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兵庫県内の社会貢献企業を紹介

多様な活動資源とノウハウを持つ「企業」の社会貢献活動を促進し、「ひょうごの地域づくり活動」の輪を一層広げていくため、県内企業による社会貢献活動の実践事例や県の支援・促進施策をご紹介します。

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「我が社らしい」社会貢献活動とは? - 事業活動の延長線上で考えてみる -

神戸地域

企業名 株式会社アシックス
代表者名 代表取締役社長 尾山 基
設立 1949年9月1日
資本金 239億7,200万円(平成19年3月31日現在)
社員数 4,230名(連結)・1,255名(単体)(平成19年3月31日現在)
所在地 兵庫県神戸市中央区港島中町7-1-1
主な事業活動
  • 各種スポーツ用品・各種レジャー用品の製造及び販売
ホームページ 株式会社アシックスのホームページ
掲載日 平成20年3月31日

株式会社アシックス 法務部CSR推進チームマネージャー 田ノ岡義純さんにお話を伺いました。

他企業から社会貢献活動に関する相談を受けることがあるそうですが、どのような内容が多いのでしょうか。

社長さんがどこかでCSRや社会貢献の話を聞いてきて、とりあえず我が社も何かしないといけないので、何をしたらよいか、というケースが多いですね。

そうしたときに、まず申し上げるのが「経営の理念やビジョンがありますか」「ないならまずそれを創ってください」ということです。そこからCSR的要素を起こしていくことで、その企業らしい社会貢献活動の理念や、どんな活動をするかを判断する際の基準ができていく。

例えばパン屋さんなら、パンづくりを通じて、食の安全安心を確保する、健康づくりを応援する、アレルギーのある方に食の楽しみを提供するなど、事業活動を通じて、どんなことを消費者に伝えたいのか、どんな社会をつくりたいのかといった思いがあるでしょう。

そうした事業活動の理念・ビジョンを踏まえて、どんな社会貢献活動をすべきかを考えていくということです。

もちろんアシックスでも、社屋周りの清掃活動もやりますし、地域の要請に応じて「こども110番活動」等に参画「市民救命士講習会の開催」を企画するほか、CSRに関する講師・パネラー等の依頼を積極的にお受けするなど、スポーツと直接関係のない活動もやっていますが、それは、地域社会の構成員としての役割を果たすとともに、地域の皆さんにアシックスの取組を知っていただきたいとのおもいからです。

相談を受けた場合は、アシックスの経営理念・ビジョン・CSRの考え方や取組内容をご紹介しますが、その中から「これならうちにも取り入れられる」と思われる部分を参考にしていただければいいんです。そのまま真似してはダメで、貴社にあわせて良いところだけを取り入れてください、とお伝えしています。

アシックスさんの場合は、経営理念の中で社会貢献活動をどのように位置付けられているのでしょうか。

田ノ岡氏へのインタビュー風景

アシックスは、創業者である鬼塚喜八郎が、スポーツを通じた青少年の健全育成を願い、1949年の神戸に、スポーツシューズメーカーを立ち上げたのが出発点で、「健全な身体に健全な精神があれかし - Anima Sana In Corpore Sano」を創業理念としています。

また、経営理念として

  1. すべてのお客様に価値ある製品・サービスを提供する
  2. 私たちを取り巻く環境をまもり、世界の人々とその社会に貢献する
  3. 健全なサービスによる利益を、アシックスを支えてくださる株主、地域社会、従業員に還元する
  4. 個人の尊厳を尊重した自由で公正な規律あるアシックスを実現する

を、めざすべき姿(ビジョン)として「スポーツ・健康・快適ライフを創造する世界ナンバーワン企業」を掲げています。

こうした経営理念・ビジョンの下、CSR活動における「7つの課題」として、

  1. 安全品質と顧客満足
  2. コーポレートガバナンス
  3. 個人情報管理
  4. サプライチェーン管理(生産サイド)
  5. 環境保全
  6. 社会貢献
  7. 従業員満足度

を掲げ、各課題に対応したステークホルダーとの適切なコミュニケーションを心掛けています。

例えば、「2 コーポレートガバナンス」では、遵法・企業倫理の観点から、企業活動のあるべき姿・社員一人ひとりが持つべき価値観を定めるとともに、透明性の高い企業経営のしくみを明らかにしています。

また、「4 サプライチェーン管理」では、アジア地域の生産委託工場における労働者の人権擁護や労働環境整備に関する監査を進めるなど、いずれの課題に対しても、経営理念・ビジョンに即した対応をとることとしています。

社会貢献活動に対する基本姿勢をお聞かせください。

CSRは「企業の社会的責任」と言われますが、「責任」という解釈は、あまりにも重く義務的で相応しくない。また、何をしたらいいのか分からないからとりあえず社会貢献と言えば寄付と考えて寄附をするというのとも違うと思うんです。

CSRのRはレスポンス。株主・消費者・取引先・地域・社員といった、私たちのステークホルダーの期待にいかに応えていくかが大切だと考えています。

CSR活動における「7つの課題」の一つに「6 社会貢献」を位置づけていますが、社会貢献活動をやろうとすることは、事業活動で得た収益を何に使うかという判断をすることですから、私たちのステークホルダーに納得・満足していただけるものを実施していく必要があります。

その際には、「事業活動の延長線上に社会貢献活動がある」との考えから、スポーツメーカーであるアシックスの経営理念に相応しい、そして事業活動上のノウハウや資源を活かした活動をするよう心掛けています。

「事業活動の延長線上に社会貢献活動がある」との考え方を現した活動事例を紹介してください。

昨年度は、「東京マラソン2007」にオフィシャルスポンサーとなりました。参加ランナーのTシャツ・防寒用ヒートジャケット、大会役員・スタッフのウェア・シューズ、運営ボランティアのウェア・キャップを提供するほか、走ることができない環境におかれている世界の子どもたちのための「ワンコインチャリティ」を実施しました。

「スペシャルオリンピックス日本 兵庫5周年記念競技交流会」では、運営ボランティアを社内公募したところ、28名の社員が手を挙げ、大会運営に当たりました。いずれの場合も、より多くの方にスポーツの機会を提供し、スポーツの楽しさ・喜びを伝え、健康づくりのきっかけにしていただければとの思いで参画させて頂きました。

また、「子どもが野球を始めたいと言った時に読む本」という小冊子を配布しているのですが、これは商品カタログではないんです。

子どもの体力や体つきに合わない道具選びをしてしまうと、一生懸命練習しても上達を妨げてしまうこともある。また、最低限どんな道具が必要かを知らないため、不必要なものまで買ってしまうこともあります。

そこで、グラブ・バット選び・手入れ方法から、チーム選び、キャッチボール・バッティング練習、ユニホームの着方までをまとめました。量販店でここまでの説明をするのは難しいでしょう。

野球は、相撲と並び多くの日本人に親しまれてきたスポーツ。今やメジャーリーグで約30名もの日本人選手が活躍しています。より多くの子どもたちに、そんな野球に触れて好きになって欲しいという願いからこの小冊子を作成しました。

「何をしたらいいのか分からないからとりあえず寄附をするというのとは違う」という点についてもう少し詳しく教えてださい。

お金だけを出してあとは任せきりということではなく、支援を受ける相手方の立場に立ちもっと人間的な関わり方をしていく方法があるのではないか、もっと生きたお金の使い方があるのではないかということです。

例えば、パキスタン北部震災の際に、何かアシックスにできることはないかと行政に問い合わせたところ「物資は行き渡っているから特に必要ない」「防寒靴下でも送ってみてはどうか」と言われたのですが、今ひとつ納得がいかず、アジア支援を続けているNGOに問い合わせてみました。

すると「山奥まで物資が行き届いておらず、特に子どもたちはこの冬を越せるかどうか分からない」とのこと。早速、防寒ウェア上下を7,000セット確保しました。ところがそのNGOによると、その地域は靴やズボンをはかない習慣があるそうで、送っても使われないだろうというのです。ズボンだけの大量在庫が残るのは辛いところもありますが、使われないものを提供しても仕方がないので、上着だけを提供させて頂くことにしました。

また、普通に送ってしまうと、政府と軍に多くを持って行かれるおそれがあるので、NGOの協力を得て、その方たちに直接現地に届けていただきました。

スマトラ沖地震の際には、会社はもとより、社員から寄附を募り、ジャパン・プラットフォームというNPO支援組織を通じて現地で災害救援に取り組んでいる日本のNGOに寄附をしました。日本の企業が海外で汗をかいている日本のNGOをちゃんとバックアップしている姿を、国際社会で見てもらうことに大きな意味があると考えたからです。

このほか、阪神淡路大震災のときもそうでしたが、災害直後の救援活動が落ち着き復興に向かう過程においては、子どもたちの元気や明るさを取り戻すことが大きな課題となってきます。そうしたときにスポーツが一役買えるのではないか、スポーツメーカーだからできる支援の方法があるのではないかと考えています。

社会貢献活動の中でも「多様な雇用や働きやすい職場づくり」に関する考え方をお聞かせください。

例えば、女性の働きやすさで言うと、新入社員の半数は女性で、育児休業等の制度が充実しているためか、女性社員が結婚・出産で退社することが少なく定着率が高いと思います。

ただし、女性管理職に関しては、片手くらいの人数でまだまだ。アシックスとしても、多くの女性ユーザーがおられる中で、女性の管理職登用が進んでほしいと願っています。

アシックスでは、先の「7つの課題」の一つに「7 従業員満足度」を位置づけ、社員一人ひとりが差別されることなく個性や能力が大切にされる職場づくりを進め、「人物本位の採用」「家庭と仕事の両立支援」等の人事施策を展開しています。

毎日会社でつらい思いばかりしている社員が100%の良い製品をつくることはできません。社員一人の不適切な行動が企業全体を揺るがすこともある。

一方、社員一人ひとりを大切にするとともに、自分たちは世界に認められた製品をつくっているという意識を持ってもらえれば、誇りを持って仕事に取り組んでもらえる。アシックス社員だけではなく、海外の生産委託工場で働いておられる皆さんも同じ思いだと思うんです。

社会貢献活動が事業活動に与えるインパクトについてお聞かせください。

アシックスがオフィシャルスポンサーとなった「東京マラソン」に参加された方やテレビをご覧になった方が、ランニングに興味を持たれたとしても、アシックス製品を選ばれるかはまた別の話。

あるおもちゃメーカーの担当者も言っていましたが、活動をご覧になった方が「いい企業だな」と思ってくださったとしても、その方の好きなブランドやデザインが必ずしもそのメーカーのものとは限らないんです。

また、社会貢献活動が、売り上げや優秀な人材の確保に直結するかと言われれば必ずしもそうではない。

そもそも、効果を数値化するのは困難だし、仮に売り上げが伸びても、広告が良かったのか、営業社員が頑張ってくれたのか、活動を評価してくださったのか、結果に至る原因を1つに特定することは不可能だと思います。

むしろ、企業が、地域・社会の中で存続していくために、アシックスの活動で喜んでくれる人がいる、社員も喜んでもらえて嬉しい・自分の会社に誇りが持てるという、ウィンウィンの関係を結べることが大切だと考えています。

ただし、私たちのステークホルダーが納得・満足していただいているかを把握するため、活動内容を分かりやすく示したCSRレポートをお示しするとともに、活動の中で興味を持たれたもの、評価、分かりやすさなどを項目としたアンケートを実施しています。アンケート結果は、可能な限り、今後の活動やCSRレポートづくりに反映させるようにしています。

また、消費者に対して直接商品やサービスを提供しない企業においても、社会貢献活動の意義はあると思います。

例えば、車の部品をメーカーに納めている企業であれば、車の中でその部品が果たしている役割や環境への配慮、工場緑化や社員の労働環境について、事業活動と社会貢献活動の両面からアピールしていけば、取引先となるメーカーや金融機関は、そうしたところをちゃんと見ているものですよ。

社会貢献活動に対する社員の皆さん理解を深めるために、どのような取組をされていますか。

公私にわたる社会貢献活動を社員の意識に浸透させていくためには、企業トップの旗振りが欠かせません。アシックスでは、社長自らが、残業を減らしてその分の時間を社会貢献活動に充てるよう、様々な機会を捉えて社員に語りかけています。

また、CSRレポートは今年度で4冊目になるのですが、アシックスの取組について、まずは社員に理解してもらわなければ始まらないので、1冊目は、主に社員に読んでもらうことを念頭に置いて作成し、社外向けを意識して製作したのは2冊目以降なんです。

具体的な取組例としては、「スペシャルオリンピックス」に社員有志による大会運営ボランティアを派遣したことなどが挙げられますが、このほか、神戸市内のNPOに、パターンやミシンの技術を持っている退職社員を紹介したケースもあります。

収入面では就労に遠く及びませんが、事業活動で培ったスキルを活かして地域に貢献できる活動を望んでいる者もいるし、NPOでもそうした人材を必要としていると思うんです。

そうした社員には、それこそ、NPOにインターンとして来ている大学生の「お父さんやお母さん」になればいいと思っています。見方を変えれば、事業活動で培った社員のスキルをNPOにつなぐといった形態の社会貢献活動と言えますね。

CSR推進担当部署やCSRレポートは、社会貢献活動を推進するために必ず必要なものなのでしょうか。

あるリサーチによると、上場企業の約3割程度が専門部署を設けているそうです。

また、アシックスでは、法務部の中に、商品の安全品質保証も担うCSR推進チームを設置していますが、会社によって、社長直轄組織を置いたり分野横断組織を置いたりと、形態も様々。専門部署を置くことで、社会的信用を高めるなどのメリットはありますが、最初から組織整備にこだわるよりも、どのような活動の理念・ビジョンを持つかの方が大切だと思います。

また、CSRレポートは、つくっていないところもたくさんあるし、冊子化していないところもあります。CSR単独ではなく、環境報告書の一部として作成するスタイルも多いですね。

アシックスにとってCSRレポートは、ステークホルダーの皆さんとの大切なコミュニケーションツールであり、社員の理解を深めるためにも欠かせません。

昨年は、CSR活動の内容紹介に加え、テーマごとに、社長と新入社員、社員と専門家、社員と学生、社員同士など、様々なパターンの座談会を取り入れ、企業トップや社員一人ひとりが、どのような思いで事業活動や社会貢献活動に取り組んでいるのか、その人の言葉で伝わるよう工夫して作成しています。

最後に、社会貢献活動を進める上でNPOとの関わり方についてどのようにお考えですか。

活動の手法として、NPOと企業が互いの特性を生かした協働活動を展開するやり方もあると思います。

多くの企業は何か活動をしたいと考えているし、NPOとの協働でより効果的な活動ができたなら、それはNPOにとっても企業にとっても実績になりますよね。

ただし多くの企業は、NPOから声がかかっても、おそらく「一体何をしている団体なのか」「何を要求されるのだろう」と考えるのではないでしょうか。

そうならないために、NPOも「自分たちを支援して欲しい」ということではなく、自分たちはこんな活動ができる、あなた方企業にはこんな活動ができる、だから一緒にこんな活動をやればもっと効果が上がるという具合に提案を持って行かないと、なかなか相手にしてもらえないと思います。

NPOには、今後ますますマーケティングやプレゼンテーションの能力が求められるのではないでしょうか。

先ほどご紹介したNGOは、どこからどんな支援を受けて、こんな活動をして、こんな成果を上げました、という情報開示を徹底しています。企業側にすれば、透明性が高いことで安心して協働できるし、成果が目に見えるからステークホルダーや社内に対する説明がしやすい。こうした情報開示に対する意識の高さも大きなポイントですね。

私たちも、神戸市内のNPOとお付き合いさせていただいているおかげで、地域に根ざした社会貢献活動のきっかけができました。企業とNPOが有する資機材・活動スペース・人材等の活動資源のマッチングを図るしくみづくり、NPOや企業の社会貢献活動の輪を広げる啓発活動等でご一緒させて頂いています。

本日はありがとうございました。最後に一言お願いします。

アシックスの現在の取組が十分なものだとは考えていません。まだまだ改善すべきところがたくさんあります。

ただ、こうしてインタビューに来てくださったように、様々な機会を捉えアシックスのCSR活動に対する姿勢や取組を広くお伝えすることで、他企業のご担当者やNPOの皆さんの参考になるところがあれば嬉しく思いますし、また、私たちにとっても、ビジョンの実現に向けて努力し続けなければならないという思いを強くする機会になっていると思っています。

本日はありがとうございました。

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