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ネットワーク第132号 知事対談

芸術文化を活かしたまちづくりを推進しよう

 今回のテーマは、「芸術文化を活かしたまちづくりを推進しよう」。県立美術館が提唱する「ミュージアムロード構想」の推進に取り組む灘駅前商店会会長 新井みき さんと、県立芸術文化センターを核に地域のにぎわいづくりに取り組む西北活性化協議会会長 松山  享 さんにお越しいただき、兵庫の新しいアートの拠点である横尾忠則現代美術館において、知事と語り合っていただきました。
 

横尾忠則現代美術館の紹介

知 事  ここ横尾忠則現代美術館は、11月3日にオープンしました。背後には横尾先生の制作中の作品が公開されています。このような公開制作を行うなど、センセーショナルな館に育て上げたいと思っています。現在開催中のオープニング展覧会「反反復復反復」はご覧になられましたか。
松 山  団体鑑賞の第1号として11月16日に鑑賞させていただきました。Y字路や女性のスイマーの絵を、何年か後にまた描くことにより、作者の成長や感性の変化が形に表れておもしろいと思いました。
知 事  新井さんはいかがですか。
新 井  昔の先生の作品も見ているので、タイムトンネルのような先生の良さが非常に表れていると感じました。
知 事  スイマーやY字路、コラージュのような作品が繰り返し描かれていて、おもしろいですね。「反反復復反復」は先生自ら名付けられましたが、モチーフによく合っています。私が横尾先生と最初にお会いしたのは、JR加古川線で大きな目玉のラッピング電車を走らせた際です。常識外の常識を作られるのが横尾先生らしいと思っています。
 11月2日の美術館のオープニング式典には、作家の瀬戸内寂聴さん、哲学者の鷲田清一さん、ファッションデザイナーの三宅一生さんなど、非常に幅広い分野の方達が来られました。先日は、細野晴臣さんのミニライブもここで開催されました。このように横尾先生の幅広い交友関係を活かしてもらえるとおもしろいなと思っています。

 

ミュージアムロードの取り組み

知 事  県立美術館の蓑館長が、県立美術館からまっすぐ上がって、王子公園に至る道をミュージアムロードにしようと提唱されています。地元の新井さんには大変ご協力いただいていますね。
新 井  ミュージアムロードという名称を、トアロードやフラワーロードのように皆さんに早く浸透させたい。そして、JR灘駅、阪急王子公園駅、阪神岩屋(兵庫県立美術館前)駅を降りると、アートの漂う街と感じてもらえるようにしたいです。
知 事  抽象の彫刻を通りにずらっと並べてはどうかと提案しています。具象の彫刻では一定のイメージが作られてしまうからです。それと道路を使って子どもたちの写生会など、空間をもっと活用できないかなと思います。商店会としてはいかがですか。
新 井  11月24日に神戸芸術工科大学の学生が阪急電鉄の高架下の壁面に絵を描いてくれました。新聞記事にも大きく取り上げてもらっていますので、これをバネに今後もミュージアムロードづくりに取り組みたいです。
知 事  壁面を生かしてレーザー光線で動く絵画を映し出してもいいかもしれません。美術の世界は広いので、地元からもっと声をあげて発信いただくとおもしろいですね。
 ミュージアムロード構想に取り組もうとされたきっかけはいかがですか。
新 井  そもそも私自身、この地域をアートの街にしたいとの思いで26年前に飛び込んできました。画廊などを10軒くらいまで増やしましたが、震災の影響で現在は4店舗に減ったので、またこれを増やしたいです。
 また、横尾先生がY字路にこだわっておられるので、ミュージアムロード構想もY字路のように摩耶山まで伸ばしてもらえたらありがたいですね。
知 事  蓑館長も、ミュージアムロードが充実すれば、この横尾忠則現代美術館と県立美術館を結ぶ渡り廊下になり、美術館も一体になると言われているので、ぜひ実現したいと思います。

新井みき さん  井戸知事


西北活性化協議会の取り組み

知 事  松山さん、西宮北口駅周辺の皆さんには、県立芸術文化センターができるころから大変ご協力いただいていますが、振り返られていかがですか。
松 山  芸術文化センターができる半年前に、地元の者が集り、これからの街のイメージについて話し合ったところ、音楽であれば皆が共有できるのではないかということになりました。センターからも、地元と一緒にやろうと言ってもらえました。そこでまずは何でもいいからアクションをということで、9日間毎日イベントをしたことが活動のきっかけです。
知 事  芸術文化センターの佐渡裕芸術監督は、地域の人たちに愛されない施設は栄えないという考えをお持ちで、近所の小中学校すべてを訪問されたりしました。皆さんと佐渡監督の波長がぴったり合いましたね。
松 山  佐渡監督は楽しいことは何でもしてみようという姿勢ですから、我々の思い以上のものが跳ね返ってきて、本当に嬉しいです。
知 事  今年のプロデュースオペラは「トスカ」でした。芸術文化センター前の公園で、皆さん主催の前夜祭をしていただきましたね。今年はどんな趣向でしたか。
松 山  トスカをテーマにした前夜祭です。難しいクラシックをアレンジしてみんなで歌ったり、オペラの内容を分かりやすく読み聞かせたりしました。また、オペラの舞台となる国を理解したいという思いもあり、トスカはイタリアですから、ピザやイタリア風イカ焼きとかを作ってみました。それとにしきた音頭で盆踊りもしました。
知 事  盆踊りの作曲は佐渡監督ですか。
松 山  我々の仲間が作詞・作曲しました。それをさらに、オーケストラ用に編曲して、先日芸術文化センターで佐渡監督指揮のオーケストラの演奏のもと、みんなで踊りました。
知 事  それだけ地域の人が力を入れていただいている芸術文化センターになったということですから、我々も大変喜んでいます。私も館長を務めていますので。
 また、阪急西宮ガーデンズができたことは、地元の商店街としてはいかがですか。
松 山  あれだけ大きな施設ができることは、地元としてはうれしさと恐怖の両方があります。西宮北口は阪急今津線と神戸線で4つの地域に分かれています。ですが街は一つとの考えのもと、阪急西宮ガーデンズ、地元(アクタ西宮、にしきた商店街)、芸術文化センターという、4つの地域が一緒になりまちづくりをしようということになりました。
知 事  そのクローバーのバッジがそうですか。
松 山  4つのハートを引っ付けると、クローバーに見えます。全国公募600件程の中から選んだ西北活性化協議会のシンボルマークです。

松山 享 さん

知 事  ミュージシャンコンテストのようなイベントもされていますね。
松 山  予選を商店街など3ヵ所で行い、最終の決戦を芸術文化センターの中ホールで実施しています。
知 事  新井さん、県立美術館と横尾忠則現代美術館を使ったイベントをしてはどうですか。
新 井  どんどんやりたいと思っています。
松 山  ここでミニオーケストラをしてもいいかもしれませんね。
知 事  踊りもいいですよ、よさこいとか。よさこいが美術館にだっとなだれ込んだらおもしろいですね。
新 井  暖かくなったらサンバのチームとか。
知 事  ここはサンバがよく似合いますね。
 松山さん、芸術文化センターがオープンした頃と今とでは、街の雰囲気に違いが出てきましたか。
松 山  違いますね。各エリアでいろいろな音楽イベントをしていますが、アクタ西宮でも毎週土曜日にウィークエンドコンサートをしています。すると、150〜200人のお客様が30分間足を止めて聞いてくれます。
知 事  それは立派ですね。
松 山  関心がある音楽についてアンケートしたところ、芸術文化センターの影響なのか、第1位がクラシックでした。次にボサノバやジャズが続き、演歌は1%程度でした。
知 事  それではこちらの美術館ではジャズと演歌をしてみたらどうでしょう。
新 井  こちらでも、これまでソウルミュージックのおやじバンドや世界の民族舞踊などいろいろやってきましたので、今度考えてみます。


今後の抱負

知 事  新井さん、今後の具体的な取り組みの計画はお持ちですか。
新 井  私なりにはいっぱいあるのですが、まずは学生など若者の意見を重視して、私はサポート役に回るつもりです。カラーの異なるいろいろな大学の学生が、アイデアを出し合うことで、学生同士のコミュニケ−ションも深まるので、そういう場をどんどん広げていきたいと思っています。
知 事  来年は神戸ビエンナーレ(2年に1度の芸術文化の祭典)が開催されます。ミュージアムロードが舞台になってくれるといいですね。
新 井  はい、それを願っています。
知 事  松山さん、来年はどのような街おこしプロジェクトを計画されていますか。
松 山  例年の定番のイベントはこなしたいと思います。
知 事  プロデュースオペラの前夜祭などですね。
松 山  来年何をするかは検討中ですが、今年のクリスマスイベントではオペラにちなんだ演出もしたいと思っています。芸術文化センターのエントランスや公園を会場に、昔ながらの餅つきもします。
知 事  地域ぐるみで応援していただくと、芸術文化は地域に根付き、育っていくと思います。芸術文化センターや県立美術館をつくるきっかけは阪神・淡路大震災でした。復旧・復興に向けて立ち上がる意欲を芸術文化が後押ししてくれたのです。そのような意味で、まちづくりの一環として、県立美術館や横尾忠則現代美術館を応援してくれる灘駅前商店会、芸術文化センターを応援してくれる西北活性化協議会、継続は力ですから、引き続きよろしくお願いします。
 それでは、新井さんから、新年の抱負についてお聞かせください。
新 井  この地域の活性化に向け、若者の力を借りながら、初心に戻り力を振り絞りたいです。
知 事  若い人と組んでもらい、それこそ神戸の人たちがあっと驚くような事業を立ち上げてください。
新 井  横尾先生も兵庫出身で私も誇りに思っています。横尾先生にお会いした際、県立美術館と原田の森ギャラリーの間でいろいろなイベントを立ち上げて、地域をどんどん活性化すべきだと言われていましたので、頑張ります。
知 事  蓑館長が、ミュージアムロードの一角に村上隆さんのお店を誘致したいと言われていました。実現すればそれだけで人の流れが生まれるのではと期待しています。
新 井  阪急電鉄の高架下をアトリエに活用してはどうでしょうか。
知 事  そのようなことも、どんどん提案してください。
 では、松山さんの来年の抱負はいかがですか。
松 山  音楽は無形なものです。無形であれば、人それぞれ受け止め方が違うし、記憶に残って初めて理解できます。時間をかけてでも、根気よく自分たちの思いを絶えず続けていくことが大切だと思います。
知 事  音楽というのは物として残らないですからね。でも、残らないからこそ、何とか自分の記憶の中にとどめたいという動きになってくるのかもしれません。絵も、例えば、横尾先生の絵を見ても、分かったような気にはなりますが、これがなかなか分からないんですよね。解説できない。芸術の良さはそういう奥深さにありますね。
 横尾忠則現代美術館、芸術文化センター、それぞれ内容は違いますが、新井さん、松山さん、ぜひ一緒になって、新しい地域づくりと芸術文化づくりを進めていただけましたら幸いです。
 そういえば、来年はどういう年になるでしょうか。変化の激しい年になると思われますが、そのようなときに巳年になるのはちょうどいいことかなと思っています。蛇の道というように、蛇は自分の進む道をどんなところでも見つける。どんな難しい状況でも、来年は先が開ける。そういう年にしたいと思っています。
 今日はありがとうございました。