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ネットワーク第136号 知事対談

あこうぱん外観 山田錦の館外観
    
             特集 食でふるさとをつたえる

 今回のテーマは、「食でふるさとを伝える」。地元の食材を使って、赤穂市でパンを製造販売されているあこうぱん 代表取締役の鈴木誠さんと、三木市の山田錦の館で大豆コロッケやお餅などを作られている企業組合彩雲 代表理事の五百尾みや子さんに、知事と語り合っていただきました。
 

地元の食材をつかう

鈴 木   うちの両親は、パン屋さんは本当に大変なので、私にパン屋さんを継がせたくありませんでした。私は中学受験をして、有名どころの中高一貫の進学校に行き、北海道の大学に進みました。
 
それまで親の顔色ばかり伺っていたので、親の目がなくなると、大学で遊び回って、大学へは8年通いました。そこで、パンが好きな奥さんに出会い、何とか気を引こうと思って、近くのパン屋さんでアルバイトをしたのがきっかけで、パン作りに目覚めました。
知 事  たくさんの種類のパンをお持ちいただいているのですが、1日に何種類のパンを生産されているのですか。
鈴 木  どんどん増えていって、今では130種類くらいのパンをつくるようになりました。
知 事  1日に、何個ぐらいのパンをお焼きになるのですか。
鈴 木  1日2000個、土日祝日でしたら、3000個、4000個くらいのパンをつくるようになりました。赤穂は、牡蠣やいかなご、赤穂みかんが有名です。休みの日になると、県外の人がそれを買いに来て下さいます。これはいかなごのフランスパンです。
知 事  いかなごですか。
鈴 木  はい。いかなごはどうしてもお箸でしか食べられませんが、これならポキポキ折りながら、帰りの車の中で観光客の方に食べていただけます。これは赤穂の忠臣蔵というお酒の酒粕をパイ生地に入れて、上のクリームに日本酒を入れた赤穂みかんのミルリトンというフランスのお菓子です。
知 事  何時頃に起きるのですか?
鈴 木  朝1時です。
知 事  寝るのは何時ですか?
鈴 木  寝るのは夜の10時です。途中、14時から17時くらいまで、お昼寝をさせてもらって。
知 事  これはなかなか真似できませんね。
鈴 木  そういう、別の才能みたいなものも必要かもしれませんね。

お母さんの気持ちで
知 事  それでは次に五百尾さんにお話を伺います。
 五百尾さんが代表理事を務める企業組合彩雲は、ひょうごの農とくらし研究活動コンクールで、平成22年度には黒豆酒まんじゅうで兵庫県議会議長賞を、平成24年度にはよかわの大豆コロッケで兵庫県知事賞を受賞されています。そういう活躍ぶりを含めて、ご紹介いただけたらと思います。
五百尾  私達はお母さんの気持ち、これを一番大切な人に食べていただきたいという思いで、添加物は私たちの手では加えていません。
 昔の食事はやはり、旬を追っていたり、その時期に身体が要求しているものを食べるようになっていたり、色々な意味が込められています。そんな昔の良さをもう一度再現して、皆さんに提供していくという思いで、ものづくりをしています。
知 事  例えば黒豆酒まんじゅうや大豆コロッケは、昔の伝統と、どのように繋がっているのですか。
 五百尾   酒まんじゅうは、吉川は山田錦が盛んなところなので、山田錦を何とかお酒以外のもので利用できないかと考え、皮に山田錦の米粉を使うということを考え始めました。山田錦の粉は、 すごく水分の量が難しく、酒粕を入れて、皮作りをするというところにこだわりました。大 豆コロッケは、地元の大豆を有効に活用しようということで作り始めました。全部前日に手作 りしていましたが、その量が限られてしまうので、もう少し大量生産できる方法はないかとい うことで、冷凍化することにしました。
五百尾みや子さん  井戸知事
知 事  そのまま揚げれば良いのですか。
五百尾  はい、冷凍のまま揚げていただきます。冷めてもおいしいとお褒めの言葉いただき、知事賞をいただきました。
知 事  コロッケ、酒まんじゅう、お餅、お寿司、パウンドケーキ。盛りだくさんですね。
五百尾  巻き寿司やお漬け物の部門と、お餅やおまんじゅうの部門、それからパン部門の3つが一緒になって、企業組合になりました。その中で、彩雲の一押しはと言われたら、それぞれが競い合っていますので。
知 事  それが良いのですね。パンにも挑戦しているのですね。
五百尾  はい。私たちのところは、お母さんがつくっていますので、子どもを送り出してから、ぎりぎりできる範囲内でということで、自分たちのペースに合わせたパンづくりをしています。
知 事  ということは、朝ではなく、昼が主体ですね。
五百尾  そうなのです。やはり、家庭があっての私達の活動ですので。


レシピを超えるものづくり

五百尾  今若い人に引き継いでもらっているのですが、ものをつくるって、全部共通しますよね。この普通のお餅一つにしても、ただ蒸してつくだけなのに、日によって、すごく違うのです。天候によって、毎年とれるお米が違うというのもわかりましたし。だから、毎日神経を張り巡らせてないと、おいしいものはできないと思います。生意気なのですが、今の若い人たちは「レシピ通りにしました」と言うのですが、レシピ通りでは、良いものは作れません。温度や湿度など、毎日微妙に変化するものを加味しながら商品づくりをするという意識を持ってくれる人が少ないと感じます。
知 事  お料理の本には、一つか二つ、ポイントを書いていないのだそうです。「これは秘訣だから本には書かない」とお料理の先生がおっしゃっていたのを聞いたことがあります。パンの世界でもそうなのではないでしょうか。
鈴 木  そうですね、レシピ通りではありません。
知 事  レシピも大事ですが、それを超えなくてはいけないのですね。
鈴 木  知事がおっしゃるように、レシピや技術よりも、本当は、ものをつくる者としての意識や気持ちの方が大事で、それをちゃんと持っている人の方が続くし、お客さんが魅力を感じてくれます。
   
地産地消へのこだわり

知 事  五百尾さんが彩雲を始めるにあたり色々な経緯があったと思うのですが、地産地消の活動を展開されようとしたのは、どうしてですか。
五百尾  吉川は何もないところで、山田錦のお米とゴルフ場の2つしかなかったのです。そこで、 何か自分たちの手で特産品を作れたらいいなと、7人くらいの女性が集まりました。一番身近にあるのがお味噌の材料だったので、お味噌をつくることになりました。
 山田錦の館の加工施設設置に向けて、吉川町から、特産品開発講座生の募集があったので、参加し、2年間勉強しました。
知 事  地産地消の農産物を利用した特産品をつくる、そういう講座ができたのですね。
五百尾  はい。山田錦の館の中の加工施設でそれぞれがんばって下さいと吉川町が企画し、食品衛生などの色々な勉強を2年間しました。色々なところに研修に行かせていただきました。
 でも、最初は「おばちゃんたちがつくってるのに、この価格?」と言われました。
知 事  少し値段が高いということですか。
五百尾  そうですね。でも、原価率からいうと、地元のこだわりのある食材を使っていたら、その値段になってしまうのです。そんな中で、大阪や西宮から来て下さるお客さんが、それを理解して下さっているのはありがたいなと思います。
知 事  そういった地域の食材は、どういったルートで手に入れるのですか。
五百尾  山田錦の郷の中に「ようしょう会」という野菜の直売所がありますので、そこの野菜を買っています。
知 事   山田錦の館で売っているのは、全部吉川産の野菜なのですね。それを使われているのですね。
 鈴木さんは、粉などの原材料はどこのものを使われているのですか。
鈴 木  私は昔、修業をして赤穂に戻ってきた時には、自分をひけらかすために、わざわざ色々なところから食材を取り寄せて、「こんな食材知らんやろ、でも俺は作れるんだぜ」というようなことをやっていました。
 しかし、パンの国のフランスに行くと、向こうでは、お店やパンの見栄えにはこだわっていないのですが、食べるととても美味しいのです。だからパンは、格好良さとか自分のポリシーというものではなく、お客さんが喜ぶものであると同時に、食べ物であり、それを食べた人の命になるのだと気付いたのです。
 では何が一番自然か、といったら、自分の周りの農家のおじさんがつくる野菜だったり、 近くの酪農家の人が毎日つくっている牛乳だったり、海産物の牡蠣だったり、そういうものをどんどん取り入れてパンにすることであり、それを考えるのが僕ら職人です。
 色々なことでがんばっている人たちの一生懸命つくっているものをいただいて、それをパン屋なのでパンという形に変えて、お客さんが食べた時に、食の喜びに変えてもらえるように。ああ俺らの街ってこんなにおいしいものがあるのだな、とか、ああ俺らの街って、こんなにがんばっている人がいるのだなと、自分たちの街を誇りに思えるものに変えていってもらえるような工夫や取り組みをしていきたいと思います。
   
 鈴木誠さん  あこうぱんのパン
   
若い世代へ伝える
 
知 事  五百尾さんは、吉川の素材にこだわってつくられていますが、伝統や文化も担っているのですか。
五百尾  婦人会活動もなくなってきましたし、縦の関係がだんだんとなくなってきましたので、やはり私たちの職場から、今からの人へ、昔の伝統を伝えていきたいと思っています。地域の行事が、だんだんと簡素化され、私たちによく行事の依頼が来るのです。
知 事  以前であれば、自分たちのお祭りのお餅などは自分たちでついていたのに、つく人がいなくなっているのですね。
五百尾  そうです。こちらに行事食を伝える冊子があります。
 こういうものが三木の行事食でありましたよというのを、若い人たちに、伝えていけたらと思い、作りました。
 
冊子「三木の行事食」   AKT総選挙
知 事  色んな行事と組み合わされている食を守り通しながら、提供していくということですね。鈴木さんは、若い人たちに対して教室などを開いたりされているのですか。
鈴 木  はい。去年は、春から、赤穂高校定時制の子どもたちと一緒に、いつ、どこで、誰に、どんな風に食べて欲しいかを考えたパンのアイディアを、1人1品ずつ出してもらって、その中で実現できそうなものを学年毎に自分たちでつくりました。そして、赤穂高校定時制なので、AKT総選挙と題して、人気投票をし、実際にあこうぱんで販売するセンターパンを決めました。
知 事  売れましたか。
鈴 木  売れました。
 他にも、赤穂市の中の有名な義士祭で、市役所からブースを出してもらい、そこで赤穂高校定時制の生徒が上位3個に選ばれたパンを販売したら、お昼までで完売してしまいました。子どもたちも、自分たちでつくったものが全然知らない人たちが食べて美味しいって言ってくれたことに、すごく感動したようです。
知 事  なるほど。お二人とも、地域の中で、その地域が持っている良さを生かしながら活躍されているのですね。
   
   
目指すところ
 
知 事  これからの抱負をお聞かせいただくとありがたいです。 
五百尾   私たちは、さらに若いメンバーにも合う商品づくりを目指すということと、女性が働く場所として、仲良しグループではなく、職場であるという意識を持った企業組合になりたいと思います。
知 事  もともと企業組合にされたのは、「きちんと働く場の確保」という意識をみんなで持とうという意味だったのでしょうからね。鈴木さんはいかがですか。
鈴 木  はい。私は、今は本当に大人も子どもも忙しい時代で、食事も簡単に終わらせることが多くなってしまっているからこそ、パンを通じてもっと食事を楽しめるようにしたいと思います。ただパンをつくってお客さんを待ち構えるだけではなく、130種類あるパンの中から、これをあの人とこうやって食べようと、自分たちが囲む食事のシーンをイメージして選び、家に帰って大切な人と一緒に少しでも時間をとって食事が迎えられるような文化を、これからパン屋として伝えていきたいと思っています。
知 事  お二人とも、プロフェッショナルとして、地域の素材を生かした活動をこれからもますます発展させていただきますよう、お祈り申し上げたいと思います。
 今日はありがとうございました。