兵庫県における「NPO法の運用方針」について

平成16年3月18日
兵庫県県民政策部県民文化局参画協働課

(趣 旨)
 平成10年12月に施行された特定非営利活動促進法(NPO法)は、「市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進」(法第1条)することを目的としており、団体の自主性と自律性を尊重する観点から、認証主義の採用とともに広範な情報公開制度が取り入れられている。本県としても、県民の自発的で自律的なボランタリー活動の一層の発展を支援する観点から、団体の自主性と自律性を尊重しつつ、特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を行ってきたところである。
 NPO法は、設立手続において行政の関与を極力抑制し、申請者自らが認証基準に適合していることを積極的に示し社会的認知を得ることを前提としているが、設立申請の増加に伴い、認証基準を満たしているかどうかの判断が必ずしも容易でなかったり、法人格取得の方法が簡便なNPO法人制度の濫用が懸念されるようになってきている。このようなNPO法の理念を損なう活動が現われてくると、健全な活動を行なっている他のNPO法人に対する信頼にも悪影響を与えるおそれがある。
 このため、内閣府においては「NPO法の運用方針」(平成15年3月25日)に策定(同年12月18日改定)したところであるが、本県においても、NPO法人の健全な発展を図る観点から、これまでの運用実績や本県の実態に即し、NPO法人の特殊性(活動の無償性、事業費の小規模性)や所轄庁間の整合をも勘案しつつ、本県としての運用方針を定めることとし、

. 法定要件のうち、「主たる目的性」及び「非営利性」の適合性について、従来から運用していた判断基準を明確化し、より一層透明性を図るとともに、
2. NPO法人の説明責任と市民による選択・監視機能の一層の発揮を図るため、NPO法人自らが広く市民に対して自主的に説明を行うよう要請する運用を認証及び監督の両段階において一環して行うこととする。

兵庫県における「NPO法の運用方針」は、内閣府の「運用方針」(第5章法令集等(4))を基本とし、その判断基準や説明書きに、本県の現状と方針を追記した形式で作成しています。

1 「主たる目的性」及び「非営利性」の法定要件への適合性の一層の明確化

(1)定款記載事項

<運用上の判断基準>
○認証基準
NPO法人の目的、特定非営利活動の種類、特定非営利活動に係る事業その他当該法人が行う事業の内容が、定款上それぞれ具体的かつ明確に記載されていること。
<説明>
 定款は法人の根本規則を定めたものであり、対内的にも、対外的にも、設立認証審査においても最も重要な文書である。NPO法では、第11条第1項に「目的」(同項第1号)、「その行う特定非営利活動の種類及び当該特定非営利活動に係る事業の種類」(同項第3号)、「その他の事業を行う場合には、その種類その他当該その他の事業に関する事項」(同項第11号)等を記載しなければならないとされている。
 特に法人の目的、行う事業等については、特定非営利活動を行うことを主たる目的とした法人であること等を判断する上で、重要な事項であり、定款に具体的かつ明確に規定されていることが必要である。
【本県の現状】
 NPO法人認証を判断する際の根本的事項として、従来から同趣旨の助言を行っており、現在、すべてのNPO法人において具体的かつ明確に記載されている。

【本県の方針】
 従来からの運用を確認的に明文化するものとして、内閣府の運用方針と同じ判断基準とする。

(2)特定非営利活動に係る事業

<運用上の判断基準>
1. 認証基準
特定非営利活動に係る事業の支出規模は、設立当初の事業年度及び翌事業年度ともに総支出額の2分の1以上であること。ただし、この基準を満たさない合理的な理由が明確な場合は、この限りでない。
2. 報告徴収等の対象となり得る監督基準
特定非営利活動に係る事業の支出規模が、2事業年度連続して総支出額の3分の1以下である場合。ただし、この基準を満たさない合理的な理由が明確な場合は、この限りでない。
注:下線部分は、追加した兵庫県独自の判断基準
<説明>
 NPO法人は、特定非営利活動を行うことを「主たる目的」(法第2条第2項柱書)とした法人であり、全体の事業活動に占める特定非営利活動に係る事業の割合は過半であることが求められている。
 その一方で、NPO法人は「特定非営利活動に係る事業以外の事業(その他の事業という。)」を行うことが認められている。しかし、それは、あくまでも特定非営利活動に係る事業に「支障がない限り」(法第5条第1項)行うことが認められたものである。したがって、その他の事業の規模が過大となり、特定非営利活動に係る事業の実施に必要な財産、資金、要員、施設等を圧迫してはならず、少なくともその他の事業の支出規模(事業費及び管理費)は、総支出額(事業費及び管理費の総計)の2分の1以下であることが必要である。
●認証基準

【本県の現状】
 若干のNPO法人において、無償ボランティア活動を基本としているため、特定非営利活動の事業規模が小さくなることなど、設立当初と翌事業年度ともに特定非営利活動に係る事業の支出額が、2分の1以上でない場合が例外的に見受けられる。
注:平成14年4月から平成15年8月に認証申請のあった団体ついて把握したもの(以下、同じ)

【本県の方針】
 その他の事業は特定非営利活動に係る事業の支障のない範囲内で行うこととされていることから、従来から特定非営利活動に係る事業規模の範囲内として運用してきたところであり、今後とも、内閣府の運用方針と同じ判断基準とする。
 ただし、無償性や事業規模の零細性などの合理的な理由が認められる場合は、これらの特殊事情も考慮することとする。
●報告徴収等の対象となり得る監督基準

【本県の現状】
 特定非営利事業の割合が、3分の1以下については、2事業年度連続したケースはないが、単年度(設立年度)については、無償ボランティア活動を基本とし、かつ、事業規模もごく小さい法人が1団体基準を満たしていない。
 なお、定款にその他の事業を行うと規定しているが、未実施のNPO法人も少なくない。
注:平成15年3月末決算の法人を対象に、平成15年8月末現在で把握したもの(以下、同じ)

【本県の方針】
 設立初年度については、事業期間が短いケースなどNPO法人の立ち上げに経費がかさむことが想定されることから、初年度については判断を行わず、2か年度連続して3分の1以下の場合について判断することとする。
 ただし、無償性や事業規模の零細性などの合理的な理由が認められる場合は、これらの特殊事情も考慮することとする。

(3)その他の事業

 1)経営

<運用上の判断基準>
1. 認証基準
その他の事業において、設立当初の事業年度及び翌事業年度ともに赤字計上されていないこと。
2. 報告徴収等の対象となり得る監督基準
その他の事業において、2事業年度連続して赤字計上されている場合
<説明>
 NPO法人は、特定非営利活動を行うことを「主たる目的」(法第2条第2項柱書)とした法人であり、その他の事業は、あくまでも特定非営利活動に係る事業に「支障がない限り」(法第5条第1項)行うことが認められたものである。したがって、「その他の事業」の実施にあたっては、特定非営利活動に係る事業の実施に必要な財産、資金、要員、施設等を圧迫してはならない。事業計画上、赤字計上されているその他の事業については、少なくとも「支障がない限り」行われることが意図されているとはいえない。
 なお、「赤字」とは、基本的に、事業活動における正味財産の減少をいい、兵庫県が例示として示している様式例(貸借対照表及び収支計算書の正味財産増減の部)の「当期正味財産減少額」とする。
 しかしながら、認証の段階で提出される収支予算書には正味財産増減の部がないこと、決算後に提出される収支計算書の実際の形式や資金概念の選択は法人自らが行うこと等を勘案し、以下のとおり取り扱う。
  注:下線部分は、兵庫県独自の追加説明
●認証基準

【本県の現状】
 その他の事業の事業計画において赤字を予定した法人はない。

【本県の方針】
 その他の事業は、特定非営利活動に係る事業の支障のない範囲内で行うこととされていることや設立の初年度及び翌年度の2か年度分の収支予算書を通して判断すべきものであり、今後とも、内閣府の運用方針と同じ判断基準を基本とする。
 これは、設立初年度については、事業期間が短いケースにおいて、NPO法人の立ち上げに出費がかさむことが想定されることから、初年度の赤字のみをもって判断を行わず、2か年度連続して赤字の場合について判断しようとするものである。
 この場合の「赤字」とは、原則として、本県が示している収支予算書の様式例の「経常収支差額」とする。経常収支とその他資金収支を含めた差額が当期収支差額であるが、その他の資金収入及び支出は、一時的臨時的要因に基づくものが多いことから対象外とするものである。
 なお、申請時の実際の収支予算書において経常収支差額が不明確な場合は、実質的に経常収支差額と同等とみなされる金額で判断する。
報告徴収等の対象となり得る監督基準

【本県の現状】
 2事業年度連続の赤字はないが、単年度(設立年度)において赤字の発生しているケースが若干見受けられる。

【本県の方針】
 設立初年度については、事業期間が短いケースにおいて、NPO法人の立ち上げに出費がかさむことが想定されることから、初年度の赤字のみをもって判断を行わず、2か年度連続して赤字の場合について判断しようとするものである。
 この場合の「赤字」とは、原則として、本県が例示として示している様式例(貸借対照表及び収支計算書)の「当期正味財産減少額」とする。
 この様式例に準じていない様式の場合は、採用している資金概念により多様なものが想定されるが、可能な限り「当期正味財産減少額」に同等の概念として読み替えられる金額をもって判断する。科目設定などの理由によりそれが不可能な場合は、認証基準と同様に経常収支差額で判断する。
 なお、決算期末の一時的要因によるものなど合理的理由がある場合は、あえて報告徴収を求める必要性が乏しいと考えており、収支計算書の注記などの方法によりNPO法人自らが、積極的に赤字の原因を明らかにすることが望ましい。

 2)収益

<運用上の判断基準>
1. 認証基準
その他の事業の収益は、設立当初の事業年度及び翌事業年度ともに特定非営利活動に係る事業会計に全額繰り入れられていること。
. 報告徴収等の対象となり得る監督基準
その他の事業の収益が、2事業年度連続して特定非営利活動に係る事業会計に全額繰り入れていない場合
<説明>
NPO法人は、特定非営利活動を行うことを「主たる目的」(法第2条第2項柱書)とした法人であり、その他の事業の「収益」については、「特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならない」(法第5条第1項)とされている。したがって、その収益は、当然に特定非営利活動に係る事業の実施のために使用する必要があることから、特定非営利活動に係る事業に全額繰り入れることが必要である。
認証基準

【本県の現状】
 その他の事業会計収支予算書において、すべてのNPO法人(その他の事業会計が収支差額ゼロの場合は除く)が全額繰り入れを予定している。

【本県の方針】
 従来から運用してきたところであるが、改正NPO法において「収益を生じたときは、これを当該特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならない。」と規定されたため、改めて運用を明文化するものとして、内閣府の運用方針と同じ判断基準とする。
 この場合の全額繰入の対象となる金額は、「当期収支差額」とする。
報告徴収等の対象となり得る監督基準

【本県の現状】
 その他の事業で生じた収益ついて2事業年度連続して全額繰り入れてない場合はないが、単年度において、若干の団体が、全額を特定非営利活動に係る事業会計に繰り入れず、その他の事業会計において次期繰り越しの処理がなされている。

【本県の方針】
 上記の認証基準に準じて行うが、この場合の対象となる金額は、前項の赤字判定の場合の視点と同じく、原則として正味財産増加額とする。つまり、「収益」とは利益をさす用語であり、NPO法上の非営利性の趣旨を鑑みると、「全額繰り入れ」は、その利益がその他の事業会計に過度に留保されるべきではないとの要請に基づくものであると考えることから、その判断の対象となる金額は、「当期正味財産増加額」とする。
 例えば、その他の事業において固定資産の購入等がある場合、特定非営利活動に対する繰り入れは資金の移動を行うことは不可能になる。なぜならすでに固定資産の購入に充当しているので、資金としては残っていないからである。このような場合は、減価償却相当額を計画的に特定非営利活動会計に繰り入れていく等の方法も合理性があると考えられる。そのようなときは注記などでNPO自らが積極的に説明することが望ましい。
 また、本県の様式例に準じていない収支計算書の場合、一見して「当期正味財産増加額」が判明しない場合も想定される。このような時は可能な限りこれと同等の金額と読み替えられる金額をもって判断を行う。また、科目設定などの理由によりそれが不可能な場合は、認証基準と同様に当期収支差額で判断する。
 なお、必要最小限の運転資金の確保や、一時的臨時的な要因による当期収支差額の増加など、全額を特定非営利活動に係る事業会計に繰り入れると、当初の目的が達成できない場合もあると考えられる。そのような場合は、必要相当額をその他の事業に留保しても法の趣旨に反しないと考えられ、その他の事業に留保する金額は、本来的にNPO法人自らが、積極的に合理的根拠を示して収支計算書への注記などの方法により説明することが望ましい。

(4)管理運営

<運用上の判断基準>
. 認証基準
管理費の総支出額に占める割合が、設立当初の事業年度及び翌事業年度ともに2分の1以下であること。ただし、この基準を満たさない合理的な理由が明確な場合は、この限りでない。
. 報告徴収等の対象となり得る監督基準
管理費の総支出額に占める割合が、2事業年度連続して3分の2以上である場合。ただし、この基準を満たさない合理的な理由が明確な場合は、この限りでない。
注:下線部分は、追加した兵庫県独自の判断基準
<説明>
 NPO法人は、特定非営利活動を行うことを「主たる目的」(法第2条第2項柱書)とした法人であり、全体の事業活動に占める特定非営利活動に係る事業の割合は過半であることが求められている。また、「営利を目的としない」(法第2条第2項第1号)法人であり、構成員の経済的利益を追求し、終局的に収益が構成員個人に分配することを目的としないことも求められている。
 管理費はNPO法人の運営に必要な基礎的な経費であるが、役員の報酬、職員の人件費などNPO法人内部に還元される傾向が強いものであることから、管理費の規模が過大となり、「主たる目的」の特定非営利活動に係る事業の実施に必要な財産、資金、要員、施設等を圧迫してはならない。したがって、少なくとも管理費の支出規模(管理費の合計)は、総支出額(事業費及び管理費の総計)の2分の1以下であることが必要である。
●認証基準

【本県の現状】
 主に無償ボランティアによる活動を行っているNPO法人や立ち上げ時のNPO法人においては、事業費規模が小さいため、管理費割合が大きくなっている。
 なお、管理費割合の大きなことの主な理由は、固定的経費(事務局人件費、家賃、総会・理事会費など)の占める割合が大きいためである。

【本県の方針】
 従来より、原則、管理費割合は、2分の1以下として運用してきたところである。
 その上で、本県では、一般公益法人に適合される基準(公益法人の指導監督基準)と同様の基準である内閣府の運用方針に適合しない場合でも、公益法人とは異なるNPO法人の特殊性(活動の無償性、事業の小規模性)を勘案し、以下の事情(例)があるときには申請者からの聞き取り等により、これまでも認証してきたところである。
 今後は、申請件数の増加に伴う書面審査の迅速化や基準の明確化を図る観点から、事業計画書又は収支予算書の表中及び欄外において、適合しない事情が明記され、容易にその特殊事情が分かり、そこに合理性があると判断できるものについては、引き続き、認証することとする。
【特殊事情(例)】
.  特定非営利活動に係る事業に従事する職員が無償ボランティアであり、当該事業費中に人件費を積算しないため、相対的に事務所経費等の管理費が多くなっている。
.  特定非営利活動に係る事業を実施するため派遣する講師等が無償ボランティアであり、当該事業費中に人件費を積算しないため、相対的に事務所経費等の管理費が多くなっている。
.  管理費には、事務所の賃貸料、光熱水費など事務所経費だけで人件費がないにもかかわらず、事業費と管理費を含めた総支出規模が小さいため、相対的に、固定経費等の管理費が多くなっている。
●報告徴収等の対象となり得る監督基準

【本県の現状】
 上記の認証基準の現状に同じ。

【本県の方針】
 上記の認証基準に準じて行う。
 なお、設立初年度については、NPO法人立ち上げ経費としての管理費の支出がかさむ傾向にあることから、初年度については判断を行わず、2か年度連続して管理費が事業費を上回る場合について判断することとしている。
管理費
「管理費」とは、法人の各種の業務を管理するため、毎事業年度経常的に要する支出であり、法人の運営に係る基礎的な維持管理のための費用をいう。事業の実施のために直接要する費用は「事業費」に計上されることとなる。管理費の例としては、総会・理事会の開催運営費、管理部門に係る役員報酬・人件費、交通費等が挙げられる。なお、ここでいう「管理費」とは、特定非営利活動に係る事業の管理費及びその他の事業の管理費の合計を指す。
事業費
「事業費」とは、法人の事業の実施のために直接要する支出で、管理費以外のものをいい、会計処理上は、事業の種類ごとに区分して記載する。事業費の例としては、「○○事業費」(注・・・当該事業の実施のために直接要する人件費・交通費等の費用が含まれる。)等が挙げられる。

(5)その他の認証事務の運用について

 定款変更に関する認証の申請においては、申請に係る変更箇所のみを確認し、それ以外の箇所の確認は行わないものとする。なお、この場合、仮に申請に係る変更箇所以外の箇所に変更がなされていたとしても、これに認証の効力が及ぶものではないので、申請に遺漏のないよう注意が必要である。
【本県の現状】
 定款変更については、申請に係る変更箇所以外の内容が、認証済の定款と全く異なるケース、例えば、定款の電子データの消失に伴う再入力や認証済定款に至るまでの推敲段階の電子データへの上書きに伴う作成誤りなどが、申請件数の大半を占め、かつては、変更後の定款として提出されたもの全体を確認し、修正を求めた上で受理してこれを認証してきた。
 しかし、申請に係る箇所以外の定款部分は、既に設立認証申請段階で認証しており、重ねて認証すべきものでないことから、申請時において、定款全体を確認の上、申請に係る箇所以外の認証済定款と異なる部分について修正を求めることを継続しつつ、定款変更の認証は変更箇所のみについて行うことに改めたところである。

【本県の方針】
 定款変更認証申請における認証は、変更部分にのみ対して行われるべきものであることから、上記内閣府の運用方針と同じく、申請に係る変更箇所についてのみ確認の上、決定することとする。

2 「市民への説明要請」の実施

(1)基本的な考え方

 NPO法は、NPO法人について、「自らに関する情報をできるだけ公開することによって市民による信頼を得て、市民によって育てられるべきであるとの考えに立ち、広範な情報公開制度を設けることによって広く市民によるチェックの下におくこと」としている。ここでは、市民による緩やかな監督、あるいはそれに基づくNPO法人の自浄作用による改善、発展が期待されている。
 このようなNPO法の理念に照らすと、NPO法人に関する情報は、できる限り広く市民相互に提供され、かつ、共有されることが望ましい。これにより、市民にとって、当該NPO法人について有益な活動が行われていると認め、これに積極的に参加するという機会や、何らかの疑問を抱き、これに説明や改善を求めるという機会が提供されることとなる。また、NPO法人にとっても広く市民からの支援を得たり、自身への疑問を払拭したりする契機が与えられる。このような市民社会の実現に向けて、行政としても、こうした市民による選択・監視機能が一層発揮されるための環境を整備していくことが重要である。
 ところで、近時、市民から所轄庁に対して、認証申請者やNPO法人に関し、その活動を懸念する様々な情報が提供されることがある。また、NPO法人からの事業報告書等の不提出や設立認証後の登記未了などの不備等も散見される。このような場合、上述した環境整備の重要性に鑑みれば、所轄庁としても、提供を受けた情報や不提出等の事実に基づいて、市民間あるいは市民と当該NPO法人との間において自由・活発な議論がなされる土壌を創ることが適当である。
 そこで、上述のように市民から情報提供がなされた場合や事業報告書等の不提出等の場合、所轄庁として、当該NPO法人に対し、下記(2)のとおりNPO法人自らが広く市民に対して自主的に説明を行うよう要請する(以下「市民への説明要請」という。)こととする。そのうえで、所轄庁における手続の透明性を確保する観点をも加味し、「市民への説明要請」及びこれに対する当該NPO法人による説明の内容につき、基本的にすべて公開する。

(2)具体的な内容

1)「市民への説明要請」を実施する場合
a. 認証及び監督の各段階における「市民への説明要請」の実施
「市民への説明要請」は、あくまでも市民による選択・監視機能が発揮されるための環境整備として自主的な説明を行うよう要請するものであり、NPO法上規定されている所轄庁による監督とは異なり、これに応じなかったということだけで不利益に取り扱われるものではない。但し、行政の関与という側面もあるため、これを抑制的に運用することが妥当と考えられる。
このため、認証段階では、市民からの情報提供等により、何らかの法令違反に該当することが推認されるなど、申請書類のみをもってしては法定の認証基準に適合することが積極的に示されているとは認められない場合に実施することとする。
また、監督段階では、報告徴収・立入検査(法第41条第1項)、改善命令(法第42条)の対象となり得る要件が認められた場合に限って実施することとする。
なお、定款変更の認証に関し、法第25条第5項は、法第12条に定める設立の認証基準を準用していることから、これは定款変更の認証基準にもなっているものと解される。したがって、市民からの情報提供等により当該認証基準への適合性が積極的に示されているとは認められない場合、設立の認証におけると同様に「市民への説明要請」を実施することとする。
b. 事業報告書等が提出されていない場合等における「市民への説明要請」の実施
事業報告書等の全部又は一部が提出されていなかったり、不完全な書類しか提出されていなかった場合、「市民への説明要請」を実施する。
また、設立の認証後、登記をしたことを証する登記簿謄本を添付した届出書が提出されていない場合、「市民への説明要請」を実施する。
2)「市民への説明要請」の内容
 NPO法人に対しては、概ね次の事項につき市民に対する説明を自主的に実施するとともに、実施された説明内容(対外的に公表されたもの)を記載した文書を所轄庁に対し速やかに送付するよう文書をもって要請することとする。その際、情報提供者に関する個人情報について、所轄庁として、取扱いに十分配慮すべきことはいうまでもない。
a. 提供された情報内容等に関する事実関係
b. 認証段階においては、認証基準への適合性を積極的に示す事項
監督段階においては、報告徴収・立入検査、改善命令の対象とならないことを示す事項
 なお、事業報告書等が提出されていない場合及び設立の認証後登記をしたことを証する登記簿謄本を添付した届出書が提出されていない場合には、提出されていない理由及び今後の提出の予定等に関し説明を要請することとする。
3)「市民への説明」の方法
 市民への説明は自主的に実施されるべきものであり、実施方法については、当該NPO法人の検討に委ねられるものである。参考例としては以下のものがあり、説明内容を記載した文書を所轄庁に対して送付し、所轄庁のホームページに掲載することによって代替することもできるよう配慮する。
(例)
申請者の住居所や当該NPO法人の事務所における誰でも閲覧可能な状態での説明文書の備置き
当該NPO法人が運営するホームページ上における説明文書の掲載
適切な人数を収容できる会場における説明会の実施(その際、実施の案内を予め周知しておくのが望ましいと考えられる。)
4)監督における「市民への説明要請」の活用
 監督を行う際にも、上述した市民間あるいは市民と当該NPO法人との間において自由・活発な議論がなされる土壌を創ることの重要性に鑑み、「市民への説明要請」を活用することとする。
 具体的には、NPO法人が法令、法令に基づいてする行政庁の処分又は定款に違反する疑いがあると認められる相当な理由があるとき、所轄庁は、当該疑いについて報告徴収等を行うことができる(法第41条第1項)。その報告の内容に関し、当該NPO法人に対し「市民への説明要請」を行うこととする。
 また、NPO法人が法第12条第1項第2号、第3号又は第4号に規定する要件を欠くに至ったと認めるときその他法令、法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反し、又はその運営が著しく適正を欠くと認めるとき、所轄庁は、改善命令を行うことができる(法第42条)。それを行う際には、所轄庁は、当該NPO法人に対し是正措置を採ることを命じるとともに、その是正措置の内容に関し、「市民への説明要請」を行うこととする。
【本県の現状】
 NPO法では、認証が原則書面審査によることとされていることから、申請書類の中で認証基準への適合性をいかに積極的に示すかが問われている。そこで本県では、設立の認証申請に先立ち、申請書類の作成を支援する観点から、一度は、申請者又はその代理人と面談し、趣旨等を確認しつつ、その内容が申請書類に反映できるよう記載方法を助言しているところである。
 認証段階では、こうした面談・助言により書面上は認証基準への適合性が積極的に示されたかに思える記載であっても、縦覧による情報提供等の増加により、何らかの法令違反が推認されるなど、申請書類だけでは、その適合性の判断ができないケースがへの対応が求められるようになっている。
 また、監督段階においても、NPO法人の活動内容についての情報提供等が増加してきており、これまで、そのほとんどは法令等に違反する疑いがあると認められる相当な理由に該当しないものであったが、事業報告書等からは、基準の適合性の判断が困難なものも見られるようになりつつある。
 さらに、設立登記完了届出や事業報告書の未提出団体には、督促等を行っているにもかかわらず、認証件数の増加とともに、発生、増加しつつあることから、このような団体の説明責任が問われてきている。
【本県の方針】
 NPO法は、NPO法人の自主性、自立性を尊重する観点から、行政の関与を極力抑制しており、設立手続において認証主義を採用するとともに、NPO法人は自らに関する情報をできるだけ公開することによって市民の信頼を得て、市民によって育てられるべきであるとの考えがとられている点が大きな特徴となっている。
 本県において、上記のとおり市民からの情報提供や事業報告書等の未提出法人の増加などにより、設立認証の際の審査のみならず、認証後においても健全な法人運営の継続的確保の要請が高まってきた。
 そこで、NPO法においてはNPO法人に対する所轄庁の監督処分として、報告徴収、立入検査や改善命令といった権限が明記されているところであるが、情報提供等の増加に見られるように、NPO法人に対する市民の関心が高まりつつある。これらを背景に、市民による選択・監視機能が一層発揮されるための環境整備が重要であるとの認識のもと、こうした所轄庁の権限の行使に先立ち、今後は、NPO活動が本来自由で自発的なものであることを最大限尊重し、市民から所轄庁に対して、認証申請者やNPO法人に関し、その活動を懸念する様々な情報が提供された場合等において、NPO法人自らが広く市民に対して自主的に説明を行うよう要請することとし、内閣府と同様に市民への説明要請を行い、NPO法の適正な運用を図り、もって、NPO法人全体の信頼性の確保を図ることとする。

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