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ネットワーク第134号 特集

あそびの学校 子どもの遊び場を考える会赤とんぼ
    
       特集 ふるさとへの愛着を育もう


 住んでいる所への愛着やふるさとの人々との絆は、思いやりや命を大切にする心の醸成につながるとともに、
地域づくりの原動力になります。
 今回は、子どもたちが自然の中で遊ぶ、その「場」を創るお二人が、「ふるさとへの愛着を育もう」をテーマに 知事と語り合いました。

子どもの遊び場を考える会 赤とんぼ
あそびの学校
兵庫県知事

代表  森   正枝 さん
校長  山崎 春人 さん
     井戸 敏三
 

遊び場での体験

    毎週土曜日、揖保川河川敷公園の水辺プラザで子どもが自分の責任で自由に遊ぶというのをモットーとした遊び場「プレーパーク赤とんぼ」を8年前から運営しています。
 
参加するのは西播磨各地の幼児から小中学校の子どもたちで、私達が用意した端材や段ボール、縄等の素材を使って、木工作や段ボールハウスづくり、ブランコや長縄跳びなど、自分のやりたい遊びを見つけて自由に思い思いに遊んでいます。毎週来る子もいますし、赤穂や上郡、姫路や宍粟など、かなり広範囲から噂を聞きつけてやってくる子どもたちもいます。
 
また、雑木林の真ん中にはママカフェコーナーがあり、子どもたちが遊ぶ傍らでお母さんがお茶を飲みながらおしゃべりしたりくつろいだりしています。
 毎年7月には、自治会や消防署、地元企業や大学・高校などに呼びかけ夏まつりそうめん流しを企画しています。今年は1100人を超える参加者があり、年々大きくなっています。
  
 それから、11月にはトライやる・ウィークで中学生の受け入れも実施しています。
山 崎   私どもは丹波市の大路地区で、遊びの学校をやっています。今、山が荒れていて、入れない山ばかりになっているので、子どもの遊び場として、開放した場所をつくろうということで、地元の方々に手伝っていただいて、形にしました。100m×200mくらいのスペースです。この春から、「遊びの学校」として参加者を募集したところ、最初は20名くらいの予定が、あっという間に80名になって、リーダーの方が足りないような状態になっています。
  例えば今月は「木の実を食べよう」など、毎月のテーマを決めて、月に1回、定期的に開催しています。丹波にある、ツブラジイというおいしいドングリを子どもたちと食べたり、どんぐりの工作をしたりします。
 「子どもの遊び場」をやっているのは、大路未来会議という、Iターン・Uターンを含めた、若手が色々な移住先も含めて考えようと立ち上げた団体で、大路小学校が既に100人を切っていますので、この100人を何とか維持して小学校を残すために、子どもを連れた若い人たちをとにかく入れてくるための色んな施策をやろうと、活動を展開しています。PTAもそれに乗ってくれています。そこに小学校があるかないかで、地域の様子は違ってきますので。
規程路線で小学校統廃合があるのですが、それを何とか少しでも延ばしたいと。
知 事  それは大変ですね。ふるさとを維持できるかどうかという、重要な役割を担っているのですね。
 プレーパークでは、子どもたちの遊び方は、子どもたちが自分たちで考えるのですか。それとも、スタッフがこんな遊びを今日はやろうと提案するのですか。
 森   基本的には遊びの素材縄跳びやロープ、端布や段ボールなどを置いておくと、子どもたちがそれを自由に使って遊びます。例えば、ロープですと、ある子はターザンロープにしますし、ある子はブランコにします。子どもたちの創造力には毎回驚かされます。
知 事  遊びは子どもたちに工夫させているのですね。
 山崎さんのところは山仕事なので、ナイフなどの刃物を使うと思いますが、子どもたちが怪我をするようなことはないですか。
山 崎  やはり、ないとは言えないです。ターザンロープから落ちた子もいましたし。そのために、下に枝を敷きつめるなどの安全対策はしていますが、ターザンロープは、3〜4mの高さになる場所もあるので、基本的には、怪我は自分で責任を持てと言い続けています。

井戸知事

知 事  意外と子どもたちは安全を自分で判断できます。
山 崎  そうですね。そういう所にいることで、判断力がつき、「自立」できるように仕向けるという意図もあります。
知 事  プレーパークでは、子どもが遊んでいるところに大人も加わることはよくありますか。
 森  大学生がリーダーをしています。大学生がとっても重要です。子どもと年代が近く、子どもの目線に立ちながら遊びをリードするという立場です。だからきっと、私たち大人では、安全に安全にと、常識から逸脱できないのですが、大学生なら、まだ、無茶ができる年代だと思うのです。
知 事  その大学生ボランティアはどこから見つけてくるのですか。
 森  近所や、以前にトライやる・ウィークで来てた子が大学生になって今来てくれています。自分たちが昔遊んで楽しかったことを、子どもたちと一緒に共有しているという感じでしょうか。

森 正枝さん

地元とのつながり

知 事  もともと山崎さんは春日に生まれ育ったのではなく、Iターンですよね。なぜ春日だったのですか。
山 崎  西宮で震災にあったことをきっかけに、もともと森林ボランティアをしていたこともあり、森林のあるところに移住先を探しました。最終的には、30年以上も耕作放棄地になっていた場所を、森林ボランティアの仲間に手伝ってもらうところから始まり、仲間の建築士に大体の段取りをしてもらって家を建てました。
知 事  それはすごいですね。本当に手作りの家なのですね。それで、山崎さんが春日の大路に居を構えられたのを機に、また仲間が集まるようになったのですか。
山 崎  はい。みんなが建てたみんなの家なので、そこで田植えや稲刈りに集まったり、色々な交流をしています。周りにIターン者も少しずつ増えてきて、ネットワークもできてきましたし、Uターンの方や地元とも繋がってくるという形で、だんだん広がっていきました。
知 事  地元には色々な役がありますよね。
山 崎  あります。組長もやりました。組長は葬儀委員長になるのですよね。私が2年組長をやっている間に5件、葬式を出しました。
知 事  地域が一番一致団結して、協力する行事はお葬式です。
山 崎  私は都会で育ったので、そういう地域のコミュニティーが、防災のことを含めて、これからもっと大事になってくると思います。防災組織を作らなくても、ちゃんと組で、どこに誰がいて、どんな様子かというのが全部分かっていますし。それはやはり田舎の良いところです。

山崎 春人さん

子どもたちの心に思い出を

知 事  プレーパークに集まっている子どもたち同士は、もともと仲が良いわけではないですよね。
   そうですね、色々なところから来ますので、そこで友達になることが多いです。
 子ども同士のやりとりが生まれるよう、遊具も道具も少なめに置いておいて、「貸して」って言わないと使えないよう工夫しています。小学校などでは、ボンドも、1人1個ずつ置いていますが、うちは大きなのをドンと置いています。段ボールも、一人一枚ずつに決めていません。自分の分がなくなってしまって子に、「自分で交渉しに行き!」と言うと、その子は意を決したように、「僕も仲間に入れて」と言いに行きます。
知 事  やはり子どもたちは、社会性をそういうところで学ぶのですね。自分の家だと、社会性を学んだり、交流する機会がほとんどありません。
 山崎さんの「里山遊び場」は非常にユニークですよね。
山 崎  遊び場には、森の幼稚園の卒業生や、西宮などの都会からも意外とたくさん参加されています。やはりそういうニーズがあるということですね。今の教育の中で何か足りないところを、もう一度考え直さないといけないと思っています。恵みを伝えるとか、あるいは厳しさもそうですが、そういうものを何らかの形で伝えていかないと。昔はみんな山へ入って遊び、危険なことや悪いこともしたけれど、それがすごく思い出になっている。だから、残ろうという気もあるだろうし、守っていく気もあるだろうし。
知 事  私が小学生の頃、1年に2回、3月末の春休みに家族全員で山に入り、1年分の薪を自分の山から切って、ふもとまで下ろして、揖保川の対岸の家まで運びました。2kmくらいの道のりを1日に3回くらい往復するのですが、小学生でしたので、重労働に感じました。
 例えば、小さい頃、自分の家から駅まですごく遠いと思っていたのが、大人になって歩いてみると、この程度の距離だったのかと感じることがあります。子どもと大人では縮尺が違うのです。だからこそ、子どもたちにとって、体験や思い出の有無は非常に重要だと思います。プレーパークは、その思い出づくりにつながります。
 プレーパークでは、子どもたちに、いわば生き様など、伝えたいことを意図されているのですか。
 森  意図はしていませんが、楽しかった思い出というのは、ずっと残ると思うのですですから、ちょっと辛かったり、悲しかったりした時に、「あぁ、あそこの場所に戻りたいな」などと思ってくれればいいかなと思います。
 「ふるさと」という言葉には、「場所」ということだけではなくて、「一緒に遊んだ友」、それから、「温かい家庭」というようなイメージが含まれているものだと思います。子
どもが一所懸命遊んで、心満たされて、お母さんはママさんカフェでちょっとホッとできるということで親子関係も良くなると思いますし、お母さんにとっても、子どもにとっても思い出の場所になるのではないでしょうか。
 
知 事  山崎さんはいかがですか
山 崎  開発などもそうですが、自分が遊んでいた木がなくなったらやっぱり嫌ですよね。やはりその中で遊んでいれば、環境に敏感になっていくと思うのです。あのときいつも僕がドングリを拾っていた木は、何でなくなったんだっていうことで。そんな問題意識から環境って入っていけるのではないかと思います。
 また、里山資本主義もそうですが、今の都会とは違う形を田舎でどう作るか、それのキーになるのが今の子どもたちかなと思っていて、子どもたちに都会でお金を稼ぐだけではない価値観のようなものがどんなふうに浸透するかということが大事かもしれません。今きっとある種の価値の転換の時代を迎えつつあるのは、確かだと思っていて、その豊かさの中味を叶えられる場所としての地方をどうちゃんと作っておくかというのは、大事になってくると思います。
知 事  以前、丹波で、座談会をした際に、農作業を子どもに手伝わさずに、勉強をさせているという話を聞き、それはちょっともったいないですねと申し上げたことがあります。せっかく良い環境があるのだから、その良い環境をうまく生かすような体験を子どもたちに与えてあげれば、良い思い出ができる。良い思い出は、振り返って懐かしくなる。それがきっとふるさとになる。たくさんの思い出があってこそ、ふるさとをつくることができるのでしょうね。
 森  プレーパークでは、もちろん自然もある程度必要ですが、むしろ人との関わりということで思い出に残って欲しいなと思うのです。人との関わりの中で、すごく創造力がある遊びが膨らんだなとか。異年齢の子どもたちが一緒に遊びに来るので、どうしても小さな子は大きな子にかないません。これから子どもたちも厳しい社会に出て行くわけですから、不条理なことがあっても、自分の思いが叶うように、自分の知恵を絞って工夫し、実体験を通して「行き抜く力」を身につけて欲しいと思います。お兄ちゃん、お姉ちゃんに負けずに自分で何かをやったぞとか、リーダーと一緒に遊んで、こういうことが覚えられたとか、人からの影響、兄ちゃんからの、姉ちゃんからの遊びを通して習得して欲しいなと思っています。
 
うちは河川敷公園なので、ダイナミックな遊びは難しいですが、そんな場所でもすごく楽しかったら、きっとキラキラっとしたもっと素晴らしい光景に子ども達には映るのではないかなって。
知 事  人との交流や、人を通じて学ぶ。きっと楽しいだけではなくて、切磋琢磨したり、工夫をしたりというような鍛えられる場でもあるから、思い出として残るのではないでしょうか。
 兵庫県は、環境学習やトライやる・ウィークなどの体験教育を重要視しています。教えられるよりも、自分が感じ取って学ぶ方が、心に深く刻み込まれる。これを兵庫の教育の特色にしたいと思っています。

プレーパーク赤とんぼの取り組み

沿革

 児童数の減少により地区の小学校の統廃合が検討されるなか、地域コミュニティの拠点であり、心のふるさとでもある小学校を守ろうと平成20年2月に設立。児童数確保のため、若い世代が住み続けられる住みよい地域づくりに取り組み、ふるさと再生をめざす。
 異年齢集団で群れて遊ぶ中で、自然のあり方や人との関係性・社会性などを自らの経験を通じ体感し、強く行き抜く力を持った子どもの育成に寄与しようと、平成18年3月、グループを立ち上げ活動を開始。   プレーパークには西播磨各地の小中学生が参加し、遊びの素材を使って自由に遊ぶ。ママカフェコーナーも設置し、親の癒しの場にもなっている。

主な取組
●毎週土曜日13時〜16時、揖保川河川敷公園水辺プラザで「プレーパーク赤とんぼ」を実施。子ど もが自然の中で旺盛な好奇心やエネルギーを発散させ、のびのび遊ぶ場を提供。
●子どもたちの視点に立ち、遊びを見守る大学性ボランティ「プレーリーダー」を配置。
●毎年7月には、自治会、消防署、地元企業、大学、高校などに呼びかけ夏まつりそうめん流しイ ベントを実施企画。
●随時、幼稚園や児童養護施設などで出前プレーパークを実施。
●子どもの外遊びの重要性を広めるため、「西播磨オータムフェスタ」、「たつの市民まつり」な ど各種イベントでのブース出展(クラフト製作、段ボール遊びなど)やプレーパーク実践講座を 実施。
●雪遊び・スキー教室や流星大観望会など季節のイベントを実施。
●「トライやる・ウィーク」で中学生の受け入れを実施(中学生はプレーリーダーとして活躍)。

あそびの学校の取り組み

主な取組
 

大路地域の豊かな自然・伝統文化を活かし、心豊かに暮らせる持続可能なコミュニティーを創造することを目的に、地元の小学校の保護者らが設立した「大路未来会議」が、平成25年4月に立ち上げた。
  山が荒れ、子どもが森の中で遊べなくなっている中で、遊ぶ機会を提供しようと、山を整備し、遊び場を作る。地元の子どもだけではなく、都会の子どもも呼び込み、子どもが減少している地域の活性化に取り組む。

主な取組

●大路こどもの森とその周辺(丹波市春日町大路地区)で、幼児(3歳)〜小学6年生を対象に、
  毎月第3土曜日、野外活動を中心とした遊びを実施。
●自由遊びを中心としながら、遊び環境を考えることによって、豊かな遊びを創造できるように導 く。
●生徒は約80名で、市内のほか、西宮や神戸市からも子どもが参加。

年間の中心プログラム
4月 野草を食べる   8月 夜遊び       12月 もちつき
5月 山菜       9月 野外料理      1月 火遊び
6月 基地づくり    10月 きのこ、木の実   2月 クラフト
7月 川遊び      11月 おやつ作り     3月 お泊まり

●「大人の遊び場」も併設し、手作りツリーハウス作りや間伐、野遊び研修を実施、子どもの学校 の参加者の保護者などが参加。


ふるさとを想う心

山 崎  私は環境学習にも関わっていて、都会でもやっています。都会には公園しかありませんが、ちょっと草があれば虫はいるし、そこにちゃんと命のサイクルがある。大自然が良いというわけではないと思うのです。身近なところにちゃんと色んな命の営み含めてあるわけで、それに気づくことの方が大事かもしれない。
 森  そもそもプレーパークを立ち上げたのは、自分の子どもがチック症になったことがきっかけでした。子どもの心と成長を勉強するうちに、子どもの遊びが大切だぞと気づき、子どもの心を大切にするためには、遊びが必要だということで、遊び場をつくろうと思ったわけなのです。ですから、特に、私のところは、どんな遊びをしたかではなくて、むしろ、遊んでいる様子から、子どもの心を大切にしたい、という思いです。
知 事  お二人とも子どもたちが自由に遊べる場所を確保したわけですよね。昔はプレーパークのような遊び場ではなくて、ちょっとした原っぱや道路でキャッチボールなどをしていました。今、社会がどんどん高度化して、それができなくなっています。
 だから少し補う必要があります。補ってやれば、ちゃんと子どもは子どもらしさを取り戻す。体験教育、環境教育など、色々な形で補いを展開していくことが、兵庫をふるさとと思ってもらえる人づくりにつながることを願っています。