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ネットワーク第127号 特集

 
集落丸山(Photo 清水亮) あこがれ千町の会 
    
特集 元気で魅力ある地域づくりを進めよう

 過疎化、高齢化の進展とともに、兵庫県でも多自然地域を中心に地域の活力が失われつつある中、県民の皆さんの自主的・主体的な取組による賑わいの創造や地域の活性化に向けた活動が進められています。
 今回は、県内で小規模集落の再生に取り組んでおられるお二人が、「元気で魅力ある地域づくりを進めよう」をテーマに知事と語り合いました。

 丸山自治会長
 あこがれ千町の会代表
 兵庫県知事
 司会:兵庫県広報専門員
佐古田 直實さん
増田 大成さん
井戸 敏三
米田 裕美
 

小規模集落で地域づくり活動を展開
司  会  小規模集落で元気な地域づくり活動を展開されている篠山市丸山地区の自治会長である佐古田直實さんと、NPOひょうご農業クラブ理事長であこがれ千町の会代表の増田大成さんをゲストにお話しを伺います。丸山集落は篠山市のどのあたりにあるのですか。
佐古田  篠山城跡から5キロほど北側の谷筋を入った一番奥の集落です。人口が5世帯19名と、本当に超小規模集落です。家が12棟あり7棟が空き家です。訪ねて来られた方は、30年前にタイムスリップした感じで、自然がそのまま残されていると言われます。逆に、今まで見放されていた地域と言えるかもしれません。
司  会  空き家を利用して農家民泊を営まれているそうですが、一般の民宿とは違うのですか。
佐古田  日本の田舎暮らしや農業を体験するための宿舎です。集落内には空き家が多く、「朽ちてつぶれるのはもったいない。」などのご意見をいただいたので、まちおこしの一環として農家民泊の営業をスタートしました。
司  会  増田さんたちの『あこがれ千町の会』はネーミングがすごくユニークで、魅力的ですが、どのような由来ですか。
増  田  昔は、『むら』から『まち』にあこがれて出て行った。これからは、むらをあこがれの的にして、人が来る、帰ってくるような、むらづくりをしていこうと、『あこがれ千町の会』という名前をつけました。
 千町は宍粟市一宮町のずっと奥のほうです。周囲に千町ヶ峰など1000メートル級の山が5つあり、その山に囲まれた650メートルぐらいのところにある高原盆地です。21世帯51名が住んでいます。日本昔話に出てくる山里そのもので、素晴らしいところです。
 休耕田、放棄田が随分増えてきているので、それをもう一回耕し田畑に返して、野菜づくりをして、その野菜を都市の皆さんに食べていただく。まちの人が一緒にやっていることに大きな特徴があると思います。

増田 大成さん


司  会  知事、お二人の地区は、県の小規模集落元気作戦のモデル集落でもあるわけですよね。
知  事  私が但馬の養父市岩崎(いわさい)集落を訪問したときに、「私たちの地域があと10年したらどうなっているかを考えると、なくなってしまうのではないかと大変心配です。どうしたらいいでしょうか」という難しい質問を受けました。その時に申し上げたのが交流だったのです。地域の方々だけで、むらの将来をつくり上げていくのも大事だけど、外の力を借りて協力しながらむらづくりを進めていくことも大切。交流の促進を通じて、地域に元気をつくり出していくことができないだろうかと始めたのが小規模集落元気作戦です。第1段階はパートナーを探す。第2段階は交流を続ける。第3段階は本格的な交流事業を展開する。
 丸山、千町も含め、31のモデル集落を指定し、県・市町職員、アドバイザーなど担当を決め、議論をする体制を組んで推進しています。また、年1回、活動実績の発表会を開催し、情報共有に努めています。

井戸 敏三

地域資源を生かした交流
司  会  お二人の活動を詳しくお聞かせ下さい。むらの運営が行き届かなくなっていった現実や集落に対する危機意識はあったのでしょうか。
佐古田  危機感は高まってきていました。むらに不在の方の土地や田畑を預かっています。収益を上げることはできないけど、先祖から預かっている土地に草を生やさないために農業はします。しかし、お墓掃除は他人がするわけにいかないので、懇親会などで、むらに不在の方に「お墓掃除に帰ってきてください」とお願いしたら、帰ってきてくれるようになりました。「集落は家族」という感じで、小さいながらもまとまっています。
 小規模集落元気作戦のモデル地域になったこと、そして平成21年の丹波篠山築城400年祭をきっかけに今後100年を見すえたまちづくりのためのワークショップをしたことで、外部の方から、私たちの地域の良さを教えていただくことができました。かやぶきが立派な建物と評価され、それを生かしてまちの人を呼んで活性化しようという動きになってきました。

佐古田 直實さん

司  会  知事、古民家を活用しようという動きは、県内にも広がっているのでしょうか。
知  事  古民家を使いたいというお申し出が随分あります。古民家を改装して、地域の文化の伝承活動や子育て支援の拠点、地元特産物の加工販売所等にするなど、積極的に利用されるケースも出てきています。
増  田  千町も小規模集落のモデル地区の指定を受けています。縁あって千町をお訪ねした時に、私は自然の豊かさ、環境のすばらしさに一目ぼれし、むらの人たちの細やかで厚い人情、お人柄にほろっとしました。
 共同作業には、むらの人たちは全21戸から皆さん出てきてくれます。まちからは伊丹、姫路などから約40人。年代も70代から20代まで、職業もさまざまです。移動は往復6時間、現地での仕事は4時間か5時間という状態ですが、それだけの魅力を千町が持っているのだろうと思います。まちから行く人間は、援農に行っているわけではないのです。一緒にむらづくりをしているのです。

集落丸山の取り組み
              集落丸山 所在地:兵庫県篠山市丸山30
                     代表者:丸山自治会長 佐古田直實
集落の特徴
●篠山市役所から北東に5km、県道沿いに形成。環境の荒廃はそれほど進んでおらず、高品質の茅葺民家で構成された懐かしいふるさと景観が色濃く残っている。
●5世帯19人が居住、少子高齢化が進行し、高齢化率32%、12軒中7軒が空き屋。
●農業の担い手不足や耕作放棄地の増加、獣害の拡大などにより地域全体の環境管理が困難な状況となっている。
主な取組   
●「集落は家族である」の理念の下に、使われなくなった個人資産を地域の共有財産と考え、他地域に住む財産相続者に代わる地域の協働管理体制を構築。生きがいある自立した地域経営の創造を目指して丸山集落の不動産(空き家や未耕作農地)を総合的に管理維持し運営する「集落丸山」を設立するとともに、専門家と連携する有限責任事業組合(LLP)を設立した。
●国土交通省の「地域住宅モデル普及事業」の支援を受け、無償で借り受けた古民家を改修、集落丸山と一般社団法人ノオトが連携して運営管理する農家民泊を平成21年10月から開業。平成22年10月に1周年記念祭を開催。

まちとむらの本気がエネルギーを生む
司  会  地域づくりに向けて行った意見交換会ではどのような成果があったのでしょうか。
佐古田  ワークショップと学習会を開催しました。学習会では、地域資産を再評価し、住民の意識づけや気づきにつながりました。まちのひとが評価してくれるなら、手伝っていただいて積極的に守っていこうかと。


知  事  再評価された具体的な事例にはどんなことがあるのですか。
佐古田  星が見える。水がきれい。お米がおいしい。それはすごく嬉しかったです。
司  会  増田さんも準備の段階では、じっくり時間をかけて、関係を築かれていったのですか。
増  田  約一年かかりました。最初は一人で、そして仲間と一緒に行くようになりました。最初のころは、私たちから提案する形で話をしていましたが、半年ほど過ぎたぐらいに、ガラッと変わりましてね。完全にむらの皆さんがイニシアチブをとられて、どんどん話が進んでいきました。一緒にやるかどうかを決心されるのに、半年かかったようです。
知  事  一つは、本当に真正面から交流ができる関係をつくること。もう一つは、地域の人たち自身に、自分たちが地域おこしに立ち上がらなければいけないという自覚ができること。この二つに時間がかかったということではないかと思います。
増  田  本気と本気がぶつかるエネルギーから、さらに大きなエネルギーが生み出されたと思います。まちのメンバー一人当たり3万円ずつで約90万円集めました。むらが宿泊所まで作り、たくさんお金がかかったので、その90万円を「むらに使ってください」と申し出ましたが、「要りません。これは私たちのむらの将来のための投資だから、私たちでやります」と言われました。この本気は裏切るわけにはいかないです。

あこがれ千町の会の取り組み
        あこがれ千町の会 所在地:兵庫県宍粟市一宮町千町
                     代表者:会長 藤原拓美・代表 増田大成
集落の特徴
●標高1000mを超す高い大きな5つの山に囲まれた高原の小さな盆地。
●21世帯51人が居住、高齢化が進行し、耕作地(8ヘクタール)の7割が休耕田や耕作放棄地。
●山林関係の仕事をしているものが多く、集落内には「揖保の糸」の素麺工場もある。集落のつきあたりには、しそう森林王国協会の拠点施設が存在する。
主な取組  
●共同作業での耕作放棄地の再生、収穫した農産物の都市部での販売を行い、将来的には加工品の販売まで事業を拡大し、都市部住民との連携により小規模集落が引き続き経済的に自立できるモデルとなることを目的に活動している。
●毎週2回も都市部住民が泊まりがけで千町集落まで出向き、農作業を行っている。
●平成22年11月には、六甲アイランドの収穫祭に出店。千町の住民が持ち寄った大根や人参等の収穫物を、六甲アイランドの住民も加わり販売し、野菜15万円、もち10万円を売り上げた。
●千町集落側も、「とにかく元気な千町にしたい。住んでいる人が楽しい千町にしたい。」との目標のもと、同会の活動に参画している。

活動継続のポイントは信頼と協働
司  会  活動を続けていく、ポイントはどのようなものでしょうか。
佐古田  外部の人の言葉に耳を傾けること、また、そこから信頼関係を育むことです。
 農家民泊は一つの例で、まちおこしの輪がもっと広がってほしい。私の最終的な目標は、放棄田を再生し、荒れた山林を整備することです。
増  田  むらの人とまちの人との協働がうまくいったこと、それから行政の役割がすごく大きかったような気がします。宍粟市の担当、県民局を含めた県の担当の皆さんたちが参加することで、一緒に物事を進めるようになってきたのです。
司  会  佐古田さんや増田さんたちのような取り組みが、県内各地に広がっていくことによって、兵庫県全体がもっと元気になっていく気がするのですが。
知  事  人口が増えているところは、神戸と阪神南と阪神北だけで、あとはみんな減っています。高齢化率が40%を超えて世帯数が50以下の小規模集落、これが約270地域。10年後も、持続可能かどうか、持続力があるかどうか。小規模集落元気作戦をモデル的に展開しているのは、ほかの地域でも取り組んでもらうのが狙いです。
 一方、私は極端な例として、集団移転することだってあるかもしれないと思います。これからの10年、自分たちの地域をどうしていくかということを考えていただかなきゃいけない。生活を営まれることによって地域全体が維持されている。一つの保全地域になっているわけですね。しかし、生活が営まれなくなると、地域全体の放棄田が増加し、山の放置で水害にも弱くなるので、県土を守ることも考えていく必要がある。このため平成23年度からベテランのアドバイザーに相談にのっていただき、むらの将来を検討するプロジェクトを立ち上げることにしています。
 また、交流拠点を整備する中で、休憩所にシャワーだけじゃなく風呂もほしいとか、寝泊まりができるところがほしいといった希望が出てくると事業費が大きくなる。それに対して助成ができるようにということで、その計画づくりと整備を支援していくことも始めたいと思っています。

ひょうごボランタリープラザの取り組み
            所在地:神戸市中央区東川崎町1-1-3 神戸クリスタルタワー3階
            連絡先:TEL:(078)360-8845 FAX:(078)360-8848
 ボランタリー活動の全県的な拠点として、平成14年6月にオープンしました。
 県民の参画と協働による「新たな公」の担い手づくりをミッションとして、5つの機能を核とした事業・取り組みを展開しています。
 また、一昨年8月の台風9号災害時に、災害救援ボランティア支援センターを設置し、ボランティア活動支援拠点としての役割を果たしました。
 
交流ネットワーク 活動資金支援
 「ひょうごボランタリー基金」の運用益をもとに、NPO等の立ち上げ期から発展期に至るまでの、多様なニーズに対応した支援を実施しています。
 草の根のボランティアグループの活動を支援するため、毎年約3千のボランティア団体・グループに対して、県民ボランタリー活動助成を行っています。
 団体・NPOと企業等の間で資源のマッチングを図る事業や、NPOと行政が様々な分野の地域課題について協議を行う協働会議等を実施しています。
 ボランタリー活動を行う団体は「交流サロン」のセミナー室、ミーティング・コーナーや資料コーナー等をワーキングスペースとして活用できます。
  人材養成
 団体・NPOの人材育成支援事業や、災害時に核となるボランティアコーディネーター等に対する災害救援ボランティア養成研修を実施しています。
情報の提供・相談 調査研究
 インターネットを利用した「コラボネット」(「地域づくり活動登録」、「ボランタリー活動支援ナビ」、「イベント情報」やメールマガジンなど)によりタイムリーな情報の収集・提供・発信を行っています。
 NPOの設立や運営などについて、専門職員によるきめ細やかな相談等を実施しています。
 ボランタリー活動に関する社会的な課題や支援方法について、様々なテーマを設定し、調査研究を実施します。

小規模集落を生活が持続できる空間に
司  会  今後の活動への抱負などをお願いします。
佐古田  滞在型の農家民泊の営業は、一応10年間の期限を切っています。10年後も継続するかの判断は次世代に委ねます。それまで下地作りを一生懸命頑張って、継続できるようにしたい。まちに出ている方も誇りを持てる地域であると再認識して、地元に帰ってきてほしい。全戸12棟に、明かりが灯ってほしいと願っています。
増  田  小規模集落を活性化するために取り組みたい。むらの中の休耕田や放棄田をなくすための道筋をどうたてるか、1年かけてやっていきたい。小集落で農業がきちっとやれるということを証明しない限り、若い人たちはそこに定着できない。今年、大卒の男性が活動メンバーに入ります。農業ができるか、可能性を見つけ出していきたい。兵庫県から過疎地をなくすということに、もっと力を入れなければならない。人口の移動を促進するような状況をつくり出していくことが大きな仕事だと思います。
知  事  小規模集落に住んでおられる方々が生活を持続できるような空間にしていかないといけない。都市の人たちが訪ねる交流を、もう一歩進めて、『二地域居住』を実現したい。都市の人たちは週末などに小規模集落で生活をする。小規模集落の人は都市にも生活の本拠を置いて、文化的な活動などで都市生活を味わう。生活の本拠は小規模集落。人口の絶対量が減っても交流人口は絶対に増える。兵庫の活性化の基盤にならないかなと願っています。お二人が、元気な地域づくり活動を今後ますます活発に展開されることを、心から願っています。