマは「芸術文化でふるさとを元気にしよう」。 映画監督の白羽弥仁(しらはみつひと)さんと、一般財団法人淡路島くにうみ協会職員で淡路島フィルムオフィスコーディネーターの津守会美(つもりえみ)さんと、知事に語り合っていただきました。

自己紹介

白羽 私は5歳まで芦屋で育ち、その後神戸の灘区に移り、高校時代から8ミリ映画を回していました。そのまま映画監督になりたくて、日本大学芸術学部に行き、その後は東京に在住していたのですが、29歳の時にオール阪神間ロケの作品「She’s Rain」を、自分の青春時代の全てをつぎ込む思いで制作しました。そこからキャリアを重ねてきましたが、去年、阪神・淡路大震災20年を記念して「神戸在住」という作品を神戸で撮影し、公開しました。

知事 「神戸在住」は、我々にとって励みになる映画でした。なぜかと言いますと、震災から20年経ってくると、どうしても記憶が風化していくんですよね。我々は阪神・淡路大震災を忘れないということが第一のスタートなものですから、そういう意味で、「神戸在住」という映画は、忘れないということを象徴していただいた、いい映画だったと思っています。

津守 私は淡路島に生まれ、高校まで淡路島で育ち、高校卒業後は数年大阪で、パソコンのインストラクターをしていました。その後、結婚することになり、相手が淡路島の方だったので、淡路島にまた戻ってくることになりました。

知事 パソコンインストラクターをされていた方が、どうしてフィルムオフィスのコーディネーターになられたんでしょうか。

津守 これは、本当に偶然といいますか。淡路島フィルムオフィスは、元々は淡路青年会議所が立ち上げたのですが、淡路島くにうみ協会の設立と同時に、フィルムオフィスの事務局を引き継ぐことになり、私が担当することになりました。

知事 従来からご縁があったわけではなかったけれど、ふさわしい方に担当してもらうことになったんですね。

津守 以前は観光や広報の担当をしていました。今はフィルムオフィスの担当をしていますが、ロケ現場になる所は、観光地ではない所が多くて、最初は戸惑うことが多かったです。

知事 ロケ地になるような所というのは普通の観光地とは違うんでしょうね。

津守 淡路島は海に囲まれていますので、まず海というのを第一に求められます。プラスして、海が見える高台、路地、坂道という所を求められますので、一般的な目線とは違うなと感じます。



映画監督の魅力

知事 映画監督に最初からなりたかったとおっしゃいましたが、映画監督の魅力とはどういうところにあるのでしょうか。

白羽 最初の監督作品「She’s Rain」に至るまでは、自分のイメージしていること、それから自分がそれまでたくさん見てきた映画の影響、神戸や阪神間の街並みを愛する気持ち、そういうストレートな気持ちを撮し取って映画にしたいという思いがありました。それから、20数年経って、もう4本映画をつくってきて、今は、自分がどう考えているかということより、社会で起きていることや歴史を自分はどう見るかということを考えた時に、ぱあーっとイメージが膨らむと、それが映画にする動機になっていきます。
映画監督というのは、一個人が思ったことを大勢の力で映像にするという他にはない作業、芸術です。ですから、できあがった時の喜びも含めて、たくさんの人に見てもらうことの喜びが一番で、映画をつくる動機、監督をやる動機かもしれないですね。

知事 映画を撮られている時に、自分の気持ちとぴったりマッチする場合と、なかなかうまい具合にシンクロしない場合とがあるのではないですか。

白羽 そうですね。天候やお金、いろんな条件があります。その時々の条件がありますので、監督というのはその場でジャッジしないといけない。何をどう描くかというのはもちろん大事ですけども、ここまでやるか、切り上げるか、もう1回やるかというジャッジを求められることが多いです。思い描いている世界にどう近づけていくか常に葛藤があって、それが一つのおもしろさでもあるんですけど、同時に難しさでもありますね。

知事 ロケが中心ですから、いわゆるスタジオで撮影するのとは違うんですね。それだからこそ緊張感や臨場感、色々なおもしろみが出てくるんですね。

白羽 本物のよさが一番です。本物のよさをどう活かすかですよね。

映画に不可欠なロケ地探し

知事 ロケ地というのが非常に大事になってくるんですね。こういうロケ地がないかと要望された時、どうやって候補を探されるのですか。

津守 淡路島が舞台になる作品は本当に少ないのですが、例えばメインが神戸で撮影する時に、神戸にはない古い街並みや、昭和の街並みがないかといった問合せがありますので、それに見合う候補地を1つではなく、2つ3つ提案し、選んでいただき、下見に来ていただくという形で進めています。

知事 洲本の街並みは、ある意味ですごく古い、しかしロマンチックな感じのある街並みですよね。

津守 洲本にも昭和の街並みで古い所が残っているんですけど、淡路島の中では実は、北の淡路市あたりでの撮影が多いです。

知事 昭和の雰囲気だと岩屋のあたりですか。

津守 岩屋のほうもですけど、他にも高台から海が見えて、坂道や石垣が残っている所がありまして、昔の風景の撮影で使っていただいています。ちょっと角度を変えれば全然見え方も違ってきますので、同じ場所で何作品か、そこで撮っていただいています。

知事 元々フィルムコミッション業務をやるつもりで、くにうみ協会やその前の淡路花博事務所にいらっしゃった訳でもないですから、最初は戸惑いがあったのではないですか。

津守 そうですね。今でこそ女性のスタッフも制作の中に増えてきていると思うんですけど、やはり男性の世界ですので。

知事 男性の方が多い世界ですか。

白羽 映画のスタッフ、監督もそうですけど、よく言うとワイルドで悪く言うとちょっと荒くれな人が多いです。監督としては、私みたいなタイプは珍らしい(笑)。「こういう所見つけて来い」みたいなことで、上からガッと来られます。

知事 なるほど。それは戸惑ったのではないですか。

津守 最初は戸惑いました。ちょっと乙女な所もございましたので・・・(笑)。今は、スタッフの方に車に一緒に乗っていただいて、次に繋げるために、車中で今はこういう所を探しているけども、実は他にもこういう所を探しているというお話を聞いて、コミュニケーションを取るように常日頃から心がけています。

淡路島オールロケで盛り上がった映画「種まく旅人~くにうみの郷~」

知事 フィルムコミッション業務との関わりで、印象に残っている映画を挙げるとすると何でしょうか。

津守 やはり、昨年公開の淡路島を舞台にした「種まく旅人~くにうみの郷~」です。農業と漁業の従事者をテーマにした映画ですが、淡路島でオールロケというのはこれまでになかったので。島民の方もエキストラに300人程参加していただき、全島で盛り上がった作品になりました。

知事 エキストラでもいいからフィルムに登場できるっていうのは、インセンティブになりますよね。

白羽 よくそう言われるのですが、いざ現場でもう1回、もう1回と夜中まで撮影をしていると「こんなに大変なんですか」と言って、皆さんもうぐったりなされるんですね。

知事 そんなに大変ですか。

白羽 何回もやりますから。

知事 じゃあ、あんまり気軽に手をあげられませんね。

白羽 いえいえ、ぜひやっていただきたい。体験する分にはおもしろいです。映画ってこうやってつくるんだということを知ると、他の映画を見る時でも、「あー同じように撮っているんだ」と思えますので、映画の見方が格段に違うと思います。

知事 「種まく旅人」は、淡路島の漁業と農業、玉ねぎも含めて、担い手を主人公にした映画で、随分淡路島のPRをしてくれました。だから、淡路島の子どもたちに、見てもらったんですよね。フィルムオフィスに投書等ありましたか。

津守 感想文を学校からいただきました。自分の親が農業をしていたり、漁業をしたりしているけれど、映画を見て、実際にこんな仕事をしていたんだというのが分かったという感想文がありました。何か植えてるとか、船を出してどこかに行ってるとか、そういうところまでは分かっていたけど、実際に玉ねぎを定植して収穫するまでにすごい時間がかかるということを、この映画を見て分かったというお話もいただきました。

知事 意外と農家の子ども達が手伝っていないんですよね。親御さんが手伝わせてないんですね。多自然地域で育っているという機会を活かしきれていない。そういう意味で子育てのあり方みたいなのを考え直してもらわないといけません。

「神戸在住」に込めた思い、今後の作品展望

知事 「神戸在住」で、震災後20年の神戸の街を訪ねていくことを主人公に託して、どういうメッセージを発信されようとされたのでしょうか。

白羽 この作品は地元のサンテレビからの依頼でつくったんです。サンテレビにはそれこそ膨大な震災時の映像が残っていますが、その映像を繋ぎ合わせて作品にするなら、私の用はない。そうではなく、ドラマ・映画をつくるのであれば、主人公が震災を知らない20歳の女の子なので、知らない子たちにとって、震災がどうであったかと感じてもらいたかった。一番は命の問題ですね。昨日、今日、一緒にご飯を食べた人が突然、震災によって、いなくなる。これはどんな災害にも共通することですけど、そのことを本人がどう捉えるかというところにテーマを絞ったつもりです。ですから、本人は震災で死んだ人を全く意識していなかったのに、震災で家族を亡くした人であったり、あるいは不慮の病気で亡くなってしまう人を目の当たりにすることで、感じるという風にして、20年前に震災があったということがシンクロするドラマ・映画にしたかったんです。

知事 ありがとうございます。冒頭申し上げたように、忘れないという思いに繋がっていくようで、大変嬉しく思っています。
次の作品は検討されているのですか。

白羽 またぜひ、兵庫県で映画を撮りたいなと思っています。いわゆる文化遺産として残っているものがたくさんありますし、村上春樹さんや古くは谷崎潤一郎さんの小説、そういうものを活かして映画に出来ないかなということを考えているところです。谷崎潤一郎さんはヨーロッパなどに行くと、ものすごく人気があるんですね。翻訳本もたくさん出ています。そして、芦屋が舞台のものもありますから、兵庫県をあげて発信していくと世界に届くんじゃないかと思いますね。

知事 期待しています。

白羽 ぜひご協力をお願いします。兵庫県は文化遺産・文学遺産がたくさんある所ですので、そういうものを活かして、世界に発信したいという思いがあります。

知事 西宮市の武庫川女子大学甲子園会館や神戸市内の萌黄の館等色々あります。私が大好きなのは、「ラストサムライ」の舞台になった書寫山圓教寺です。


白羽 あそこも映画のロケ地になって、人がたくさん来るようになりましたね。

知事 ロケ地は、ロケハンに入っていただいて、地元で活動を展開していただくだけではなくて、話題になると、ここで映画が撮られたんだということで観光価値が出てきますね。

映画で淡路島を盛り上げる

知事 ロケの相談は来ていますか。

津守 いくつか来ています。ひょうごロケ支援Netから紹介いただいて、この冬にも夢舞台の国際会議場で撮影することが決まっています。それ以外にドラマとしては昨日(10/3)から公開されている朝ドラの「べっぴんさん」があります。神戸が舞台の作品ですけど、実は昔の風景を淡路島で撮影しています。高台からの街並みの風景も淡路島 で撮影しています。


知事 ロケ地というのは、舞台とか、衣装みたいに化けられるんですね。

白羽 現代の風景を昭和の風景にしないといけない時もありますしね。

知事 益習館なんか使っていただいたらどうですか。

津守 そうなんです。下見をしていただいたことはあるんですけど。

知事 なかなか風情があります。三熊山の洲本城のすぐ下にあるんです。

白羽 一度見に行きます。

津守 ご案内させていただきます。

知事 淡路を舞台にした場面をたくさん監督に入れてもらったらどうですか。

白羽 淡路島出身の俳優は多いんですよ。古くは、渡哲也さんから、最近は朝比奈彩ちゃんというアイドルもいるので、ぜひそういった方たちに淡路島に帰ってきてもらって、オール淡路島の映画を撮ったらどうかと打合せの時に話をしていたんです。

津守 監督にメガホンを取っていただいて。

知事 淡路島と言えば、渋い俳優さんがいらっしゃいましたよね。誰だったかな。

津守 笹野高史さんですね。笹野さん主演の淡路島を舞台にした作品「あったまら銭湯」を先日(9/17~9/19)「うみぞら映画祭」で上映させていただきました。

知事 「うみぞら映画祭」は、おもしろいイベントですよね。海の上にスクリーンを張って、陸上から映して、観客は寝そべったりして見るんですよね。

津守 砂浜から見るんです。

知事 定着させるといいイベントですね。

津守 映画を見る人口が減ってきていますが、こういう風に空間を変えれば、人が集まってきます。

今後の抱負

知事 それでは、白羽監督から、今後の抱負、これから何をやっていこうとされているのかお伺いできればと思います。

白羽 まずは、来年2月公開の私の新しい映画「ママ、ごはんまだ?」をたくさんの人に見ていただきたいです。先日、この作品を持ってスペインで開催された「サンセバスチャン国際映画祭」に行ってきたところ、大変好評だったんですね。自分たちがつくっている映画が世界でこうやってちゃんと受け入れられるんだと思いましたので、それはこれから一番意識したいなと思っています。国境を越えて、日本映画を見てもらう、それはひいては、日本という国を理解してもらうことの一助になると思うので、ぜひこの先進めていきたい。そういう作品をつくっていきたいなと思っています。

知事 これからもご活躍をお祈りしています。津守さんはいかがですか。

津守 私たちは作品を誘致するというのがメインの仕事ですけれども、その場合は、ここで撮影させてくださいと地域の方にお願いして協力していただくことが多いんです。ですから今後は、地元に何かしら還元できるよう、島外からお客さんにもっと来てもらえるような取組みを観光協会と一緒にやっていけたらなと思います。

知事 ロケ地になることが、ダイレクトに島おこしにつながりますから、大いに淡路島をロケ地として活用するように働きかけてください。お二人にはお忙しいなか、大変楽しいお話を伺わせていただきました。どうもありがとうございました。