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ネットワーク第135号 知事対談

ARTPHEREの店内 tamaki niime weaving room&stock room 店内
    
       特集 地域ブランドで、地域の活性化を進めよう

 今回のテーマは「地域ブランドで、地域の活性化を進めよう」。豊岡鞄を世界に発信するバッグデザイナーで株式会社 K-dear代表取締役社長 由利佳一カさんと、西脇市の播州織に新しい風を吹き込む播州織作家で有限会社 玉木新雌 取締役の玉木新雌さんに、知事と語り合っていただきました。
 


豊岡鞄を世界へ

由 利   私は鞄の町豊岡で生まれ育ったのですが、東京で25年以上、都市計画など色々な事をしており、IT革命が起きた頃には、3Dグラフィックスの事務所を立ち上げました。
  「カバンストリート」というものが、私の実家の通りにあります。豊岡は、OEM(相手先ブランド名  製造)産地で、顔の見えない産地と言われますが、これからは、製造小売り業をきっちりやっていかなければならない時代だと思い、豊岡に帰って、「ARTPHERE(アートフィアー)」というブランドを立ち上げました。
 2年前には、プライベートブランドであるK-dearを立ち上げました。
2009年にドイツのデザインアワードをいただきました。
知 事   工業デザインの賞ですね。この鞄の収納力はどのくらいあるのですか。
由 利  口が大きく開くことが、皆さんから求められるので、ワンタッチで開きます。
 
なおかつ、セパレートができて、ipadが入るサイズです。
カバンストリート 由利さんデザインのバッグ
  
知 事  デザイン賞の受賞は、そういった工夫が評価されたということですか。
由 利  そうですね。あとはやはり、豊岡の伝統的な工芸です。縫製、裁断、全ての面です。今では、 ヨーロッパではこのつくりはできないと言われます。
知 事  職人がいないということですね。
由 利  そうです。工場が、ほとんど中国やアジアにシフトしてしまっているので、こういった伝統が残っているということを高く評価していただきました。本当に、豊岡の鞄があってこそ受賞できたなと思っています。
知 事  すごいですね、それはよかったですね。
由 利  ありがとうございます。
知 事  ミラノで開催された国際皮革製品見本市でも賞をもらわれたのですか。
由 利  イタリアというと、フィレンツェあたりの、1600年くらいの皮革産業が、政府も守っている くらいすごいのです。私もその本場で一度、ハンドバッグでチャレンジしたいということで挑戦し、お陰様で最高賞をいただきました。
由利佳一郎 さん


播州織に新しい風を
知 事  それでは続いて、玉木さんにお話を伺います。
玉 木  私は兵庫県の生まれではなく、福井県で生まれ、大学は兵庫県の武庫川女子大学に通っていました。 実家が洋服屋さんで、洋服に囲まれ、お客様を接客しているところをずっと見て育ったので、 小さな頃からファッションには興味がありました。
 ただ、着て捨てるというファッションではなく、ずっと着られる心地の良いものをつくりたいということを、やはり小さな頃から思うようになりました。自分がブランドを立ち上げるのなら、素材にこだわった着心地の良い、ずっと着られるものをつくりたいと思っていたのですね。
 そんな中で、たまたま東京の展示会で、西脇の播州織の職人さんに出会うことができ、これなら柔らかいし、使いやすいし、肌触りの良いものがつくれるのではないかという可能性を感じて、最終的には西脇まで行き、自分がそこで生活をして、そこで生地をつくるまでに至りました。
知 事  よくそこまで踏切りましたね。
玉 木  西脇の職人の方は、すごい技術力ですし、それが私にできるのかというところで、すごく戸惑いもありましたし、やめとけという声も確かにありましたが、やはり開発していくには、自分自身で手を動かして、色々なことをやってみないことには、新しいものには到達できないのではないかと思いました。
玉木新雌 さん 井戸知事
知 事  ここに作品がありますが、西脇だからできたなということも含めて、ご説明していただくとありがたいです。
玉 木  やはり播州織というのは、素材が綿であるということ、そして先染め織物といいまして、糸を染めてから織るということ、この二つがすごく重要で、手間もすごくかかる織り方になっています。それを、西脇だったらできるということと、やはり、すごく播州織の産業が栄えた場所なので、まだまだ職人さんが沢山いらっしゃり、教科書はありませんが、実地で色々と教えていただけるということが、すごく強みになり、西脇でしようと決めました。
 今回持ってきたのはショールです。今私が巻いているタイプと、こちらに置いているのは、冬にも使えるよう、縦糸は綿で横糸はウールを使用しています。
知 事  柔らかいですね。カシミアのセーターのような雰囲気です。
由 利  私も愛用させていただいています。
玉 木  そして、こちらが綿100%のものです。これは、洗濯もしていただけますし、軽いです。
知 事  本当に軽いですね。
玉 木  先染めなので、織る自分自身でデザインをしながら、柄を決めていけるというのが特徴ですね。
玉木さんの工房の様子 玉木さんデザインのショール
知 事  しかし、一人で活動を始めるのは難しかったと思うのですが、どなたか協力者はいらっ しゃいましたか。
玉 木   播州織が良いと思ったきっかけになった職人さんに、つくりながら教えていただきました。その 職人さんの年齢が、もうすぐ70歳になる時に、自分が本当に続けたいのならば、自分で覚えるか、他の職人さんを探すかしないといけないと言われたのです。自分はもっと続けたいので、自分で  ちゃんと覚えようと思うきっかけになりました。
知 事   やはり、主体的に判断しながら、自分の世界をつくっていかなければならないのですね。
玉 木   その時に、強く想うと、何事も叶うと思いました。本当にそのようなことが、西脇でマジックのように起こりました。


地場産業を再活力化させるために

知 事  去年、ニューヨークのカツカワサキ・ニューヨークを訪れた際、驚いたことがあります。ジェーンバーンズさんというデザイナーがおられるのですが、この方が、西脇の播州織製造メーカーを訪問し、職人さんと意見を交換しながら作り上げた製品が、ラスベガスの大きなホテルやカジノ、ショッピングセンターを経営している会社のあらゆる制服に取り入れられました。コックさんやウェイターの制服なども全部播州織、というようなことが現実化しているのです。やはり、デザイナーと素材のコラボレーションは必要不可欠だなと思いました。
 伝統産業には技術はあるのです。しかし、その技術をどう生かしていくのかという点に課題がありそうだなと感じました。地場産業の今後のあり方を考えたときに、どうすれば地場産業が再活力化すると思いますか。
由 利  やはり伝統というと、守っていかなければならないもの、受け継いでいくものなので、ある意味で、変化というものは求めるべきではないかもしれません。しかし、時代は変化し、消費者のニーズや生活スタイルもどんどん変わっていて、ミスマッチが出てくるので、変えなければならないものは 絶対出てくるのです。ここのバランスを、誰かが突破しないと、やはり伝統だけにこだわっていると、その産業は衰退すると思っているのです。これは私の勝手な意見ですが。
 伝統は尊敬しています。ただ、この誰かがモダンにしていかなければならないプロセスを、やらなければならないと、私は常々思っていて、そのためにはやはり、今の消費者の動向やスタイルが、当然エッセンスとして入ってくるわけです。そこをうまい形でものに例えて表現していくというこの作業が、どうしても必要になってくるのではないでしょうか。
知 事  今のお話だと、伝統にはこだわらなくてはいけないけれど、同時に、こだわり続けてはいけない。これを飛び越える、ブレイクスルーするような部分も必要だということですね。玉木さんはいかがですか。
玉 木  私は、もともと伝統のある播州織に、全く何も知らずに入ってきたという状態だったからこそ、  新たなものが生まれたと思っているのですね。伝統工芸の技術力はとても素敵で大切なものなのですが、発想力という意味では、なるべく柔軟に、既成概念にとらわれないことが大事なのでは  ないかと思います。
 私の基準は、自分が使う時にどうなのかということです。柔らかい方が良いのか、軽い方が良いのか。それを消費者の意見として、職人さんに伝えています。やはり、消費者の 意見を柔軟に取り入れて、いろいろやってみるということが、伝統工芸としては、結果的に進化していくのではないかなと思います。
由 利  3Dのプリンターも出てきていますが、これだけ時代がハイテク化すると、もう産業革命の次の
ステージが待っていると思うのですが、それに対応する企業がどこまであるのかということです。
 時代の技術革新をどんどん取り入れて、世界に負けないくらいのスピードで追い 付いていかないと、伝統にこだわりすぎると、取り残されるのではないかと思うのです
 
知 事  お二人のような、フロンティアを切り拓くパイオニアに続く人が出てこないといけないのですよね。 私達に続けというような人は出てきていますか。
玉 木  職人の家で生まれ育った若い職人さんに、そういうこともできるのだという一つの例として参考にしていただき、グループを組んで新しいものづくりをしようとか、自分たちでブランドを立ち上げようとかという動きが起きているようです。
 お店に来て下さっているお客さんの中にも、そういう風に興味を持っていただき、こういう風にするには、どういうところに就職したら良いですか、と聞かれたり、私を知りたいから、ちょっと取材をさせて欲しいという学生さんがいたりします。これから就職を考えていく人たちに、こういう仕事もあるのだと思っていただけることは、可能性としてすごく広がっていっていると思います。
知 事  由利さんや玉木さんに憧れて、豊岡でデザイナーになりたい、西脇でデザイナーとしてファッションを開発したいという人たちが続けば、人材の厚みが増してくると思うのですが。
由 利  私は、やはりお金だと思うのですよね。今の若い子たちが夢の持てる年商や年収を、自分で稼げる環境づくりを私達がしないといけない。最終的に全て企業はお金がつきまといますから、この社会の仕組み作りをもしできたとすれば、最高だと思います。
 知 事  ちょっと一度立って見せてください。
 由 利   ネットワークで、こういった全身のトータリングが今、できるのですよ。
 知 事   玉木さんも身に付けていらっしゃるものは、ご自分の作品なのですよね。
 玉 木   靴以外はすべてそうです。セーターも自社でつくっています。それとこのショールもです。持ってきたバッグも、全て播州織の生地をつかっています。
 
知 事  地場産業には夢があるということを、お二人のお話を伺い、実感しました。
 伝統を守り抜いていくのも一つの道で、そういう方がいないと、技術が受け継がれていかない。 一方で、新しい技術が創造されていかないというところがある。
 技術をどう生かしていくか、コラボしていくかというのは非常に重要だという事に気付かされました。 姫路の革が豊岡でも使われているということは、大変嬉しいですよね。豊岡の鞄の材料は、姫路のものですよね。
由 利  結局流通が問屋制度で全て東京に出してしまうのですよ。姫路も東京に出して、東京から買うという流れです。私は、直接そこの工場へ行って取り引きします。
知 事  地場産業同士、地場産地同士の連携も必要ということですね。
 その辺は、行政の役割かもしれません。もう一つ、新分野に関心を持っている人たちの養成も仕掛けなければなりません。伝統をきちんと守る人の養成との両面が必要なのだと感じました。
 お二人のような方をもっと、兵庫の地場産地から生み出していきたいと思います。今日は大変貴重なお話を、ありがとうございました。