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ネットワーク第130号 特集

 
ライフデザイン研究所FLAP 三木自然愛好研究会
(写真内:ホンシメジの栽培)
    
    特集 地球環境時代に相応しいライフスタイルを確立しよう
       〜自然と共生した地域づくり〜


 生態系の危機や地球温暖化など、環境問題は私たちにとって今や深刻な課題となっています。
 今回は、環境学習や自然環境保全等のアプローチで自然と人への理解を深める活動をされているお二人が、「地球環境時代に相応しいライフスタイルを確立しよう〜自然と共生した地域づくり〜」をテーマに知事と語り合いました。
 特定非営利活動法人 三木自然愛好研究会
 ライフデザイン研究所FLAP
 兵庫県知事
理事長 小倉 滋さん
代  表 岩木 啓子さん
井戸 敏三
 

環境学習・自然保護の取組
小 倉  私たち三木自然愛好研究会の活動の大きな柱の一つは自然保護です。二つ目は、会の親睦と研修・研究です。月1回研修会を続け、環境学習のレベルアップを行っています。三つ目は、会員の持つ能力で社会に貢献することです。
 活動のモットーは、「数は戦力」、皆で支え合えば何とかできる。活動はしんどくても楽しく取り組もう。「食和一心」、作業が終わった後ささやかでも、ともに食を囲み仲間と心を通じ合う。15年間活動を続け、会員も130人になりました。
 高砂市から西脇市までのグループで活動する加古川流域環境ネットに参加し、里山再生を通じて川の水を良くする取り組みをしてきました。自然を守ることが活動の一つの原点になり、今では「増田ふるさと公園」を中心に、10校程度の学校が環境学習を行っています。
知 事  ふるさと公園では、ホンシメジも栽培されているのですね。
小 倉  三木市役所そばのみっきい緑地や呑吐ダム周辺で栽培しています。人工的に培養する技術はまだ確立しておらず、県森林林業技術センターと三木市、私たちの会と共同で取り組み、四年間かけやっとキノコが生えるようになりました。
知 事  ほだ木に植えるのではなく、地面にそのまま植えるのですね。
小 倉  植えたところから網目状に広がり出てきます。
知 事  収穫はどのくらいありましたか。

小倉 滋さん

小 倉  1年目は180グラム、2年目が200グラムほどでした。今年は3倍くらいの収穫になると思います。放置された里山の再生、三木市の地産地消やまちおこしに貢献できればとの思いで取り組んでいます。
知 事  ぜひ頑張ってください。
 岩木さんはどのような活動をされているのですか。
岩 木  私は、参画と協働をキーワードに、大きく三つの柱で仕事をしています。
 一つはまちづくりです。参画と協働で地域づくりをしようとする場の支援として、ワークショップなどに関わっています。県民交流広場の立ち上げにも関わりました。
 二つ目は体験学習です。暮らしの中には、食、福祉、環境、子育てなどいろいろなテーマがあります。それを先生から教わるのではなく、体験的に学ぶ場面を作ることです。先生と一緒に小学校の環境教育の授業プログラムを作りました。高齢者大学など成人向けに、環境を今一度見直すことを体験的に学ぶような場にも多く関わっています。
 三つ目が人材育成です。ここ数年は特に保育所や幼稚園の先生に対する環境学習の実践研修に関わっています。
知 事  幅広い活動をされていますね。きっかけは何だったのですか。

井戸知事

岩 木  現在の事務所を始めたのは13年前です。その前は生活協同組合コープこうべで、環境や食などを中心とした活動や学習会の企画など、組合員活動がしやすくなるような仕組づくりをしていました。よりよい消費者を育てる消費者教育とも言えますが、一昔前は添加物が入っていないものを買うといった、自己防衛的なものが中心でした。私自身は、例えば物を買う際に、安全面だけではなく、世の中にどのように関係するのかまで見通して行動できるような自立した消費者、生活者を育てたいと思っていました。ライフスタイルを切り口に、環境と関わることがすごく大事だとその時に感じたことが今の仕事のきっかけです。

岩木 啓子さん

知 事  賢い消費者という考え方と、環境を大事にしようという部分が上手く結びついた感じですね。
岩 木  皆が普通に生活した結果として、地球温暖化が起きています。一人一人の生活者がしっかり考えることが環境問題にも影響してくると思いました。
知 事  小倉さんは、自然や環境にもともと関心を持たれていたのですか。
小 倉  教師になった頃、宿直の晩に運動場で子どもたちと座って話をしていたら、夜7時半頃になると一面に牡丹雪かと思うほど蛍が飛んでいたのです。びっくりするような感動的な光景を見て、自然の良さを子どもに見せてやりたい、人の気持ちを大事にするには自然を残さないといけないと強く思いました。
知 事  岩木さんの活動は、フィールド活動とどのような形で結びつくのですか。
岩 木  地球では、生き物をはじめ、エネルギーや物質も上手につながって循環しているから、私たちは生きていられます。それがあちこちで分断されることによって、環境問題が起こっています。断ち切っているのは、私たち人間です。そのつながりを都市部に住んでいる人も含めて、皆がきちんと意識して、環境の事を考えて行動できる人たちを増やさないと大変なことになるということが、私の一番のベースとなる思いです。
知 事  県では小学校3年生の5万人を対象に環境学習を実施しています。この環境学習を始めた一番の理由は、命の大切さを感じてもらうことでした。子どもたちの自殺がずいぶん起きた時期がありました。自分の命を絶つことは、「自分の命だから勝手でしょ」と言えるでしょうか。もう少し考えてみてください。自分の命はお父さんお母さんから、ずっと辿ると36億年前の地球の生物の歴史までたどり着きます。その間ずっと命がバトンタッチされてきました。その最終ランナーに今自分がいて、次の世代にバトンタッチしていく役割を担っているのです。命のバトンタッチの担い手であることを知ってもらうには、自然環境の中でいろいろな体験を積むことが一番よいと考え実施することにしました。環境学習においては、フィールドで応援してくれるNPOやボランティアの方々の支援が必要です。ようやく4年前に体制が整ったので、一斉に始めることができました。
 そのようなフィールドを提供いただいている小倉さんのようなグループの支えがあって初めて、この環境学習は成立していると、改めて思いました。

暮らしの向こう側にある自然への意識
知 事  岩木さんは、幼稚園や保育所の先生に指導をされていますがいかがですか。
岩 木  幼児の場合は、保育自体がそのまま環境学習につながるところがあります。幼稚園や保育所の先生が、自身の環境観や保育について見つめ直せば、日常の中にできることが多くあることに気づいてもらえると思います。直接触れあい感じる体験をどのように子どもたちに提供するのかを具体的にイメージしてもらえるチャンスになっていると思います。


知 事  体験指導などもされているのですか。
岩 木  体験と一言で言っても、何かすれば体験学習になるわけではありません。一番大事なのは、無意識の思い込みが揺らぐことではないかと思います。都会の中にも小さな自然はあります。当たり前だと思っている風景の中にも感動があり、その感動が心に残り、当たり前のことを違った角度から見ることにつながっていく。そのような体験をどう提供するかを大事に考えています。
知 事  簡単なようで難しいですね。
岩 木  子どもたちは、おそらく日常生活の中で余り五感を使っていないと思います。目で見たり、どこかで聞いたりしたことはあるけれど、手触りや匂いが抜けていたりします。
知 事  実際、知識と実物とが同じ物として理解されていないところが問題です。魚を三枚におろすと、骨のない切り身だけができます。骨がどう身にくっついているのかというイメージがないと、切り身から魚を想像するのは難しい。それをイメージさせるには、現場に行かせるのが一番です。
 先生たちにはそこを強調するわけですね。
岩 木  先生たちにも直接フィールド体験をしていただきます。いかに自分が視覚以外の五感を使っていなかったかということをとても感じておられます。
知 事  そういう意味では、先生自身にそのような体験をしていただくことは重要かもしれません。
 私は山歩きで六甲山に入りますが、30分で深山幽谷の雰囲気を味わえます。ところが都会の中で日常生活を過ごしていると、そのような機会がありませんから意識して行かなければなりません。自然と接するライフスタイルをどのようにつくるかが、非常に大事ではないかと思います。
岩 木  直接自然に接する機会をつくることも大事ですし、直接接しなくても自分の暮らしの向こう側に自然があること、その自然の循環に日々の暮らしが支えられていることを何らかの形で意識する必要があると思います。

ライフデザイン研究所FLAPの取り組み
沿革
 生活協同組合コープこうべにおいて、環境・食生活分野を中心とした組合員活動の企画・支援業務に7年間従事。1999年、退職して個人事務所ライフデザイン研究所FLAPを設立。
 仕事のキーワードは参画・協働。参加参画によって新たなくらしや地域、社会を創造していこうという人や場の支援が中心業務。
 食生活や福祉、環境などのくらしをテーマとした生活者教育、それに伴う人材育成、地域課題の解決を目指す活動づくり等、活動のフィールドは広範囲。
主な取組
@体験学習:子どもから高齢者までさまざまな年齢層に向けた、「本質に迫る体験学習」の企画・実施・ツ
        ール作成(大阪府体験型環境学習支援事業、小学校体験型環境教育出前授業、明石市あ
        かねが丘学園環境プログラム など)
A人材育成:仕事や活動における課題を整理し、対応策を練るための研修だけではなく、ファシリテーショ
        ンの技量を高めるための研修、組織運営のためのコンサルティングも企画・実施(文部科学
        省学校長期自然体験活動指導者養成研修、兵庫県自治研修所職員研修・環境学習指導者
        研修会 など)
Bまちづくり:市民と市民、市民と行政の橋渡しをし、まちづくりを進めていくためのワークショップの企画・
        実施を請け負う。(兵庫県県民交流広場事業における地域支援ワークショップ、尼崎市地域
        活動立ち上げワークショップ など)

自然と向き合い生きる
知 事  お二人から、それぞれ同じ仲間や活動を展開している人達にメッセージをお願いします。
岩 木  自然と人間の関わり方が、環境問題を考える上での大事なテーマです。自然のことだけを学ぶのではなくて、そこに人間がどう関わるのかということを大事に扱わないといけません。自然に関係した体験を少しすれば、それで環境学習だという捉え方をしていると、効果のないものになってしまう心配があります。体験的に学ぶことは非常に難しいので、環境学習をきちんと効果があがるものとするためにも、学校の先生と私たちのような体験学習に携わる人間、地域のことをよく知っている人など、立場の違うさまざまな人が協働しながら、学びの場をつくるような枠組みができればと思います。学習だけではなく、自分たちの行動が、環境に直接的な影響を与えている実感を持てるような活動もしたいと思います。例えば、地産地消のエネルギーとして、市民発電所をつくるなどです。
知 事  あわじ菜の花エコプロジェクトのような、廃食用油を回収し、還元して使うという動きもあります。
小 倉  小学校の環境学習をしていて一番感じることは、子どもたちとその背後の親の生活も含めて、生活に結びつけることが大切だということです。そうでないと自然やいのちを大切にする心は育ちません。もう一つは、自分で一生持ち続けられる体験を実際にしなければ、絶対に身につかないということです。水の中で一度でも転ぶと、一生覚えているものです。そのような原体験の積み重ねがなければ、子どもたちがありのままの自然を好きになれないと思います。

三木自然愛好研究会の取り組み
沿革
 自然環境の保全を市民ぐるみの活動に発展させるため平成9年3月に同会を設立。平成22年に特定非営利活動法人格を取得し、現在に至る。
 絶滅危惧種が多数生息する三木市増田地区の保全を市や関係機関に働きかけ、平成13年の自然公園(ふるさと公園)の整備に貢献。同公園を拠点に、環境体験事業や地域住民との交流事業等を実施。 
 平成23年に「ひょうごの生物多様性保全プロジェクト」に選定。
主な取組
●ギフチョウ、ササユリ、シジミオモダカ等の再生活動
●ふるさと公園の30種に及ぶ絶滅危惧種の保全のほか、特定外来生物の駆除やその生態研究の実施
●自然環境教室「親子川がき教室」や「春の親子自然教室」の開催等、三木の自然を教材に自然愛護を
  担う子ども達の育成や小学校の環境体験事業の積極的なサポートなど、環境学習・教育に精力的に取
  り組む
●会誌「おもだか」や広報「三愛だより」、自然愛護カレンダー「ふるさと野のこよみ」の発行など、市民に対
  し幅広い啓発活動を実施。平成19年には、同会10周年記念事業として、「ネイチャーブック三木の自然」
  を出版
●里山の再生をめざし、県森林林業技術センターと協働でホンシメジの栽培を開始(平成21年〜) など

知 事  小倉さんの話と関連しますが、我々が子どもの頃は、まわりは自然だらけでしたので、遊びながらでも、先ほど話のあった原体験を自然に積むことができました。今はほとんどの子どもたちは都会にいますから、意識的に体験を積まないと学べません。経験したから今があるというわけではありませんが、少なくとも我々と同じぐらいの体験や経験はして欲しいと思っています。自然とのつながりや自然との共生という言葉をよく使いますが、実体験がないと理解できないはずです。
小 倉  昨年、ふるさと公園でザリガニによる被害について子どもたちと学習したことがありました。大人なら捕まえたらすぐに踏みつぶすところですが、小学校3年生の前ではそれはできません。ザリガニにも命があります。命を大切にしようと教える立場の教師が踏みつぶせとは言えません。命の大切さをどう理解してもらうかが大変でした。
知 事  どうされましたか。
小 倉  自分たちが保護している水草がザリガニに食べられて2、3日で消えてしまう。その結果、池にはトンボのヤゴも減り、魚やメダカもいなくなった。さまざまな調査をすることにより、子どもたちが、「ザリガニさんと今まで住んでいた魚やメダカなどと、目方を量るとどちらが重たいのかな」と言い出しました。
知 事  ようやく比較ができるようになってきたということですね。
小 倉  結局、ザリガニは死んでもらわないといけないと子どもたちが言いましたので、楽に死なせてあげることになりましたが、問題はそこからです。子どもたちが理解できても、「かわいそうだから放してあげて」と言う家族もいますので、家族を説得しないとダメです。ある女の子がおばあちゃんを説得したそうです。すると、そのおばあちゃんが「すごい勉強をしていますね」と私に手紙をくれました。「べつにすごい勉強はしていません。私が子どもから教えてもらいました」と言って笑いました。
知 事  それはいい話ですね。
岩 木  現実にきちんと向き合い、葛藤して対峙することは大事ですね。
知 事  その子はこれからもよく学んで、自分で判断できる子に育ちますね。
小 倉  環境学習で学んだことを生かせるような子どもに将来なって欲しいと思います。
知 事  大変素晴らしい貴重なエピソードを聞かせていただきました。子どもの目線や考え方に立ちどう考えるかが非常に大事だというお話を伺った気がします。
 大人も子どもも「自然と向き合い生きる」とはどういうことか。これは永遠のテーマかもしれません。本日はありがとうございました。