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ネットワーク第140号 知事対談

    
    知事対談 地域資源を活用したふるさとの活性化

 今回のテーマは「地域資源を活用したふるさとの活性化」。新温泉町のデザイン会社「KOJI OKAMOTO DESIGN OFFICE」代表でデザイナーの岡本剛二さんと、姫路市の灘菊酒造株式会社 杜氏の川石光佐さんに、知事と語り合っていただきました。
 

ふるさとにUターンするまで

岡 本   僕は新温泉町に生まれ高校まで育ちました。高校時代、夏休み・冬休みに美大に行くための講習を東京や大阪に受けに行くと、都会には華やかなファッショナブルな人たちが多く、ああいう洋服を着てみたいと強く思うようになりました。ファッションに興味をもつことにより、友達が増え、色々な人から声をかけてもらえるようになって、内向的だった自分が変われたように、僕も洋服に携わることにより、人の人生の後押しができればと思うようになりました。そして、洋服のデザイナーを目指し、大阪の専門学校で3年間勉強。好きなブランド「abahouse international」に入ることができ、そこで8年間アシスタントデザイナー、その後デザイナーのトップであるチーフデザイナーとして5年間携わらせてもらいました。その間も生まれ育った地元が大好きだったので、毎年必ず戻っていたのですが、帰るたびに活気がなくなっていくのを見て、これは自分たちのせいじゃないかと気になって、今まで培ったデザインで今度は生まれ育った町に何か貢献できないかと思い始めました。
知 事  自分たちのせいじゃないかというのは、自分たちが出ていってしまったから、ふるさとに元気がなくなったと思ったのですか。
岡 本  はい。同年代も半数ぐらいは都会に出ていってしまい、地元の若者や子どもたちが減ってしまったので、戻って何かできないかと思いました。将来は地元に基盤を置いて、自分のブランドを持ちたいという夢も持っていたので、3年前に戻って「KOJI OKAMOTO DESIGN OFFICE」という小さなアトリエを構えて、デザインを地域から発信しています。
岡本 剛二さん  井戸知事
知 事  しかし、ふるさとに帰るというのは、すごく思い切った決心でしたね。
岡 本  そうですね、でも自分が高校の時に洋服のデザイナーになりたいと思い、頑張った結果、その夢が叶ってしまったんです。それでデザイナーになって以降の夢が思い描けていなくて迷っていたときがあり、その時に地元に帰り友達に会ったりすると、地元のよさや魅力が見えるようになってきたんです。
 新温泉町も但馬牛や温泉などいろんな資源があるので、地元に戻って、そういう物を新しい形にデザインしたいと思いました。
知 事  一度、大阪や東京に出ているから、ふるさとのよさを再評価できたというところがあるのでしょうね。夢をある程度実現してみると、田舎っていうのはなかなかおもしろいじゃないかと思ったわけですね。
岡 本  都会にはいろんな刺激がありますが、やはり毎日の生活、生きるという意味では田舎の方が空気も水もおいしく、あと本当に新鮮な食べ物がすぐそこで手に入るので、自分の生まれ育った地元がすごくよかったなと、出てみて感じる部分がすごく大きかったですね。
KOJI OKAMOTO DESIGN OFFICE  浜坂の夕暮れ

杜氏になるまで
知 事  では、川石さんにも自己紹介をしてもらいましょう。
川 石  私は姫路生まれの姫路育ちです。実家が灘菊酒造という酒蔵を経営しており、私は3女として生まれました。酒蔵は代々家族でやっていますので、誰かが継がないといけないという状況がありました。高校3年生の時に日本で唯一、醸造学を勉強できる学科がある東京農業大学醸造学科に行くのもひとつの道だという風に教えてもらい、その時は東京に行けるのだったらというぐらいの気軽な気持ちで進学しました。
 大学3年生の時にインターンシップで、栃木の蔵元に行きました。その当時、一般的に酒は50歳、60歳のベテランの農閑期の出稼ぎの蔵人たちがつくるものだったのですが、その蔵は4つ上の農大を卒業されたご子息が杜氏をされていたんです。26歳の人が杜氏をやっていること自体がイレギュラーでしたし、経営者がつくるということもその当時はなかったので、酒づくりは蔵元である経営者とは別の職人がするものと思っていたのですが、もしかしたら自分でもできるのかもしれないなと思うきっかけになりました。

 大学を卒業する時は迷いましたが、大学で勉強をした私が早く帰って自分のできることを家の中で探すのもいいのではと思い実家に帰りました。
知 事  すごいですね。それで実家の蔵元で酒づくりをしていた南部杜氏の方に指導を受けたのですか。
川 石  はい。キャリアのある鎌田杜氏という腕のいい杜氏と一緒に酒づくりを3年し、多くのことを教えてもらいました。ただ、3年経った時に鎌田杜氏が高齢で退職することになったんです。そして、鎌田杜氏の後押しもあり、すごく不安もありましたが、私が杜氏を引き継ぐことになりました。
川石 光佐さん  灘菊酒造株式会社 灘菊酒造直営のレストラン 

地域資源を活用した取り組み
○魅力を伝える

 
知 事  それぞれに現在のお仕事を説明いただきましたが、今の段階でこれから何をやろうと思われていますか。 
岡 本  今、趣味で、ジョギングしながら、スマホで撮った新温泉町の魅力や見どころの写真をSNSサイト「地域を巡RUN?」で発信しています。新温泉町のおもしろい見どころなどを見てもらい、たくさんの人に来てもらい、走ってもらいたいと考えて取り組んでいます。
ジョギングしながら
知 事  川石さんはどうですか。 
川 石  いろんな方に日本酒を知ってもらいたい、週に1回ぐらい飲むことを、20代、30代の方に提案したいと考えていて、来週の水曜日(9月2日)も、「スローフードな縁日」というイベントを播磨の若き醸造家6蔵元により姫路で開催します。縁日スタイルの気軽な形で、播磨地域のおいしい食材も集め、姫路城の夜景を見ながら飲むというイベントで、気軽に日本酒を飲んでもらうきっかけになればと思っています。 
知 事  日本酒をもっと普及させるために、いろんなイベントをしようということですね。 

○地方の職人とコラボした洋服づくり
知 事  岡本さん、洋服をお持ちいただいていますけど、これは岡本さんのデザインですか。
岡 本  はい、そうです。“地域から発信を”と思いつくっている、「Black Line」という僕のブランドの洋服です。ひとつが但馬牛革のジャケット。姫路の皮をなめす工場に協力してもらい、但馬牛の皮を集めて作りました。最後に洗いをかけるんですけど、地元の無味無臭の天然温泉で洗ってみると、パリッとした感じではなくナチュラルな雰囲気が出ました。
 もう一つのチェックのシャツは、糸から作っているんですけど、広島の職人に藍染めをデニムで染めるような染め方で糸を染めてもらい、それを西脇で播州織りをされている同世代の職人さんにオリジナルでチェック柄を編んでいただき、できたものです。

 今は、1点1点を多く生産してないので、自分の思いや職人の思いを極力、形にする洋服づくりというものをコンセプトにしています。
知 事  今、県でも鹿革の加工に取り組んでいるんですが、鹿革は洋服にはならないかな。
岡 本  鹿革は強度が強く、ぼくも鹿革の商品を先シーズン作りました。1ミリの3分の1のコンマ3ミリまで薄くしても、破けないです。
 鹿の獣被害がすごく問題となっていますが、上手くコラボレートして、皮を商品にすることができたらと考えています。
知 事  鹿革を扱う所とうまくタイアップしてもらえるとありがたいですね。
「Black Line」の作品  (左)播州織の藍染めチェックシャツ
(右)但馬牛革のジャケット

○地元産原料にこだわった酒づくり
知 事  川石さんは、どのような新しい取り組みをされようとしていますか。
川 石  私のなかの酒づくりでは、灘菊らしさイコールこの姫路らしさ、地元らしさをすごく大事にしようと思っています。みなさんご存じだと思いますが、兵庫県には山田錦という酒米があり、私も酒を造っていて山田錦のそのすばらしさ、優秀さというものは本当に身をもって感じています。北海道のお酒を見ても、九州のお酒を見ても山田錦を使っていて、山田錦は全国ブランド。ただ、うちの姫路らしさ、灘菊らしさを出すときに、どこにらしさが出るのだろうなと思った時に、西播磨には「兵庫夢錦」という西播磨の気候条件に合うように開発された酒米があるので、7年前から市川町の農家と契約して兵庫夢錦を使っています。市川水系で育ったお米と市川水系の井戸で醸したお酒は、うちでしか作れないお酒だと思っており、特に夢錦を使った酒づくりに力を入れています。
 それと、播磨地域の庭田神社で採取された酵母菌、麹菌、地元産の米と水、オール播磨の要素でスパークリングの日本酒を作ろうと開発段階中です。
知 事  スパークリング日本酒ですか。
川 石  スパークリング、ガスがかむと若い方や普段日本酒を飲まれない方でも飲みやすくなります。

○Uターン経験を活かした取り組み
知 事  岡本さんは、地域の素材を活かして、しかもデザイン的にも岡本流を貫こうとされていますが、これからの抱負やどういう方向を目指そうとされているのかお話しいただけますか。
岡 本  今、ものづくりの生産地が海外にシフトし、ものづくりがどんどん日本から離れていっています。しかし、日本にはまだまだ魅力あるもの、歴史や文化とかすごく深いものがあるので、もっとそういうものを形にするようなデザインを、今後も続けていきたいなと思っています。
 それと、自分がUターンした経験を活かして、「新温泉町HOT NET」というサイト作りを進めています。地域の住む情報、仕事の情報、「巡RUN?」で培ったいろんな地域情報、お祭りやイベント情報などを、全て一つのサイトで情報提供できるサイトを作ろうとしています。住むところの情報は、今空き家が大変増えてきているので、空き家を自分たちメンバーで改築できるところは改築しデータにまとめる。仕事の情報は地元新温泉町の商工会に協力いただいて掲載。そして地域の祭りごとなど、今まで「巡RUN?」で発信してきたことをくっつけて、全体的な新温泉町の活性化につながるようなものをつくりたい。デザイナーとしては企画という部分では通ずる部分がありますので。
知 事  古い民家とか空き家を再利用するために、デザインを提案いただくとおもしろいかもしれませんね。我々も空き家や古民家対策に支援措置を行っているので、ぜひそれらを活用しながら新温泉町の古民家や空き家を再生して、人口が増えるようなことに結びつけていただくとありがたいですね。
岡 本  はい。ぜひ。

○お酒に込めた思い
知 事  川石さんにも持ってきてもらったお酒について説明してもらえますか。
川 石  こちらが、山田錦を100%使った純米大吟醸です。
知 事  「きくのしずく」。これはおいしいお酒ですよね。
川 石  ありがとうございます。私は、ずっと食事に寄り添えるものをつくっていきたいと思っているので、しっかりとした味わいになっています。
知 事  なるほど。それからこちらのお酒は?
川 石  「MISA33」。これは、私の名前がついていて、33にいろんな意味を込めています。光佐を数字に置き換えると33。ちょうど33歳の時に、酒をつくり始めて10年で、ぞろ目の年ってあまりないので記念して、これから先も、酒をつくり続けるよという意味を込めてつくったお酒です。地元らしさ、姫路らしさを出すために、兵庫夢錦を100%使っています。
知 事  MISA33」は一度飲んでみないといけませんね。
川 石  ぜひ。召し上がって下さい。
灘菊酒造のお酒  (左)純米酒「MISA33」
(右)純米大吟醸「きくのしずく」

これからの抱負
知 事  それでは最後に、それぞれこれからの抱負を一言ずつおっしゃってください。
岡 本  やっぱり、地元が元気になっていって欲しいので、今まで培ってきたデザインを活かして地元を元気にするのはもちろん、自分のブランドももっと盛り上げていけたらと思います。
知 事  川石さんはいかがですか。
川 石  私は、日常で日本酒が飲まれるような、一般家庭に浸透するような酒をつくっていきたいというのがまず心にあります。それと米という単一の原料でこれだけバラエティ豊かにつくれる技術はもっと世界に発信していくべきものだと思っているので、輸出にも力を入れたいです。もう一つ、兵庫県は日本一の日本酒生産県ですが、知らない人が多いんです。この間、東京の酒販店に行った時もみなさん兵庫が日本一と思っていませんでした。
知 事  ブランド力があると思っていたのに意外とブランド力がないのかな。もっとブランド力を発揮させていかないといけないですね。
川 石  播磨地域、丹波地域、但馬地域、もちろん灘地域が全部集まることで、兵庫のお酒としてアピールしていけたらと思っています。
知 事  そういえば、そのような行事をすることになっていましたね。
川 石  姫路城で10月1日に「全国一斉 日本酒で乾杯!」というイベントをする予定です。
知 事  私も乾杯に行く予定です。
川 石  はい。ぜひ姫路までいらしてください。
知 事  岡本さん、川石さんには、若い力で、地域の代表地場産業をしっかり確立して、ブランド力を高めるように頑張っていただけたらありがたいなと思います。今日は本当にありがとうございました。