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ネットワーク第137号 知事対談

家島の風景 昔ごはんとおやつの時間 (たのし)や 外観
    
    知事対談 ふるさと兵庫で夢をかなえる

 今回のテーマは「ふるさと兵庫で夢をかなえる」。姫路市家島町で観光ガイド・体験プログラムの企画をされている「いえしまコンシェルジュ」の中西 和也さんと、神河町で地元食材を生かしたレストラン「昔ごはんとおやつの時間 樂(たのし)や」を経営されている高橋 陽子さんに、知事と語り合っていただきました。
 

新たなふるさとに出会ったきっかけ

中 西   私はもともと大阪生まれで、九州の大学に行き、建築を勉強しました。大学を卒業する年は、ちょうど日本の人口が減っていく年だったので、これから建築という仕事には意味があるのかという思いが少しありました。建築と違う視点はないかと、「まち」に興味を持つようになりました。それで、大阪に帰りまちづくりをしたいと思いましたが、あまり会社もなく上手く就職できませんでした。
 ようやくシンクタンク(調査研究会社)に入社したときに、たまたま家島で活動しているおばちゃんたちがいることを知り、家島に行きました。それが200910月、ちょうど5年前です。普通の離島にはないおもしろさがあることで気に入り、2011年3月に移住して、ガイドをしています。
知 事  移住してから3年半。建築をしていた人が、まちづくりに転じ、今は家島の観光ガイドということですね。若いうちから随分思い切った選択を重ねてこられましたね。
 それでは、高橋さん、自己紹介をお願いします。
高 橋
 私は今のケーキやごはんを扱うまで、全然違う子ども相手の仕事をしていました。その今から16年ほど前に、卵や牛乳のアレルギーで、ケーキを食べたことがない子どもと出会ったのが最初のきっかけです。ケーキをプレゼントしたいと思い、ケーキづくりの学校に行った後、ケーキ屋に勤めました。いつか自分の店を持ちたいと、手探りでスタートしたのが11年前の30歳のときです。
 そして、店が10年目となる昨年、ケーキだけではなく、ごはんや卵、牛乳が食べられなくても、一緒にいただきますと言える食事を出したいと考えていた際に縁があった場所が神河町でした。
知 事  神河町とはどういうご縁がありましたか。
高 橋  7年ほど前に、姫路市の版画家の岩田健三郎さんと出会ったことがきっかけで、「食・地の座」という、食に係わる人たちの集まりに参加しました。そこから銀の馬車道のフォーラムで関係があった県民局を通じて、神河町で小豆を作っている農家と出会ったり、町役場の空き家見学ツアーに参加したことが、神河町との出会いでした。
知 事  神河町にはもう移り住まれているのですか。
高 橋  店を開ける1ヵ月前に移住して、1年半ほど経ちました。
知 事  お店は役場の近くですか。
高 橋  役場からはもう少し北の方にあります。町の空き家バンクからの紹介で、昔の大山村役場跡を借りています。
高橋陽子さん  井戸知事


家島の魅力
知 事  中西さん、家島の観光ガイドをしていて、家島のどこが魅力だと思われますか。
中 西  家島は普通の島とちょっと違います。島らしい魅力は、やはり魚がおいしいとか、人が温かいところです。島らしくないのは、大きいビルが建っていたり、割と活気があるところです。それでも島の人は寂しくなったと言いますが、今でも砂利運搬船の保有数は日本一で、採石という基幹産業があったからこその景色などのおもしろさを案内しています。
知 事  おいしい食べ物とは、やはり魚ですか。
中 西  はい、それとこの「のりつこ」(海苔の佃煮)の原料である海苔で、県内でも有数の養殖数です。
知 事  今、魚は何がおいしいですか。
中 西  これからはワタリガニです。今はちょうどイカです。
知 事  スズキやサワラもですよね。最近サワラの漁獲量が増えてきました。
中 西  どれも本当においしいです。
知 事  そのような島の海産物をガイドコースに組み込むようなコーディネートをするわけですか。
中 西  はい、例えば魚屋の道端の発泡スチロールの中で泳いでいる魚を見てもらったり、干しエビをつまんで食べてもらうなどもしています。
知 事  ちょっとつまめるような特権を島の人からもらっているのですか。
中 西  島の人と顔見知りになって、今日もお願いしますという感じです。
知 事  それはガイド冥利ですし、お客さんから見ると嬉しいでしょうね。
中 西  島を案内していると、子どもたちも声をかけてきます。そのようなところが観光客には楽しいみたいですね。
知 事  必ず案内する場所はどこですか。
中 西  魚屋と島の一番端にある「家島神社」です。そして、採石船のバケットを修理する工場も案内しています。
知 事  どこが一番好評ですか。
中 西  誰にも受けが良いのはやはり魚屋ですね。
 この間、大阪から来た子どもにタコを触らせてあげたら、大阪の海遊館でも触れないのにと言ってすごく喜んでもらいました。
知 事  実体験ができますからね。
中西和也さん  家島「詩ヲ書キ場」の石碑


地域資源を生かす
知 事  高橋さん、どうして「樂や」と命名されたのですか。
高 橋  「楽」という字に草冠を付けると「薬」になります。お菓子やご飯を食べて病気が治るわけではないですが、皆と一緒に同じ物をおいしいねとお話しながら食べる時間は、内側から力が湧き出てくるお薬みたいになってくれると思いました。
知 事  机に並んでいるお菓子は、神河町の食材で作っているのですか。
高 橋  神河町の食材をたくさん使っていますし、近隣の市川や、姫路、和田山のものもあります。この「栗献上」では、たつの市の小麦粉も使っています。
知 事  「栗献上」と書いてあるので、栗も使われているのですね。
高 橋  皆と一緒に毎年楽しみにできるお菓子を作りたいと、神河町でたくさん採れる栗を、地元のお母さんに手仕事で渋皮煮にしてもらっています。
知 事  渋皮煮は大変なんですよね。スジみたいなものを取り、それからはじめて煮ますよね。
高 橋  お詳しいですね。
知 事  手伝わされていましたから。栗の仕込みは大変ですよ。
高 橋  自分たちだけだと量がすごく限られますが、村のお母さんが「渋皮煮作るの好きやから」と言って手伝ってくれます。
知 事  珍しい方がいらっしゃいますね。
高 橋  栗を収穫する方から、栗の渋皮煮を作るお母さんの手に渡り、それを我々が受け取っています。他の卵や小麦粉、米粉なども、できるだけ近隣のおいしい素材を使わせてもらっています。
知 事  こちらは何ですか。
高 橋  私が「(はぐみ)玄米」と名付けた酵素玄米です。炊き上げから4日以上熟成させているごはんで、小豆と天然塩で炊き合わせています。
知 事  これはおいしそうですね。
高 橋  消化しやすいので、お腹にすごく優しいです。
知 事  中西さん、タイアップしてはどうですか。
中 西  ぜひ家島の海産物を使ってほしいです。
知 事  例えば「のりつこ」と一緒に召し上がってもらうとかですね。
高 橋  ぜひ使わせていただきたいです。
知 事  家島を訪れたお客さんのお昼ごはんにこれを出すのもいいですね。
中 西   空き家をレストラン風に改装してみてもいいですね。
知 事  やはりコラボしないとダメですよね。
 対談前に急に思い出して持ってきましたが、家島の「詩ヲ書キ場」標柱石の除幕式(平成20年)の際に、私は「波濤(はとう)をも もろともにせず 家島を 尋ねし君の 姿偲ばん」という歌を詠んだことがあります。菅原道真が太宰府に流される途中で家島を訪ねたという伝説があり、「尋ねし君」は菅原道真を指します。この歌が港の近くで石碑にもなっていますので、観光客にもご案内ください。

中 西  家島神社に行く道沿いにありますので、案内のコースに入れて、これが井戸知事の詠まれた歌ですといつも言っています。
知 事  ありがとうございます。
 高橋さん、お持ちになられたノートはどういうものですか。
高 橋  神河町役場からお店の話をもらったときに、私が今すぐ動けるような体制ではなく、なかなか来られないので、交換日記のように店先にノートを置かせてもらいました。
知 事  最初のページには、高橋さんが「この場所をお借りできました」と書かれていますね。
高 橋  近所の子どもたちが学校帰りに通る道でしたので、交換日記に書いてくれるようになり、次に私が神河に来た時に返事を書いたら、また返事をくれたりしました。
知 事  中西さん、このアイデアをいただいてはどうですか。観光ガイドをお願いした人にとって、直接、中西さんや家島のことを褒めたり、怒ったり、けなしにくいでしょうから、そういうことを書いてもらう。そうするとノウハウがずっと貯まっていきます。
中 西  なるほど、そうですね。
 


これからの抱負
知 事  それでは中西さんから、これからの抱負をお願いします。
中 西   すごくやりたいことがいっぱいあります。もともと、建築の勉強・仕事をしていましたので、空き家を使ったゲストハウスや、島の人の家に泊まれるような仕組みづくり、中退者やニート、引きこもりの方に、1ヶ月ぐらい住んでもらえるような、島の暮らしの体験なども企画したいと思っています。観光を一つの切り口として、島暮らしを売りにして、それを存続させていくことが、私の使命かなと思っています。
知 事  そうすると、島の人たちの協力を得られるような、仕掛づくりも必要ですよね。
中 西  直接会って話をして口説いているという状況です。今回のように、いろいろなところで私の活動が取り上げられているのを見て、分かってくれる人も多いです。
知 事  もう島で一番有名人になっているのではないですか。
中 西  ありがとうございます。それと、島のお土産が少ないということで、県の「ふるさとづくり青年隊事業」に採択してもらい、島外の若者と島内の若者が協力して、お土産づくりもしています。また、今度島の特産品を集めて通販も始めることにしています。
知 事  この「のりつこ」の通販などですね。
中 西  「のりつこ」やこの塩などです。
 この家島の塩は、裏を見てもらうと分かるとおり、天然ミネラルで海水を汲み上げて薪で焚いただけのものです。
知 事  こんなに白くなるのですね。
 私は、神戸ビーフは塩で食べるのが一番おいしいと思っています。家島の塩でも試してみます。
 高橋さんはいかがですか。
高 橋  神河町の地図、例えば、歩く目線の地図や、自転車の目線の地図、播但線や電車に乗って来られた方の目線、子どもの目線でおもしろいな、こっちにこんなのあるよとか、おじいさん、おばあさんの目線で昔ここにこんなのあったなど、歩いたり、また訪れたくなるような、小さな視点からの地図を作りたいと思っています。
知 事  地図には必ず「樂や」は入れておかないといけませんね。 
高 橋  そこからバスに乗るとお店に来られますなどですね。
 みんなのお店に、みんなの居場所になる、そのようなつながりを作っていけたらいいなと思っています。
知 事  最後に中西さんにお聞きします。もう大阪に戻る気はないですか。
中 西  ないですね。逆に、もう大阪に行くと、人が多いし、何をしたらよいか分からないですね。
知 事  高橋さんは、今は神河町ですが、また姫路市に戻るかもしれませんか。
高 橋  姫路ももちろん好きですが、神河町は、自分にとって移住という感覚ではなく、いることがすごく当たり前な場所になってきました。
知 事  私は、「ふるさと」とは、生まれ育った所だけではなく、今住んでいる所が「ふるさと」と意識できる地域づくりをしようと呼びかけています。そもそも、今住んでいる所が好きだから、その地域の将来にも期待しますが、仮住まいでは全然期待しませんよね。お二人は、今住んでいる所、家島と神河を「ふるさと」にしていただいているトップランナーではないかと思います。お二人の抱負が実現することを期待しています。