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かみかわ田舎暮らし推進協会 会長

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2016/02/25
前川光義さん
(70)
兵庫県神河町
かみかわ田舎暮らし推進協会 会長
兵庫県のほぼ真ん中にある神河町は、平成17年に神崎郡大河内町と神崎町の合併により誕生。人口が県内で一番少ないものの、面積の約80%は森林が占めて、森が生み出す豊かな水流を利用した水力発電などにより、再生可能エネルギー自給率は、県内で最も高い(43.86%)。

神河町は、人口の減少により、過疎化への道をたどっていたが、空き家を活用して移住する人が少しずつ増え、移住実績は県内№1を誇っている。かみかわ田舎暮らし推進協会の会長・前川光義さんは、空き家の改修などにより、田舎暮らしを考えている人たちのサポートや交流イベントを開催するなど、神河町への移住促進に取り組んでいる。

かみかわ田舎暮らし推進協会 会長 前川光義さん(兵庫県神河町)

目次

1人親方の力を結集

神河町に生まれ育った前川光義さんは、会社員として3年間、姫路まで通った。異動の辞令が出たときに、自宅からの通勤が困難になったことから神河町で働くことを決意。ものづくり好きだったことから、大工の親方に弟子入りして、修行を積む道を選んだ。

前川さんが飛び込んだ建築の仕事は、一匹狼で働いている人がほとんどだ。平成4年、前川さんは地元の仲間と兵庫土建組合神崎分会を立ち上げ、建築に携わる職人が集まり、連携を図る組織を作った。普段1人親方として仕事をしている人たちが力を合わせ「地元の仕事は、地元の職人で」という思いが実り、越知谷小学校(当時の越智谷第一小学校)の建築を手掛けることになる。森林に囲まれた神崎町(現・神河町)の木材を使い、匠の技を活かした木造校舎の改築工事は、平成15年4月末に着工し、翌年1月末に完了。工事中は、各地からの視察が相次ぎ、注目を集めた。

「一人ひとりの力がまとまり、大きな仕事ができた達成感と、仕事を通じて組合の仲間意識が強まりました」

越知谷小学校の建設を経験した匠たちは、力を合わせて取り組むことで、できる仕事の大きさや完成度の高さを実感。これを皮切りに、神崎分会として取り組む仕事が増え、平成24年には、神崎小学校・幼稚園の建設にあたった。

木造建築の神河町立越知谷小学校。
子どもたちは糠を入れた布袋で床を磨き、校舎を大切に使っている

木造校舎の越知谷小学校

技術を伝える「木造インターンシップ」

平成17年9月、神崎分会は日本工科専門学校(現在の日本工科大学校)からの申し出により、インターンシップを受け入れることとなった。学びの場として選んだのは、越知谷小学校前のバス停待合所の建築。雨風を凌ぐことができず、利用する小学生が可哀想だと思っていた会員たちの提案がきっかけだ。

14名の学生が参加して、3泊4日の木造インターンシップがスタート。木材の特性や加工技術、実習建築物の細かい施工方法についての講義を受けた後、建築実習が始まる。予め参加学生による設計デザインコンペを行い、地域住民と小学生の人気投票で決まった図面に基づき、地域の山から切り出した木を使って、待合所が作られる。道具を使う時のコツや作業のかんどころなど、座学ではなく、直接匠の言葉や身のこなしから得ることは、計り知れない。

木造インターンシップの学生たちと共に「越知谷小学校前」バス停待合所を建設

小学生や地域の人たちが待ちに待った「越知谷小学校前」バスの待合所が完成した

5年目から県立龍野北高等学校、県立東播磨工業高等学校が加わり、平成22年に尼崎市立尼崎産業高等学校、平成26年には京都府立宮津高等学校からの参加者も受け入れた。

「インターンシップを経験でき、将来のことについて真剣に考えるようになった」「地域の人たちの団結力、温かさ、親切さ、人情に感激した」と、生徒たちは口々に語り、指導する前川さんたちも、若者とともに汗を流し、ものづくりを通した交流に喜びを感じているという。インターンシップによって、町内には様々なデザインのバス待合所が完成し、古民家再生や花壇づくり、銀の馬車道交流館の改修なども行われ、まちの魅力づくりに貢献している。

木造インターンシップに参加した生徒は「道具は、ただ使うだけではダメだという事を教えてもらいとてもいい経験ができた。大工さんの技術に魅了され、あこがれを持った」と、語った。

銀の馬車道交流館 木造インターンシップの学生と共に入口を改修し、翌年には外部の板張(下半分)を改修した。

かみかわ田舎暮らし推進協会

高齢化・過疎化が進む神河町。「放っておけば人口がどんどん少なくなっていく」と、前川さんたちは町の将来を危惧していた。空き家が増え続け、このままだと多くの地区が限界集落となり、やがては町の存続も危ぶまれる。

一方で、都市に住む住民が田舎暮しをしたいと、町役場には空き家情報を求める声が寄せられていた。そこで、町は平成18年に「空き家バンク」として、ホームページで情報発信を始める。しかし、空き家には改修が必要なものも多い。町の担当者から声をかけられた前川さんたちは、空き家の改修を担うことになった。

平成21年、「空き家バンク」を活用するための移住支援組織をつくろうと、神崎分会と各地区から選出された住民を中心に「越知川田舎暮らし推進協議会」を立ち上げ、前川さんは会長に就任した。各区から選出された住民は田舎暮らし相談員として、移住者の不安を取り除くため相談に乗ったり、地元の人たちとの繋ぎ役になるなど、積極的にサポート。空き家の改修も進み、次第に町へ移住する人が増えていった。

2年後には地域の枠を広げ、町全体で取り組んでいこうと「かみかわ田舎暮らし推進協会」を発足。町役場を事務局として、建築業、不動産業、都市農村交流団体、地域住民などが集まり、移住を総合的に支援する体制を整えた。空き家の仲介は不動産業、改修は建築業、田舎暮らしのPRは交流団体、地域住民は空き家の発掘や移住者の相談にあたり、それぞれの役割を果たしている。

「空き家はたくさんあるが、空き家バンクに登録していない家が多い。放っておくと傷む一方なので、できるだけ傷の浅いうちに手当をし、住んでほしい」と話す前川さん。空き家の持ち主は、田舎の家を処分したいと思っているが、祖父母世代の生活用品や道具の片付けが出来ず、そのままになっている状況があるという。そのことが登録のネックになっていることを知り、今年から片づけ作業も実施したいと考えている。

かみかわ田舎暮らし推進協会・総会

空き家改修を交流のきっかけに

協会では、空き家の改修にあたって、ボランティアを募集している。「空き家再生講習会」を開催。前川さんたちの指導のもと、改修作業を行っている。都市部からの参加者も多く、中には移住を考えている人もいる。そのような人たちが地域のことを知り、地域の人たちと触れ合う場にもなっており、移住への思いを後押ししている。さらに、移住を決めて自分の住む家、あるいは開業する店の再生のために参加する人も多いという。

改修を終えた最新物件。地域の交流施設としても活用される。

昨年4月、古民家を改装して、地元産のこだわり卵を使ったオムライス店がオープンした。加古川で人気のあった喫茶店を営んでいたオーナー夫婦は、土曜日から火曜日のランチまでの営業を終えると、加古川の家に帰る。現在「温かく迎え入れてくれた神河町に住みたい」と、前川さんたちに住宅を探してもらっている。

空き家再生講習会に参加した人の中には、開業した店舗を訪ね、自分が塗装した跡、釘を打ったところを確認する姿も珍しくない。遠方から回を重ねて参加する人もおり、講習会は、キャンセル待ちが発生することもあるほど、毎回盛会だ。改修終了後には、かみかわ田舎暮らし推進協会の人たちによる餅つきなど、心づくしのおもてなしが、参加者のハートを掴み、豊かな自然や神河の人たちの温かさを知ってもらう絶好の機会にもなっている。

「移住してきた人たちは、新しい風を運んでくれて、地元住民は刺激を受けている」と前川さん。地の人(地元の人)と風の人(移住者)の交流で、気づかなかった地域の良さを知ることも多いと言う。神河にできた評判のお店を目当てに町外から訪ねて来る人も増え、町の活性化を嬉しく思っている。

オムライス&コーヒーのお店 BECAUSE

空き家の再生後、イタリアンレストラン「ラ・ミア・カーサ」が誕生

めぐり合わせを大切に

過疎化が進むなか、自然に恵まれた神河町の魅力を知ってもらい、移住者を増やしたいと考えた町役場の担当者が前川さんに声をかけ、田舎暮らしをサポートしていく仕組みができた。声をかけた町の担当者がいて、町の将来に不安を感じていた前川さんがいた。そして、前川さんの周りには、同じように将来のことを真剣に考え、一緒に取り組もうと言う仲間がいた。

「一人では、何もできない。このめぐり合わせがあったからこそ、まちに新しい風が吹くようになった」と言う前川さん。これからも「都会と田舎の橋渡し役」として、めぐり合った人たちと共に「地域の宝」である空き家を活かすための取組を進めていく。

(公開日:H28.2.25)

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