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猟師

すごいすと
2013/07/25
吉井あゆみさん
(48)
兵庫県朝来市
猟師

猟師が射止めた鹿や猪。

その肉が私たちのもとに届き、「食べもの」として口に入る。

命をいただくという営みの最前線に立つ猟師、吉井あゆみさんにお話をうかがった。

吉井あゆみさん

動物たちとの暮らし

朝来市の吉井さんを訪ねると、一番に出迎えてくれたのは動物たち。

3匹の犬、ポニー、そして猟期になれば「獲物」となるはず鹿と猪が1頭ずつ。やや戸惑い気味の私たちを見て、吉井さんはにこにこと「飼ってるんです。鹿のあーちゃんは、みなさんが写真をとるから私らよりもっとカメラ目線でしょう」

鹿のあーちゃん

ほかにも、犬がもう1匹に鷹、白ヘビ、ハリネズミと大世帯で暮らす。

鷹のかぐらちゃんと吉井さん

鷹の名前は「かぐら」ちゃん。吉井さんはどの子にも愛情込めて呼びかける

2匹のシェパード犬には、嘱託警察犬の訓練も行っている。訓練と飼育を一般家庭で行い、要請に応じて出動する警察犬のこと。

「このあたりは物騒な事件はほとんどありません。頼まれるのは、家を出てしまった認知症のお年寄りとか迷子の捜索ですね。探されてる方は、見つかったら怒られると思うんでしょう。大声で名前を呼びながら探したりすると、かえって隠れてしまうことが多いんです。そんなときも犬がいいみたい」

自然の中で訓練する吉井さんの犬は、都会の犬に比べて草むらに残された匂いを追うことが得意だという。

嘱託警察犬の訓練風景

警察犬のトレーニング中。訓練のため余分な匂いは厳禁。移動用の車の停める位置にも注意を払う

朝来への移住

大阪出身の吉井さんは、お父さんの趣味だった猟にお供して、子どものころから近隣県の山に入っていたという。獲物が食卓に上ることもしばしばあり「初めて鹿肉を食べたのがいつだったかなんて覚えてない」というぐらい、猟はごく日常のものだった。

そんな吉井さんが朝来に家を持つことにしたそもそもの動機は、猟ができることに加えて動物たちとの暮らしを望んだからだった。

「十分な土地があって、動物の鳴き声やにおいが苦にされないところがいいなと。ただ移住者を募集する地区でも、いざ相談してみるとなかなか話がまとまらない。そんな中、朝来で土地を売ってくれるという人が見つかって、とんとん拍子に話が進みました」

吉井さんの住む集落にある公園は、見事な藤棚があることで有名。

「ほんの2週間ほどの間に5~6万人もの観光客がやってきて、住民みんな駆り出される。今年もハッピを着て受付に立ちました」

そんな開けた土地柄だったからよかったのかもしれないと吉井さんは振り返る。

「猟期」と「非猟期」吉井さんの1年

鹿や猪の狩猟解禁日は11月15日。そこから3月までが猟のシーズン。

猟期になると、吉井さんは朝から山へ入る。4~5名の猟師がそれぞれの車に乗り込み、無線で連絡を取り合いながらその日の猟場を決める。

猟場となる山

猟場となる山。冬になると一帯が雪に埋もれる

「解禁前にも山に行って、エサになる植物なんかの状態は見ておくんですけどね。この山がいい、というのはなぜか感覚でわかってしまうんです」

吉井さんが仕留める肉の評判は高く、東京や金沢の料理店からも注文が入る。選ぶ獲物がいいのか処理方法がいいのかたずねると、「どちらも」という答えが返ってきた。

「自分で行って自分で獲って、これはいいと思ったものだけをお店に出す」

それが吉井さんの猟師としてのポリシーだという。

猟に向かう吉井さんと猟犬2匹

猟に向かう吉井さんと猟犬2匹

ただ、猟期の収入だけで一年間を暮らすことは難しい。

「冬が一番大切。その期間休めることを条件にしてたら、普通の仕事につけなくなっちゃった」と笑いながら、夏の間のお仕事を教えてくださった。

「農家さんや集落にある有名なアイスクリーム屋さんをお手伝いしたりしてましたね。調理師免許も持ってるんです。ちなみに今はゴルフ場のコース管理。鹿などの動物が入ってきたときに猟犬や鷹で対応します」
元々大阪にいたころは大手空気清浄機の営業や歯科衛生士として勤めていたこともあり、ヒプノセラピスト(催眠療法士)やカウンセラーの経験もあるそうだ。

「昔から、必要なことだったらなんでも挑戦してみる。ちょっとだけど手話もできるんです」

いろいろな経験を語る吉井さん

命を生かす

「こういった暮らし方になってきたのも成り行きやったと思います。いろんな人と出会えたタイミングかな」そう吉井さんは語る。

「朝来に来てから出会いが広がっていきました。例えば、あるとき丹波市青垣町に県の森林動物研究センターが設立されることになり、その事前研修先にうちが選ばれた。そのとき紹介した鹿肉料理がきっかけで、その後センターに鹿肉の有効活用検討グループができることになったんです」

兵庫県でも、鹿による農作物や森林への被害が深刻化している。「駆除」という形で対策がとられているが、その多くは焼却処分されてしまっている。

ある視点からは害獣とされる鹿たちだが、それぞれ命を持った生きものたちだ。

「単なる殺生ではなく、せめて食べることで命を生かしたい」と吉井さんは考える。

「命を取るということから目を背ける人が多いけど、誰だって命をいただいて生きている。スーパーでトレイに入ったお肉も、もともとは地を駆けていたのだから」

自身の考えを語る吉井さん

有効活用のためには、たくさんの人の間に安い値段で広めていく必要がある。それに対応できるよう、吉井さんたちは小規模な処理施設を持った。

「保健所に申請に行ったら、屋号がいりますよって言われて。仲間内で作ったものだから、屋号なんてないですって言ったのですけど。で、みんなでいろいろ考えて『お狩庵』にしました」

県から施設補助もあり、今後はこの施設を拠点に有効活用をさらに進めたいと考える吉井さん。捕獲者を限定することで上質な鹿を安定的に仕入れ、供給を行えるような仕組みづくりを進めている。

吉井さんがブログで紹介したレシピに給食センターから問い合わせがあったことも。
「ほんとに話が話を呼んで、という感じ」試食会に呼ばれ、出向くことも増えたという。

吉井さんが提供した鹿肉や猪肉を使って、地元の高校生や企業が食品を開発するなど、地域ぐるみで利用が進みつつある。

試食会の風景

試食会での吉井さん、レシピもご自身で考案される

無心で

最後に吉井さんの座右の銘を教えてもらった。
「ぽーっとすること。かっこよく言えば無心かな」
獲物も人も、去る者は追わずだという吉井さん。無心で山と命に向き合う。

吉井あゆみさんの座右の銘、「無心」

 

(公開日:H25.7.25)

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