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ネットワーク第128号 特集


こころ豊かな美しい兵庫推進会議 総会

【講 演】
「東日本大震災について・・・連携と協働の視点から」

平成23年6月13日(月)
於 兵庫県公館



 
 ひょうごボランタリープラザ所長
関西学院大学総合政策学部教授
室 ア 益 輝 


東日本大震災の概要
 東日本大震災とそれにかかわる連携のあり方について少し話をさせていただきます。
 連携の話の前に、簡単に東日本大震災はどういう地震かということをお話ししたい。4つのキーワードで話ができると思います。
 一つは巨大。我が国の地震観測史上最大のものだということ。M9.0というのはなかなかイメージが掴みにくいが、阪神・淡路大震災の200〜300倍のエネルギーが放出されました。動いた断層の長さは、南北500キロメートル、阪神・淡路大震災が数10キロメートルなので、ほぼその10倍以上の長さが動いたと理解していただいたら良いと思います。その結果、巨大な津波が発生した。
 二番目は広域。浸水した範囲、津波に襲われた範囲は八戸から福島まで500平方キロメートル。東京の山手線の中の8倍の面積とよく説明されています。被災市町村の数が300を越えました。阪神・淡路大震災は25でしたので、300というのはとてつもない数字です。例えば、一つの自治体に、仮に1日数十人〜数百人の応援の職員が必要であるとすれば、1日約3万人の応援職員が必要なことになる。支援がまったく入らない町とか村が出てくるわけです。
 三番目は複合。地震と津波だけではなく、福島の原発の被害があり、火災の被害もあった。火災の被害面積だけで、阪神・淡路大震災に匹敵するくらいの面積になっている。コンビナートと危険物施設が次々と炎上しており、その結果、ガソリンが足りなくなるということになった。さらに風評被害により日本全体の経済が大打撃を受けた。
 四番目は欠援。あまりに大きな被害が起きているにもかかわらず、ガソリンが足りないから行かない方が良いとか、被災地は危険だからボランティアは行かない方が良いなど、一部デマも含め、いろいろなところで支援にブレーキが掛かり、日本全体の応援が上手くいかない。いつまで経っても被災地では瓦礫が片付きません。阪神・淡路大震災と比べるとまったくの進展の遅さです。これが被災地の一番大きな問題です。瓦礫が残っているということは心理的にも大きなマイナスです。被災者が復興が進んでいると感じない。健康面の問題もあります。瓦礫の山から蚊やハエが発生するなど、夏まで瓦礫を置いておいたら大変だが、これが片付かない。

問われた社会的連携のあり方
 ★協働連携の光と影
 今回のボランティアの特徴は、多くの専門ボランティアが被災地に入っているが、一般のボランティアが増えないということです。今、本当に必要なのは、避難所で炊き出しをするとか、掃除をしてお世話をするとか、お年寄りの声に耳を傾けるとか、ヘドロを掻いたり、後片付けをするという一般ボランティアです。今のところボランティア数は1日に4000人程度です。阪神・淡路大震災では、最初の1ヶ月間で1日2万人。東日本大震災は、最初の1ヶ月間で1日2000人です。単にボランティアの数が問題なのではありません。東日本大震災は発災から最初の約1週間、物資が入らなかった。
 震災関連死は、阪神・淡路大震災の時は最終的に900人とカウントしているが、今回、報道関係の調べでは、2ヶ月で525人、毎月200人ほどが病院や避難所で亡くなっていると言われています。有りとあらゆるモノが津波で流され、着の身着のまま寒空で10日間放っておかれ、低体温症、ノロウイルスの感染で亡くなった方が多かった。今は、脳梗塞や肺炎などで亡くなる人が出てきています。これが支援の空白です。
 ボランティアには5タイプあります。一つは団塊の世代。二番目が阪神・淡路大震災の時にボランティアを経験したという40代位の世代。三番目が25、6歳のフリーターの人たち。四番目が大学生、五番目が地元の中学生、高校生。それぞれ5分の1ずつです。大学生の割合が非常に少ない。大学生にブレーキが掛かっている。東京の大学は計画停電の関係で大学が休みになり、それでボランティアに行けというのかと思うと、逆にボランティアには行くなと自粛するポスターが各大学の学長名で張り出されました。関西もそれに近い状況でした。力仕事もそうだが、おじいさんおばあさんや小さな子どもたちにとって、大学生ほど魅力的なボランティアは他にはいない。大学生が動かないというのは大きな反省点です。NPOは何百と被災地に入っているのだが、連携が取れていない。あまりにも広域的なので連携のコーディネーションができないのかもしれない。
 そういう中で、幾つかの良い教訓が生まれてきています。一つは内側から、地域のコミュニティが非常に頑張ったということ。1週間どこからも支援が来てくれなかったので、結果として地域が頑張らざるを得なかったのか、東北地方の独特のコミュニティの強さなのかわかりません。ただ、独特のというのは非常に難しくて、コミュニティの結束力が強いということは、外からは入りにくい「壁」にもなるという面もあります。しかし、支援が入らない時には、最後はコミュニティの力なのだと思います。支援が無いときの自立力、内側からの支援の結束力が重要だということです。コミュニティの大切さがよくわかります。

 ★支援の協働連携の問題点
 まず、情報の共有化です。一番大きな事は、どこにどういうニーズがあるのかを把握するということ。当たり前のことだが、大きな被害を受けた時ほど、SOSの発信力が弱い。今回は電話、携帯が全部駄目だったので、被害に遭った人は助けてほしいと言えないのです。そういうときは、押しかけていって、支援する側がニーズを探す必要がある。では、壊滅的な被害を受けた時のニーズは、どのようにして掴むのか。
 今回の地震では、避難所にボランティアが入ることを非常に嫌う傾向があります。被災者の生活に土足で入られては困りますと言われる。でも、それは違うと思います。(避難所に)入った方がニーズを掴めます。学生を含めて皆がボランティアに行きたいと思っているので、情報の共有化が必要なのです。今回はニーズとボランティアを繋ぐ糸が十分でなかったのではないかと思います。
 また、支援、善意は極端に言えば役に立つ、立たないに関わらず受け入れるべきだと思います。助けようという暖かい気持ちは受け入れてこそ、信頼関係に繋がるし、次の支援に繋がる。それが受援力です。
 関連してもう一つは要請主義という悪しき伝統です。要請があれば助けに行く、その時の経費は要請した方が持つ、これが自治体の要請主義です。今回のような場合は、どんどん被災地に入っていって、ニーズも見つけ出すということをしなければいけません。被災側も来て下さいと言わなければいけないし、双方のあうんの呼吸みたいなものが必要です。そうしないと支援は上手くいかない。

 ★地域コミュニティの重要性
 他方、今回の災害では、地域コミュニティが大きな役割を果たしました。東北地方には“津波てんでんこ”という伝承がありますが、「てんでんこ」は「津波が来たら、肉親に構わず、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」がこの伝承の本来の意味ですが、これは皆が自力で逃げられるようになりなさいという事だと思います。助けてもらわなくてもいい社会をつくりなさい、助けが来なくても助かるように、自立した人間になりなさいということなのです。では小さな赤ちゃんと年寄りはどうするかというのは、厄介な今後の課題です。

 ★多様な担い手の登場
 今回、災害ボランティアだけでなく、多種多様な担い手がボランティアとして支援活動に参加しています。裾野が大きく拡がったところで、企業が非常に頑張ってくれている。今回はいろいろなところで企業の力が輝いており、新しいボランティアの世界ができたように思います。これからは、行政とコミュニティ、NPOと企業、これら四つが連携するような支援のシステムが必要なのではないでしょうか。
 しかし、その拡がった分だけ連携や調整が難しくなり、一般ボランティアが増えないのです。

 ★新しい形での連携
 もう一つの視点は、中国での「対口支援」の方式です。親鳥が雛に餌を与えるような支援の方法、元気な人が傷ついた人に手を貸す関係ということです。関西広域連合は、いち早くカウンターパート方式を取り入れ、地域割をして応援する地域をきちっと決めることで支援の空白を無くし、支援の持続化を図り、率先的な支援を引き出した。これは非常に有効であると思います。また、専門分野別に、例えば家屋の罹災状況の判定など、一般の行政職員が行うのが困難な業務は、ノウハウを持つ兵庫県が受け持つなど、ある特殊な技能を持った集団は縦割ではなく、専門分野別に幅広く支援をしていくような横糸の支援も必要になるのではないでしょうか。

 

これからの連携協働
 ★協働の正四面体の構築
 今回の災害では、支援の輪が大きく拡がっている分だけ、連携のコーディネーションが難しくなったといえます。一般ボランティアを上手く送りこむシステムが出来上がらなかった。プラス面は、いろいろなボランティアの裾野が広がり、企業も参加するようになったということ。地域のコミュニティがしっかり頑張るということが明確になったこと。「対口支援」という新しい広域支援のシステムができたということだと思います。
 東南海・南海地震が今後30年以内に起こる確立は70〜80%まできています。この地震に対する準備をしっかりやらなければならないと思います。そのために、東日本大震災で表面化した連携の良い面と悪い面を受けて、どうやって関西地方で新しい協働のシステムをつくるのか、厳しく問われているのではないかと思います。
 私は協働の正四面体にこだわっています。地域レベルの正四面体というのは行政とコミュニティとNPOと企業。小さな企業が非常に良く頑張っています。単に社会に貢献するということよりも、支援活動をすることによって企業が力をつけるという発想になってきていると思います。この四つが同じ距離をとり、正四面体としてしっかりスクラムを組んで壊れない関係を築く。「新しい公共」の国の交付金も活用しながら、地域に密着し地域の状況に応じて、新しい兵庫モデルをつくれば、今後の東南海地震等に間に合うと思うのです。
 被災者の声をボランティアが拾い、それを行政に提案・提言することが重要ですが、それを行うNPOのプラットホームと全国社会福祉協議会と日本赤十字の果たす役割も考え直さなければならない。さらに専門家とメディア、民間団体、文科省は、日常的に専門家の知識の共有を図るなど、新しい減災のための協働のネットワークを確立する必要があるのではないかと思います。