すごいすと取材記

NPO法人 たじま海の学校 副代表今井ひろこ さん(46) 兵庫県

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ジオパークという居場所

民宿では10人分の賄い料理や接客係の仕事を任された。多人数の料理を作った経験が無く、なかなか慣れない接客係の仕事。それらをやり遂げたいという思いと、これまで積み重ねてきたキャリアが全く活かせない辛さとの間でジレンマに苦しむ中、「ここには自分の居場所がない」と感じる気持ちが次第に強くなってきた今井さん。

さらに平成22年春、今井さんと一緒に潜っていたダイバーが死亡する事故が起きた。インストラクターとしての落ち度こそなかったものの、この事故に大きなショックを受けた今井さんは、ダイビングの仕事を休止して部屋に閉じこもりがちになる。何とかしなくてはと精神的に追い詰められた。

表情からは笑顔が消え、「このまちを出て研究職に戻ることも考えている」と離婚さえも口にするようになった今井さんに、学さんは真摯に向き合い、共に生きていくための道を模索した。

そんな頃、香美町がジオパーク推進員を募集していることを知った。山陰海岸ジオパークの魅力を地域内外に伝えていく仕事だ。地域の観光振興に携わることは民宿の経営にも役立つし、ダイビングインストラクターとしてネイチャーガイドをしてきた経験も活かせると、学さんの勧めに背中を押され、今井さんは応募することを決めた。

山陰海岸ジオパーク

ジオパークとは、科学的に見て特別に重要で貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む自然公園。山陰海岸ジオパークは、京都府(京丹後市)、兵庫県(豊岡市・香美町・新温泉町)、鳥取県(岩美町・鳥取市)にまたがる東西約120㎞のエリアが対象で、日本海形成から現在に至る様々な地形や地質が存在し、それらを背景とした生き物や人びとの暮らし、文化・歴史に触れることができる。詳しくはこちら

平成22年にユネスコが支援する世界ジオパークネットワークに加盟が認定され、昨年は4年に1度の見直しを受けて再認定された。

現在、日本では7つの地域が世界ジオパークに登録されている。

写真:棚田の風景。初夏の美しい緑が広がっている

うへ山の棚田
「日本で最も美しい村」に登録されている香美町小代にある棚田は、ジオパークのエリア内にある。

 

こうして平成22年8月、香美町のジオパーク推進員として仕事を始めた今井さんだったが、それまでは自分が暮らすまちを「何も無いただの田舎」だと思っていた。

しかし、活動を続けていく中で、豊かな気候風土、美しい海とそれらに育まれた地元の食材などについて知識を深め、地元の人たちとの交流を重ねていくうちに、彼らにとっては当たり前のものでしかない地域資源の中に、たくさんの宝物が埋もれていると感じるようになった。

「十分に生かされていない資源や力がこのまちにはたくさんある。他所から来た者だからこそ分かる『まちのよいところ』を地元の人にも認識してもらって、自分たちの住むまちに誇りを持ってもらいたい」

元々明るい性格で、人前に出ることも好きな今井さん。ジオパーク推進員としての活動の中に、ようやく自分の居場所を見つけることができた。

写真:5名の観光客を案内中

観光客にジオパークを案内する今井さん夫妻

今井さんは仲間とともに、平成24年度から「たじま海の学校」の活動として、観光資源の再発見とリピーターの増加を図るため、地域の歴史や伝承を紹介する観光ガイド「香美がたり」の養成やガイドブックの作成に取り組んでいる。このガイドブックは、地元の住民や学校などにも配布しており、地域住民が地域の魅力を再認識するきっかけにもなっている。

写真:作成されたガイドブック

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